魔王ちゃんと勇者に乞われて
「今日ミーシャたちは?」
「一応休ませてる。セルネくんたちは大丈夫? たくさん戦ったし、君たちも休んでよかったんじゃない?」
教室にガイルが入ってきて、教壇に資料やらないやらを並べて授業の準備をし始めたのを横目に、セルネくんたちに昨日の疲れはないかと尋ねた。
「うん、まだまだ元気だよ。ありがとっリョカ」
僕はセルネくんを撫でると、教壇のガイル、それとアヤメちゃんがセルネくん、クレインくん、オルタくんをじっと見ていた。
「……そんなに見られると困るでござるなぁ」
「あはは、俺も色々聞かれそうだよ」
「こういう時は巻き込まれないために沈黙を通すですぜい。で? 何したですぜい?」
「お前が聞くのか」
セルネくんのツッコミが終わり、ガイルと顔を見合わせていたアヤメちゃんがセルネくんの肩にポンと手を置いた。
「裁判」
「なんでぇ!」
「ラムダでもないのにスキル変異させやがって。なんだあれ? お前は月神の信者だぞ、獣じゃないの」
「そんなこと言われましても」
「俺もぜひ聞きてえな。お前が最後に使ったの、ありゃあ神気一献だろ? だがやっていることは魔王の絶慈だ。お前なにした?」
確かに、セルネくんのスキルがどういうわけか一新されている。
あの『聖剣のその先に』も元は『一声喝魂』らしく、もっと聖剣に作用したスキルとなっている。
「セルネくん、ちょっと二足歩行獣になってみ」
「ん? うん――」
二足歩行獣になったセルネくんの傍に行き、座っている彼の頭や体をまさぐっていると、彼はくすぐったそうに身をよじり、懐っこくくっ付いてきて喉を鳴らしていた。
僕へのボディタッチに本当に躊躇なくなっているな。ペットに欲しい。
けれどそんなことはどうでもよくなるほど、セルネくんの信仰が妙なことになっていた。
「ん~……なんだこれ?」
「リョカ何かわかった?」
「いやぁ、アヤメちゃんもちょっと」
「……ん~? ん~……んっんぅ?」
アヤメちゃんもしきりに首を傾げており、どうすればいいのか困っている様子であった。
「え、あの、俺相当駄目な感じ?」
「いや、そうじゃなくてね」
「なんだこの信仰、こっちのじゃない?」
そう、そうなのだ、信仰がこの世界と所々で違う。
どうにも専用のコードを使っているというか、これはもしかして――。
「アヤメちゃん、あれだこれ」
「どれよ」
「リージョンコードだこれ、向こうの信仰が組み込まれてる」
セルネくんに向こうの信仰が組み込まれて、スキル情報が一新されている。
スキルが変わったのは、そのリージョンコードが所謂バグに認識されて、世界がそのバグごと正常に書き直した結果、スキルの変異がなったのだろう。
「ゲームとかに使われるあれか。バグったままセルネを正常に戻した結果があれってことね……いやマズいかな」
「まずいの?」
「なんかセルネへの女神の干渉が薄くなってきてる。これ、俺たちじゃ手を出せないわよ。しいて言うなら俺だけならなんとかって感じね」
「あ~……ちょっと待って」
この世界で女神さまたちからの干渉が薄くなるのは非常によろしくない。
だから僕は、この間やったように加護間をつなぐ方法で、僕を経由したセルネくんと女神さまへの繋がりを太くした。
「どう?」
「ん~……んっ、これなら大丈夫。セルネをよく見渡せる――だがお前への説教は増えた」
「あっはい」
「なんか俺の知らないところで俺の知らないなんかをリョカが解決してリョカが叱られるらしい」
「相変わらずわけのわからんことをやってのけるな――ん」
そんな話をしていたガイルが突然僕に手を差し出してきた。
なんだその手は?
「俺にもやってくれ」
「いや知らんって、セルネくんが勝手に巻き込まれただけだから」
「ずりぃじゃねえか! 俺も俺も俺も――」
「うるせぇな! 僕だってわかんないことだってあるよ! というかお前はもう十分力を持ってるだろうが! ちったぁ後輩に譲ってやれ」
おっさんが腕をブンブン振って駄々っ子している。見るに堪えない。
「俺にもエクストラコードくれよ」
「この勇者言うに事欠いて――まあガイルが強いのはこっちとしても助かるから、手を貸してもいいんだけれど、エクストラコードはなぁ。さすがに勇者が持つのは……そこんとこどうなの?」
「俺はしらね~。メルに聞いてみたら?」
「……」
僕はそっと目を逸らす。
「ん~?」
「まっ、まあ! 今度何か考えておくよ。ガイルもそれで我慢しな」
「おう、任せるよ。俺、女神の加護が期待できないみたいだからな、もうお前を女神の代わりにしておくわ」
「ならもっと敬え」
「お前がアヤメを敬うならな!」
「俺を巻き込むんじゃないわよ!」
授業が始まっているのにまったく授業が始まらないこのクラスなのだけれど、どの生徒ももう慣れ切っているのか、それぞれに自習をしていた。
なんて適応能力のあるクラスだ。
そんな生徒を導かなければならない先生が満面の笑顔をセルネくんたちに向けた。
「よしっ、そんじゃあセルネ、クレイン、タクト――外、出るか」
「……いやでござる」
「ちょっと今日は健康がすぐれなくて」
「あっ、俺クラス違ったわ。それじゃね――」
「おっしゃぁ! 実践授業だ! リョカダンジョン頼む!」
ガイルは叫ぶと、セルネくんたちを抱え、そのまま教室を飛び出して行ってしまった。
誰だあいつを教員に誘ったの――。
「お姉ちゃんよ」
「……うん」
僕はため息をつき、クラスメイトにセルネくんたちが強くなったことを教え、勉強になるかもしれないから見学に行こうかと指示だしを始めるのだった。




