獣姫ちゃんと女騎士
「……」
結局あの後誰も戻ってこなかったから、俺は1人で城内をうろついていたのだけれど、突然ジイと騎士たちがやってきて俺を担ぎ上げて部屋の一室に押し込んできた。
その部屋には騎士たち数人とジイ、その中央で俺はぽつんと置かれた椅子に座らされ、そこで不貞腐れるように頬を膨らませていた。
「ささっ姫様、まもなく姫様の護衛騎士がこちらに来ますよ」
「いや、1人でいいんだけれど――」
「なりませぬ! どこの国に姫様を1人でいさせる国がありますか!」
「あっはい」
それはそうなのだけれど、出来れば1人でいたい。
一応前もって説明はあったんだけれど、そのキャラクターのおかれた環境によって初期能力、協力者、持ち物、所属が違うらしく、その恩恵も扱うも捨てるもプレイヤー次第らしいけれど、これもその恩恵というものなのだろうか? 姫という立場上護衛は必要で、これからプレイするにあたって、その護衛が討伐とかに役立つとかだろうか。
でもなぁそれがNPCであると正直鬱陶しさがある。
ここはなんとしても拒否する流れで行くか。
俺はこれからの行動を決め、やっと覚悟を決めた。
すると部屋を叩く音が聞こえ、俺は扉に目をやる。
ジイが入ってくるようにその扉の先の人物に声をかけると、扉が開き、鎧に身を包んだ女性が――。
「――」
鎧に身を包んだ黒髪をなびかせた長身の女性が部屋に入ってきた。別に見とれていたわけではないけれど、随分と綺麗な女性が騎士をやっているものだと感心した。どういうわけか無性に気になる人だ。
「姫様、こやつは先日行われた姫様の護衛騎士選抜大会にて見事優勝を果たした人物ですぞ。その腕はさることながら、民や他の騎士にも信頼を置かれていまして、必ずや姫の助けになってくださるでしょう」
「初めまして姫様、どうかあなたのお力になりますので、わたくしを傍に置いていただきたくぞんじます」
「……」
およそ嫌そうな顔を浮かべる俺に、この女性騎士はイヤな顔一つしない。きっと優れた人物なのだろう。
ならばなおさら、やっぱり遠慮したい。
せっかくならこういう助けは使わずに色々と成したい。
そんなことを考えていると、突然ステータスボードが開き、新たなクエストが発生した。
『護衛騎士の選定』
俺は首を横にそらし、その文章を読んだ。
やっぱリクエストだったか、今まではクエストで報酬があったけれど、これは一体何が……いや、何も書いていない。つまり護衛騎士そのものが報酬か。
「――」
「う~ん」
「姫様?」
「よし! ジイ、やっぱり私に護衛は必要ないわ!」
「姫様、我儘を言わないでください。姫である自覚を――」
「私より弱い者が護衛についても意味はないでしょう?」
ふふんと鼻を鳴らしどや顔でジイに言い放つと、意外にも反応をしたのは女性騎士であった。
「……姫様はわたくしよりも強いと?」
「ええ! 私はそれなりに強いわよ。なんだったら今ここで試してみる?」
俺は彼女に手を向け、人差し指と中指をくっつけて上下に振るう。
すると女性が肩を竦め、どこから取り出したのか歪曲した刃――三日月をそのまま刃にしたような大きな武器を取り出した。
柄もなく、むき出しの刃、その刃の下部にとってのようなものが付いており、彼女はそこで武器を持っていた。
「それでは姫様、怪我では済まないかもしれませんがご容赦を――」
「上等!」
俺は大振りに振り上げられた刃を目に捉え、振り下ろされた刃を寸でのところで躱す。
この『空眼』というスキル、結構使い勝手がいい。
さっき覚えた『起施流水』を使用しなくてもある程度なら避けられる。
「なるほど。回避特化か――」
「当たってあげないもんね!」
彼女が振るう刃はすぐに慣れた。
大きくおよそ重い分動きが単調で、避けるのも容易い。これならば攻撃にも移れる。
俺は二ッと笑みを浮かべると、刃を避けてすぐに攻撃に移った。
一撃、二撃と攻撃を繰り出すのだけれど、まだまだ戦闘用のスキルがないためかあまりダメージがないようにも見える。
いや、それだけじゃない。さっきから攻撃力を確認して攻撃しているのだけれど、どういうわけか最高値に達していない。むしろ全然届いていない。
これはもしや、拳では最大攻撃力に達しないということだろうか。
なら俺が今一番攻撃力を出せるのは何か――。
「戦いの最中に考え事ですか! 隙だらけです!」
「うわっと――」
横に大きく振られた刃を飛退いて躱し、すぐに距離を詰める。
そうだ、ここに来て俺は一体何を鍛えていたのか――来る日も来る日も頭に本を乗っけて城内を歩き回り走り回り……つまり俺の武器は――。
距離を詰めると同時に、俺はタップを踏み、大地を鳴らしその場でくるくると回り、遠心力と勢いをつけて思い切り彼女に蹴りを放つ。
「――っ」
「やっぱこっちか」
攻撃力も最大まで発揮され、女性騎士は刃の面で俺の蹴りを防いでそのまま後退していった。
「……いい蹴りです」
「でしょ? だてに歩き回ってないよ!」
俺はそのまま蹴りによる連打を放ち、彼女を追い詰めていく。
しかし彼女はふっと笑みを浮かべると、俺の脚を刃で弾き、彼女もまたその場でくるくると回ると――。
「『飛彩・殿』」
刃を俺に向かって投げた。
武器を投げるなんて何を考えているんだと驚き、飛んできた刃に俺は脚を畳んで床を膝で滑り、体を後ろに逸らして刃の下から回避する。
顔すれすれに刃が通ったけれど避けきった。
俺はすぐに攻撃に移ろうとしたが――。
「『鶴翼閃禅』」
俺の両隣りに伸びてくる彼女の拳――否、突然現れた靄のような彼女の分身によって退路を塞がれ、2つの影から拳を放たれた。
「あっぶね!」
その場で尻もちをついて何とかその拳を躱すのだけれど、彼女の攻撃は止まらない。
「『追仗覇気』」
無理やり体の向きを変え、俺が察知できない死角からの攻撃を何度もしてきた。
『空眼』と『風受け』で何とか躱しているけれど、この女性、めちゃくちゃ強くないか?
「なら――」
「姫様、後方注意、ですよ」
「え――」
耳に入る風切り音――俺はハッとなり、先ほど投げられた刃がもふどってきていることに気が付く。
避けきれない――でも避ける!
「『起施流水』」
本当にギリギリだった。
髪がバッサリ切られるのかと思った。
というかこの女性、メインの攻撃は刃じゃないな。投げてから近距離戦に持ち込む辺り、本来の武器はあの拳か。
正直攻撃スキルがないから勝てるかわからないけれど、このまま負けるのも嫌だし、少し向こうでの戦いを思い出そう。
俺は大きく息を吸い、そのまま体を倒して四つん這いになって彼女を睨みつける。
はしたないかもだけれど、負けるよりはマシだ。
俺がそうして彼女を威圧していると、女性騎士は驚いたような顔を浮かべ、しかし次の瞬間には小さく微笑んだ。
「なるほど――セルネか」
「ぶぅぅぅっ!」
俺は吹き出してしまい、まじまじと彼女に目をやる。
「え、え? 誰――?」
「傷つくなぁ、剣を忘れるなんてどういう了見?」
「……」
俺は呆けた目で彼女、否、いつも俺と一緒にいたその剣――。
「く、クレイン!」
「今回も縁があるみたいだね」




