魔王ちゃんと不可思議聖女
「しっかし――」
「そもそもアヤメ、あなたは信者に対して基本的に緩すぎるのです――って、どうかしましたかリョカさん?」
アヤメちゃんへの説教が膝の上で行われているところで、僕がため息をついたからか、テルネちゃんが首を傾げてみてきた。
「ああいやね、結構良いお姉ちゃんのつもりだったんだけれど、やっぱり頼れるのはミーシャだなぁって」
「何お前拗ねてる?」
「拗ねてないです。さすが僕の幼馴染だなぁって」
少し顔を逸らして言うと、アヤメちゃんがテルネちゃんと顔を見合わせて、2人とも肩を竦めた。
なんだぁ2人とも、僕だって年頃の女の子なんです、頼られたいお姉ちゃん心だって持ち合わせているのです。
「でもお前そういうの苦手じゃん。目の前に傷心の人がいたらまず可愛いって思うじゃん」
「まあ、はい」
「無理だろ」
「拘束して、ナデナデよしよしして話を聞いてくれなさそうですから」
「そんなことないよっ。えっちょっと待って、僕今みんなからそんな印象もたれてる?」
「印象っつうか、事実だろ」
「ランファの時を忘れたのですか? あなたロイに任せっきりでずっとあの子を撫でていたじゃないですか、締まりのない顔で」
僕はため息を吐くと、アメリカのコメディー映画にあるような、両腕を軽く伸ばし、あからさまに肩を竦ませる。
はいはい自業自得自業自得。
「いや可愛かったら撫でるでしょ」
「なに開き直ってんだてめぇ。いいかリョカ、真っ当な人間はな、目の前で悲しんでいたらまずは慰めるんだぞ」
「ボク、ニンゲン」
「頭に真っ当が付かないのならそう名乗ってもいいわよ」
僕がアヤメちゃんの頭をガジガジしていると、膝の上のテルネちゃんが考え込んでいた。
「しかしミーシャさんは、あの拳がなければ本当に聖女然としているのですけれどね。不思議な方です」
「俺の信者、いい聖女でしょ?」
「まあね、僕の幼馴染だからねぇ」
「……そこは一致するんですね」
実際問題、僕も助かっているし、あの幼馴染が頼られることは僕も鼻が高い。
なんだかんだ言ってあの子は感情で動く。気に入ったものと気に入らないものがはっきりしている。
そしてあの聖女様のその線引きを、僕たちは信頼している。
ケダモノの聖女は誤らない。
ただこの一点に尽きるだろう。
「あっそうだ、ミーシャの話題が出たついでに――そういえばテルネちゃん、聖都でミーシャがやったあれ、生命力と信仰の同時発動、あれって実際に難しいんですか?」
「難しいというか、不可能ですよ」
「ありゃ、そうなんですか? だってミーシャ、脚から竜を出すとき、生命力と信仰を使っているんじゃないんですか?」
「あれは生命力を竜と認めさせているだけです。クオンの信仰で作られているわけではありません。あの半竜顕現もそうです、生命力の塊を竜と認めさせ、それを取り込むことで竜となった生命力が体に解けて出来る芸当です」
おや、つまり生命力と信仰は相性が悪い?
「いやなんでおまえがそれわかってないんだ――ってそうか、あくまでもお前の聖女のスキルは魔王のスキルだったわね」
「どういう意味です?」
「ん~……なんて説明するか」
アヤメちゃんが言葉を探している間に、僕は意識を潜らせ、僕の加護と星の加護を繋げ、その中で見知った匂いに手を伸ばす。
『いたぁ! 何これリョカぁ?』
『あっごめん、神託初めてなんだ――』
『魔王がっ、神託を! 下すな!』
よく通る相変わらずに可愛い声を堪能しつつ、僕は少しなだめつつ、今の会話を見ていただろう星の聖女様に尋ねる。
『見てたからわかると思うけれど、どうにも僕のスキルだと聖女のスキルの全貌が明かせないらしい。というわけでスピカ、ちょっとスキル使ってみて』
『……星の聖女を顎で使うのなんてあなたとミーシャくらいよもうっ』
言葉では文句を言いつつ、なんだかんだ付き合ってくれるスピカはほんっとうに可愛いし、こちらはこちらで頼りになるしで、僕の聖女運がとんでもなく高いのだと嬉しくなる。
『今度何かお礼するね』
『それなら今作っている奴、私たちにもちょうだい』
『はっはっはっはっ』
高級品やぞ。
それに今、たちって言った? 極星とその周りの子たち、フィムちゃんテッドちゃんたち、『星々を唄う神使』の聖女たち――夜の騎士たちにもいるな……大赤字だけれど――まあいいか。
『いいよ、持って行きな。あとはお父様と詰めるだけだし、製品化したらまずはそっちに届けるよ』
『リョカありがとっ、大好きよ』
あざと可愛いなちくしょう。
僕が苦笑いを浮かべていると、スピカがスキルを使った。
彼女の加護を通しているから、その加護から発生するスキルの動きがよくわかる。
あ~ね、なるほどなるほど。
『うん、ありがとうスピカ、助かったよ』
『うん、近い内にそちらにも遊びに行くわね。ミリア様も気になるし』
『その時はお願い』
そうしてスピカとの神託を切り、僕はアヤメちゃんとテルネちゃんに視線を戻すのだけれど――。
「……」
「……」
「なにか?」
「何かじゃないわよ、なに当たり前のように神託回線開いてんのよ」
「リョカさん一応、どの加護の回線なら開けるか教えてもらってもいいですか?」
「えっとルナちゃんと、フィムちゃん、あとヴィヴィラ様とアリシアちゃんもいけるかな? あとどういうわけか、この間メル様から神託があって、それ以降から開きっぱなしです」
「……メルに関してはもう言うまい。あのバカ、ちったぁ自重しろ」
「まあ、その辺りは仕方がないですね。リョカさんはその子たちの加護を持っていますものね。つまり、加護のないものの回線は開くことは出来ない。ということでいいでしょうか?」
「そう言うことだと思います。無理すれば……なんとか」
「止めてくださいね」
テルネちゃんの呆れ顔でご飯何杯食べようかと考えていると、アヤメちゃんが視線を向けてきた。
「で、わかったのか?」
「ああうん、聖女のスキルって、生命力を土台にしてたのか」
「そういうことよ」
簡単な話、生命力に信仰を通して出てきたものを奇跡にしている。
生命力がフィルターになっている以上、同時発動は出来ないってわけか……なんであいつ一緒に使ってんだ?
「え? じゃあミーシャどうやってあれやったんですか?」
「それがわからないからこうやってアヤメを問いただしているのですよ」
「……うん、俺にだって、わからないことは、あるのよ」
「あなたの信者の話ですから、それは通りませんよ」
改めて説教の空気を作ってしまったことを、アヤメちゃんに心の中で謝罪しつつ、僕は幼馴染のことを考えるのだけれど、これは本人に聞いた方が早いだろう。と、僕はそろそろ助けを求めてさっきからこっちに叫び続けているオクセに目をやり、助け舟を出すことを決めたのだった。




