勇者くんと剣の花畑
「おっ――」
女神様の加護の気配が途端に薄れていく。
ヒナ様がアンディルース様を下したのだろう。けれどまだ油断できる状況ではない。
完全に途切れたわけではなく、まだまだ大海神様の加護を持った連中が多くいる。
そんな敵の中心で、クレインが次々と勇者たちの手足や横腹、肩などをモギモギしていた。
「助っ人にはせ参じたつもりでござるがね」
「自分だけが強くなってると思うなよ~、ジンギとかえげつないことになってるからな」
「……知っているでござるよ、見ていたでござるからな。セルネ、あれを殴ってくれてありがとうでござるよ」
「――うんっ、友だちだからね」
オルタはきっと、その状況そのものを見たのだろう。ランファもマジギレしただろうな。
「ジンギくんに至ってはフィム様がずっと文句言ってたよ。ジンギくんというよりヴィヴィラ様にだけれど」
「だろうね~。さてっ、それじゃあオルタ、マナさん、クレインのことお願いね。俺は――」
マナさんに向かって飛んできた剣を、俺の剣ではじき返し、その聖剣を使う勇者を睨みつける。
「銀狼ぅっ」
「そんなに声を荒げなくても聞こえているよ。そんなに俺が好きなら付き合ってあげるよ。だけど――」
俺は両手を地面へとつけ、四つん這いになりながら口を大きく開く。
獣の声を、ケダモノの咆哮を――どこかの誰かさんがやる様にどこまでも高く、天に届かせるほどの覚悟を持って叫ぶ。
「――」
獣の遠吠え――俺が高らかに声を上げるとそれに反応し、まだまだ足りない、もっと気合を入れろ、そんな想いが乗ったさらに気高い咆哮がどこからともなく聞こえてきた。
わかってる、わかっているよ聖女様。
俺の剣はあなたを守る。けれどそれは俺の認識だ。君は違うのだろう――攻撃は最大の防御、攻めることを止めるな、戦うことを諦めるな、あたしを守りたいのならすべてを倒せ――。
「『聖剣のその先に・月喰獣唄』」
四足の獣に戻り、俺の周囲に『ケダモノに身捧ぐ盟約』の輪っか状の刃が控える。
その輪っかの剣はキュルキュルと音を鳴らしだし、光速に回転する。
それと同時に俺の真っ白な体毛に模様が浮かび、いくつもの輪っかの刃にも信仰の線が入っていく。
「聖剣の形が――馬鹿なっ、聖剣は勇者につき1つ、お前は、お前はどれほどの――っ!」
「行くぞ魔狩りの勇者、獣狩りは初めてか?」
返事を聞く気もなく、俺は一瞬で奴への間合いを詰め、高速で回転している刃を奔らせた。
「――っ」
剣で俺の聖剣を受け止めたワイズだったけれど、とんでもなく速い回転に剣同士が火花を上げた。
魔狩りが剣を引くがさせない。
俺はワイズの懐に体を割り込ませ、後ろ足で思い切り大地を蹴り、魔狩りの腹部に頭を打ち付けた。
「がぁ!」
「剣を振るうことを止めるな、戦う意思を途切れさせるな! 勇者に後退するという選択は存在しない!」
頭突きに戦いの意欲を一瞬途切れさせたワイズに、俺は回転する刃を差し向けた。
「間に合わっ――」
俺の聖剣と同じように浮いているいくつもの剣で自身を守らせようとしたけれど、それは叶わずに彼の体を切り刻む。
腕、脚、胸、背中と切り傷を作っていき、まだ後退することを止めない。
「調子に乗るなよ若造が! 貴様より勇者のことは知っている、俺が何年この地位にいると思っている!」
「勇者は地位じゃない! 誰かの上に立つものでもなく、誰かを支えるものでもない! 俺たち勇者は戦いに身を置き、誰かとの約束を守るものだ!」
回転する刃を操作しながら、牽制を交えつつワイズの放つ聖剣と火花を散らす。
奴の剣が1つ、また1つと弾かれ、目の前には隙だらけの胴――が、その隙に誘い込むように隠しきれていないワイズのニヤケ顔。
回転する刃を大地に奔らせ、その力で巻き上がった土煙が魔狩りの目を閉じさせた。
すぐに目をこすり、顔を上げた時、俺の姿はもう――。
「どこに――」
「後ろだ馬鹿たれ!」
ワイズの背中に前足、後ろ足で昇り、飛び上がる勢いで奴の背中を蹴りつけてその反動を利用して宙で一回転しながら、俺の聖剣を奴の背中に奔らせて大きな傷を作る。
「がぁぁぁっ!」
俺はそのままワイズからの視線を切りながら、あちこちに駆け回っていき、額に脂汗を流す魔狩りの姿を捉えながら、その言葉を紡ぐ。
「我は狼なり。月に乞い、月に吼えるケダモノ――」
「どこだ、どこだ! 姿を現せ卑怯者!」
「我が剣は守るため、我が爪は守るため、我が牙は守るため。今我らの誓いは月に届く」
「何故だ、何故だ何故だ何故だ! 勇者であるのなら、勇者だからこそ、俺たちは、全てを与えられるべきであろう――」
「んなもん、自分で選び取るよ――『神気絶景・絶華』」
大地に咲く光の粒子――その粒子は魔狩りの勇者を囲み、逃げ場なぞ存在しない。
その粒子は数百数千を超える輪っかの刃へと変わり、それらすべてがワイズへと向けられる。
「お前なら俺と一緒にさらなる高みに登れる。こんなところで、こんな、こんな――」
「お断りだ」
高く猛き遠吠えを鳴らすと同時に、全ての刃が魔狩りの英雄を切りつけたのだった。




