魔王ちゃんと月の隣の叡智
「むっ、ミーシャめ、加護を固めてこっちから入る隙間を失くしたな」
「あいつは本当、いつも強引ね」
セルネくんたちがガイルにボコボコにされている景色を背景に、彼らの叫び声をBGMに、僕は今日学園を休んだミーシャとルナちゃんの様子を少し窺っていた。
もちろんどこかの星の陣営のようにプライバシーもあるからずっと見るつもりはなかったけれど、タイミングが悪かった。あとで謝っておかないと。
しかし――。
「まさかミーシャよりルナちゃんの方が堪えていたとは」
「お前の真似をしてあんな馬鹿みたいな戦い方してからかな。こっちからも内容がわからないし、見えもしないからどうなったかわからないけれどね」
「でもあの感じ、絶対傷ついてる」
「だな。おいテルネ、お前の同期が沈んでるわよ」
「――え?」
リージョンコードの知識を僕から受け取った叡智神様は、あっちの言葉と知識を四苦八苦しながらも脳に読み込ませており、頻りに首を傾げたり頷いたりとコロコロと表情を変えていた。
無意識テルネちゃん可愛すぎる。
そんなテルネちゃんがアヤメちゃんの言葉に、呆れたような顔をして振り返り、わざとらしいため息をついた。
「ルナが傷ついている? そんなもの見ればわかるでしょ。それに沈んだというのならアンの方が深くに潜行してますよ」
「そんな話はしてなくてだな――」
「一緒ですよ一緒。ルナもアンも、感情に振り回されすぎなんですよ。どうせルナは適当に解決しますし、アンもこのまま1人にしておけば勝手に出てきますよ」
「お前……」
神獣様ドン引きである。
しかしテルネちゃん、秩序だの知識だのでお堅そうな印象が最初期にはあったけれど、慣れてくると意外と柔らかく、ルール内であるのなら見逃してくれる。
案外ルナちゃんたち世代では一番話が通りやすいのかもしれない。
「テルネちゃんって実はアヤメちゃん寄りだよね」
「――」
「痛い痛い、腰がぁ!」
僕の膝の上に乗っているテルネちゃんがクルと上半身だけ振り返らせて、ペシペシと腰を集中的に殴ってきた。
「そんなに嫌かお前」
「嫌に決まっているでしょうが。私はあなたほどだらけていません」
「もっと取り入れやすいお姉ちゃんの素敵なところがあるでしょうがっ!」
「ない」
テルネちゃんの頭を掴んでガウガウしているアヤメちゃんにほっこりしていると、叡智神様がジッと僕を見つめていた。
「ん?」
「ルナはどうせ私たちに助けてなんて言いませんよ。私たちは並び立ち、競い合う関係ですから。でも――リョカさん、もしあの子から助けてと言われたら、助けてあげてくださいね」
今日一番の優しい顔――あの子は本当に恵まれている。
だからこそ、この世界でのびのびと、人の世界で在ってくれることに福音を鳴らしたい。
叡智神様の思いやりにこちらまで優しい気持ちになったところで、テルネちゃんがアヤメちゃんに好戦的な笑みを向け始めた。
「さて、ではアヤメ、昨日は話が出来ませんでしたが、あなたの信者について、お話しましょうか」
「このタイミングでっ! 俺にも優しさをよこしなさいよ!」
「嫌です。では始めましょう――」
普段通りのどこか偉ぶった顔でアヤメちゃんを責め立てるテルネちゃんを、僕は眺めるのだった。




