魔王ちゃんと物を作る者たち
「ヘリオス先生、アンデルセン――お父様の許可出たぞ!」
お父様との会議が終わり、その脚でヘリオス先生がいる学園の私室へと脚を進ませたのだけれど、案の定そこにはアンデルセンがおり、扉をあけ放った僕を先生は苦笑いで、無王は手に持ったティーカップとソーサーを一ミリもずらすことなく、紅茶の香りを楽しんでいた。
「リョカ=ジブリッド、俺はここの教員ではないから知らないが、女の淑やかさというのはそれなりに武器になるということは教えないらしいな」
「失礼なことを言うなアンデルセン、そこのジブリッドの令嬢はこの国の国王すら跪かせる、その武器を使う相手は限られる」
「なるほど、ならば俺たちも跪いておくか。ああ麗しき白銀の令嬢よ、大地を踏む踵の音色も斯様に花を舞わせるだろう」
「ああ、あなたほどの麗人に開けられた扉も果実が熟す如く赤みが増すだろう」
「ああもうっごめんなさい! 埃舞っちゃうね! 扉も強く開けすぎて痛かったねごめんね!」
初手嫌味――僕はその場でうな垂れ、ヘリオス先生が用意してくれたお茶を受け取り、部屋のソファーに腰を下ろして大きく息を吐いた。
「さて、落ち着いたところで何か報告があるようだねリョカ=ジブリッド、どうぞ」
「……」
僕はむすっとした顔を浮かべるのだけれど、すぐに余所行き用の表情を浮かべ、佇まいを正して先生とアンデルセンにその場で小さく頭を下げる。
「ヘイルオーズ・クロス=ヴェルフェンドライ様、アンデルセン=クリストファー様、わたくし如きにお時間を作っていただき光栄でございます。この度はジブリッド商会の新商品開発のご助力、感謝いたしますわ。つきましては父よりご協力いただいたお2人に報酬と利権、そして幾ばくかの心づけを申し付かっております。こちらの確認をよろしくお願いいたします」
「ふむ、この学園にもしっかりと淑女教育があるようだな――だがその圧は止めたまえ、俺たちでなければぶっ倒れているぞ」
「さすがは商家の娘だ、だが私のことは本名で呼ばないように」
「わざとですぅ」
ため息を吐く2人に僕は懐っこい子顔を心掛けて視線を向け、書類を取り出す。
「ほい、これが報酬とかその他もろもろ――受け取りはジブリッドでお願いね」
一応手伝ってくれた全員に報酬はあるけれど、まあこの2人は額が違う。根底を担ってくれたからそれなりの報酬も用意してある。
一応女神さまたちにも報酬を用意したのだけれど、アヤメちゃん以外には断られてしまった。
女神さまに話をつけている途中、ルーファ様からの神託で『あたしが預かっておいてあげるよ』とかほざいてきたので断っておいたけれど、一体何に使おうとしてたのだろうか。
すると書類を見ていたアンデルセンが感嘆の声を上げた。
「ジブリッドの傑物は随分と気前がいいな」
「お父様傑物なんて呼ばれてるん?」
「傑物、化け物、逸材――ジブリッドは才能多き者が中心にいて羨ましいな」
「真ん中おかしいだろ、お母さまのことか?」
「ジークランス=ジブリッドはよくあれを飼いならしている。正直それだけで称賛に値する。俺も一度直に会ってみたいものだ」
お父様の評価がすこぶる高いな。
まあ普通に食事とかしてくれると思うけれど、きっと商売の話になるだろうなぁ。
「そうそう、それで今度本格的なテスト――ベータ版として……売り出す段階の一歩前の状態での最終テストとして、学園の生徒にプレイしてもらおうと思っているんだけれど、2人もどうですか? 学園の行事じゃなくて、お家でやってもらうことになるんですけれど」
「ふむ、確か時間の進み具合も現実とは異なるのだったか――私も興味はあるのだが、時間が取れるのかと言われればまた微妙なところでね」
「まあ、一応商品だけ渡しますね。時間が取れた時にでもログインしてくださいな」
「俺も参加していいのか?」
「そりゃあね。どんな風に動くか見たいでしょ? それに中では何だってできるよ。一応こっちで設定したイベントの中にはメカ――この間話したような兵器が作れるだろうイベントもある」
「ほお」
「現実で出来ないことを虚構でやろう。そう言う意味合いもあるからね」
「なるほど――それは素晴らしいな。いいだろう、俺も参加させてもらう」
「うん、一応説明は中でしてくれるから、それに従ってね。あと学園で鍵を配る時、大雑把に僕も説明するから、出来ればこうやって学園に顔を出してくれると助かるかも」
「わかった、大体はヘリオスの邪魔をしている」
「貴様――」
「というかアンデルセンさ、暇ならあなたもここで教員でもすれば?」
「リョカ=ジブリッド、止めなさい」
そんなにまずいこと言っただろうか? 実力もあるし、何より人に教えるのにも慣れている。
教員としては最上級ではないだろうか。
けれどヘリオス先生以上に、アンデルセンの方が苦笑いを浮かべており、僕は首を傾げる。
「嫌なの?」
「……いや、そういうわけではないのだが、古巣に戻るにも俺は随分と世界を歪めた」
「別にいいでしょ。ここにいる連中ほとんどそんなものでしょ」
「リョカ=ジブリッド、お前は案外さっぱりしているな。まあ考えておこう」
「そうしなよ。どうせ僕らには有限にしちゃあ長い時間がある、やりたいことをやって過ごそうよ」
頷くアンデルセンと頭を抱えるヘリオス先生を横目に、僕は茶を飲みながらしばしゆったりとした時間を過ごすのだった。




