魔王ちゃんと娯楽発信
「……」
「ありゃ、苦戦してるね~」
ミーシャの頬がぷくぷくと膨れており、先ほどまでやらせていたテストプレイの感想など聞かなくとも、言いたいことはわかる気がする。
僕たちは今、僕たちの手掛けたダンジョンの最終調整に入っていた。
経験値やら術技、フラグ管理やらなにやらの発生条件をダンジョンに組み込み、その試運転としてミーシャに一通り遊んでもらっているところである。
今日は他に、フィムちゃんとヴィヴィラ様の権能強化を行ない、それもダンジョンに組み込んでいたのだけれど、その作業が終わり、プレイしていたミーシャにそろそろ終わりだと告げたところ、ブスッとした顔で出てきたのである。
「……なんでか知らないけれど死ぬわ」
「HPあるんだから当たり前でしょ」
「あたしだったらあれだけじゃ死なないわ」
「だから別もんだって言ってんだろ。ステータス管理、出来なくはないんだから、このゲームをやっている間は意識してみなよ」
ぷっくりしているミーシャの頬をつつき、これは遊戯であると何度も説明する。
別にミーシャは頭が悪いわけではない。ゲームだって慣れてしまえばそれなりに楽しくプレイできるはずだ。
ただこの子は頭が固い。物理的にも思考的にもだ。
「まっ、でもいいデータは取れた。あとは色々いじくって――」
「死なないようにして」
「アホ、うんなん面白くねえだろ。自分で死なないために鍛えるんだよ」
「む~……」
考え込む我らの聖女様だけれど、やっと思考が追い付いてきたのか、頭の中で何度もトレースしているようだった。
そんな集中しだしているミーシャを横目に、一緒に来ていた女神さまたち――ルナちゃんアヤメちゃんテルネちゃんピヨちゃんヴィヴィラ様フィムちゃんがそれぞれに反応していた。
「フィムとヴィヴィラの加護がこうなりますか。やはりあなたは面白いことを考えますね」
「……なんでテルネが肯定的なんですか」
「お前がいない間この叡智神、現場監督してたからな。すでに魔王2人と女神の合作になっているな」
「テルネ姉さん、随分とノリノリだったもんね」
「ルナ姉世代がだんだん本性現してきたですよぅ」
「……わぁ楽しそう。リョカお姉さまリョカお姉さま、私たちもこれで遊べる?」
「もちろんですよ~。普段は人を殴れない女神さまも相手をボコボコに出来ます」
ゲームの中だし、そもそも世界が違う。
これなら楽しんでもらえるはずである。
「奴らは人ではありません、ホムンクルスです」
「……笑顔で魔王みたいなことを言ってやがる」
「魔王ですが?」
僕が首を傾げていると、テルネちゃんが何事かを考えこんでいた。
「いえ、これは最早人でしょう」
「ありゃ、テルネちゃんはこれを人判定?」
「ええ、ですので女神はこのNPCを害せない。いいですね?」
「何勝手に縛りを増やしてんだ。悪人ならいいだろ~」
「むむむ……ですけど――」
僕はふっと鼻を鳴らし、ある書類を亜空間から取り出した。
「こちらを――」
「う~んと……あ~、まあ、ええ、はい、これならまあ」
「女神さまはどう世界を渡ってもそうなっちゃうからね。それならいっそ、それを組み込んだプレイヤーとして設定するまでだよ」
「これは、ええ、そうですね。これなら許可します」
「どれどれ」
アヤメちゃんが間に入ってきて僕とテルネちゃんが見ていた書類を覗いた。
「あ~ね、いいじゃない。これならわかりやすいし、なによりも理由がある。上手いこと考えたわね」
僕は勝気に胸を張るのだけれど、ふとテルネちゃんの言葉に思考を伸ばす。
あそこまで精密ならたとえ人形でも人判定――か。一応アンデルセンから型をもらっておこう。
「さて……鍵と扉はもう出来てるから、後はそれを売り出すだけだ。学園で宣伝して、グエングリッターでも広めて――」
「商人の顔をしてるわね」
「……あの時のリョカさんが一番制御不能だったりします」
「ルナ姉さんが止められないのなら、誰があの魔王ちゃんを止めるのさ」
「突き進むだけですよ。私も同行します」
「……テル姉が壊れた」
「私だったらどうプレイするかなぁ。あーちゃ――テッドに相談しなくちゃ」
みんながみんなそれぞれに楽しみにしてくれていることに満足しつつ、僕はフィムちゃんに目をやる。
「フィムちゃん、ちょっとお父様と話したいから、テッドちゃんに後でつないでもらえる?」
「は~いっお任せあれです」
こうして僕は星神様を撫でながら、完成間近のそれに顔をニヤケさせるのだった。




