獣の国のお姫様と女の子に馴染む勇者
「――」
私は手に持っていたソーサーに、たった今飲んでいた紅茶の入ったカップを置き、鼻から抜ける茶の香りを堪能しながら今の私の家……と呼ぶにはあまりにも巨大な城、そこの最上階にある王族専用の屋上庭園、風が吹くと花びらが舞い、色とりどりの花びらを目に、風と共に体に吹き抜けるのは華やかな香り――この場所にいるだけで、口に運んだ紅茶からもその芳香が香ってくるようだった。
優雅で、華やかで、争いごとなんてありはしない理想郷。私は、私であるのならあるはずのないそれを立てて、小さくつぶやく。そう、私は――。
「ひめっ! 姫様ぁ!」
この国・獣王国リリーカードのお姫様。
誰からも羨まれる美貌と笑顔を振りまけば誰もが振り向き私に締まりのない顔を向ける。
可愛い可愛いと皆が声を上げる。
「姫様ぁ! 姫様ぁぁ!」
私は髪をかき上げ、花を纏う風を一身に浴びて屋上庭園から見渡せるリリーカードの王都・ライカリンドを一望し、リリーカードの民々が健やかに育つさまを覗いていた。
「ひ~め~さ~まぁぁぁ!」
「……」
私は再度紅茶を飲み、喉を歩む香りを胃に届けると肩を竦ませる。
そろそろ反応したほうが良いだろう。
「うっさいよもうっ!」
「姫様! なんて言葉遣いをっ、爺は悲しいですぞ」
「あ~はいはいごめんなさい。じい、何度も言っておりますが、わたくしは戻りませんわよ!」
「何をおっしゃいますか! また稽古をサボって――」
「もうヤダぁ! なんで毎日毎日頭に本乗っけて城んなか走り回らなければならないんだよぅ!」
「この国の王族として生まれた者の務めでございます!」
このやたらと声のデカいおじいさん、私の教育係というか執事というか、長年この王族に仕えているおじいさんらしい。
そんな爺がぺたんと折れていた耳をピンと立たせ、私に向かってすごい剣幕で近づいてきた。
「ふんっ!」
「ぐぇぇ!」
頭に本を叩きつけられ、私は痛みに声を上げた。
せっかくの可愛い私の耳がこれ以上ぺったんこになったらどうするつもりだ。
「さあ姫! 今こそ務めを果たすときですぞ!」
「本を乗せて徘徊する務めってなんだよぉ!」
じいに無理やり引っ張られ、私は城の内部へと連れ戻される。
そんな状況に涙が出そうになるけれど、これがゲームなんだ。色々説明があったけれど、とにかく流されるままに行動すればいいのだとこのゲーム時間の1週間で学んだ。
けれどそれでも、これがゲームだということはわかる。でも、でも……。
拝啓、現実にいる父上、母上、わたくしは元気にしております。
王都でもかの魔王様の商品に興味が尽きないと、陛下から直々に使用感の報告を依頼されましたが、この状況に些か困惑しております。
使用感についてなのですが、まだまだ遊びきれておらず、陛下も父上もぜひに遊んでみるのがよいと思われます。最初のチュートリアル、『己を己自身にゆだねるか』の問いには、『いいえ』とお答えください。私と同じようになります。
自分とは違う自分――世界も、巻き込む環境も、何もかもが異なり、新しい自分、新たな自分。それを体験できる。そんなゲームであります。楽しめると思いますのでぜひ父上も、絶対に、父上も、本当に、父上も、試したほうが良いと思います。
それでは長くなりましたが、報告を終わらせていただきます。敬具
セルネ=ルーデルより――。




