獣姫ちゃんとスキルの習得
「はいっ! アンドゥ、アンドゥ――」
「――」
頭にとんでもなく重い本を乗せながら、稽古場というか、城全体に引かれている白の線を両腕を広げながら一定の速度で歩く。
これが一体何の訓練になるのかと思っていたけれど、俺はちらと俺の傍に突然現れた画面、チュートリアルではステータス画面といったそれが現れ、こうして歩いている間もスキルという項目の数値が上がっていた。
本当に面白い世界だと思う。攻撃や防御が数値化されていて、しかも技や魔法のようなものまでも個人で管理できる。
そしてそのステータスに表示されている最大値で、その隣には現在の数値が表示されている。
俺は今、本を頭に乗せて歩いているだけだから、攻撃力と防御力の値は一般生活に必要なレベルの30~50、今の最大値が100~130となっており、数値自体は常に変動している。
ただこの訓練はAG――アジリティと呼ばれる能力、俊敏さや所謂足回りに関わる能力値らしく、その数値がどんどんと上がっている。
今では俺のステータスの中で一番高い。
このゲームを始めて現実時間で今日は3日目、ゲーム内時間で3週間がたっている。
ただこの時間、どうにもおかしなことになっているらしく、ログアウト――この世界から元の世界に戻った時、実際なら向こうにいた分の時間がこちらでも経っているはずなのに、再度こちらに戻ってきたときはほとんど時間は経過していない。ログアウトして、向こうで眠って、学園を終えてゲームにログインしたら同じくらいの時間しか経っていない。
プレイヤーと呼ばれる俺たちがいる間、時間の進みが早いようであった。
どう考えてもおかしな時間の進み方である。
それに俺がいなくてもほかのプレイヤーがいることもあるだろうし、本当にどうなっていることやら。
「はい姫! そこでターン――」
「――」
じいの指示に、俺は考え事をしているから集中を切らさないように目を閉じたまま、白線をはみ出さないように、本を落とさないようにタップを踏んでくるりくるりと回ってみる。
「ふむ」
「――」
目の端でじいが頷いたのが見えた。
なんだと軽く身構えると、どこから現れたのかこの城に務めている騎士たちが木剣を軽く振り下ろしてきた。
俺はそれをのらりくらりと躱し、なお本も落とさず、白線からも出ずにをやり遂げる。
しかし攻撃はまだ止まらない。
どうしたものかと考えこむけれど、そういえばと俺は思い出す。
この本を頭に白線から出ないという訓練。これはクエストと呼ばれるものらしく、その達成条件に、スキルの習得というものがあった。
スキルとは色々種類があるらしいけれど、このスキルは自身の行動によってそれに名前を付けるというものらしく、名前を付けるためにスキルポイントを消費するらしい。
俺は息を吐き、この3週間でずっと意識させられていた苦痛を思い出す。
本を落とせず、白線からは出られず、とにかく体の重心を意識していたせいか、自分でも重心を動かすことの意識が強く持てた気がする。
俺は片側の重心を落とし、さらに体から力を抜き、まるで水を思い浮かべるかの如く、体中に意識を張り巡らせながらも地には足をつき、倒れることのない流動――。
「『起施流水』」
木剣が振り下ろされるが、その微かな衝撃――剣が風を切る衝撃にすら体は吹かれ、風に合わせて俺は回避行動をとる。
10本の剣が俺を襲ってもそれ全てを躱し、騎士たちが飛退いた時、俺はクルりクルりと回って見せて、長い白髪とスカートをなびかせ、狼の耳を立てて、優雅に笑って見せる。
「――お見事」
クエスト達成の文字が俺のステータスボートに現れ、やっとこの白線渡りから解放されるのかと、俺はため息をついたのだった。




