聖女ちゃんと革命の一撃
「すべてを大海に沈め、誰も彼も、私の下に――」
「……」
「もう、もう、1人はイヤ――」
「……」
「誰も私を求めていない。私は置物だ、素質もなければ、あなたの言うような覚悟もない」
「……」
「だから、だから――」
あたしは大きく息を吸う。
生命力が、信仰が、革命をと声高々に叫ぶ。
今ミリアのその言葉は、その意思は――。
「それは一体、誰の言葉よッ!」
「――っ」
存在の同化、アンディルースの結論へと誰もが至る。
そこには意思も、覚悟も、そこに至る彼ら彼女らの寄り道に蓋をして、ただ結論にだけ至らせる。
翼なんてありはしない。ただ海の中をさまようがごとく、深海に沈むがごとく、海流に流されて底へとたどり着くだけの一本道。
「翼がなければ空へと羽ばたけない!」
「必要ない! 海の中は幸せです! あふれるばかりの命、そこには温もりしか在りえない! どうして私にここから出ろなんて言うの……私は、私は――」
「あんたは大聖女よ!」
「――ッ、わたし、は、わたしはぁ」
責任だとか、使命だとか、そんなことはどうでもいい。
辞めたければ辞めればいいし、そんな結論に至るような奴を引き留める奴なんているはずはない。
けれど違う。ここにいるのは大聖女だ、ずっともがいて、ずっと苦しんで、それでも、それでもそこに立っていた。溺れていた。それでもあの子は、ミリア=アルトハートは死んでいない。
あたしが現れてしまったから、海よりも高い空に手を伸ばしてしまったから、ミリアは今、海をもがくのではなく、空へと手を伸ばしてしまった。
「海が良いというのなら、あんたは何で空を目指した!」
「――」
うつろだった瞳から涙があふれ、ボロボロと雫をこぼしながらミリアは歯を食いしばった。
大海の女神の聖女であるのだからいくらでも海にいればいい。
でもこの子はその海から飛び出して、あろうことか空に喧嘩を売った。
「ミリア、言ったでしょ。これは戦争よ、嗤え――嗤いなさい!」
「あ、う……そ、れは――」
アンディルースの結論とミリアの道しるべが交互に顔を出し、頭が痛むのか彼女は頭を両手で強く抱きながら嗚咽を漏らしている。
そんなミリアがぐちゃぐちゃに濡れた顔を上げ、あたしを睨み――いや、乞うような、縋るような視線で口を開いた。
「私は、私はどうすればよかったのですか! 教会に首輪をかけられ、勇者たちの言いなりになり、それでも、それでも――」
「あたしが何か言ったら、あんたはその通りにやるの?」
「……」
違う、そうじゃない。あたしもミリアも、聖女としての在り方は違う。
ミーシャ=グリムガントという個とミリア=アルトハートという個は隣り合わせで歩むことは出来ても、同じ道にはなりはしない。
「どうして、どうしてあなたではないのですか、どうして、どうして私よりもここに、聖女に――」
ずっとずっとあたしに投げかけてきたあの子の本当。
でも、そうならなかった。あたしではなく、ミリアがなった。それだけの話だ。
「あなたなら、あなたなら――ああぁっ!」
ミリアの『信仰こそが我がきせき』それと『自己犠牲の寵愛』それらのスキルを駆使して、周囲にいる聖騎士や聖女に奇跡を紡いでいく。
正面から飛びあがってくる彼ら彼女らにあたしは目を閉じる。
革命は成された。生命力は体を、魂をめぐり、交わるはずのない信仰にその手を伸ばす。
一緒に回ろう。一緒に廻ろう――同じにはなりえない。交わるはずもない。けれど、その革命は信仰と生命力という垣根をなくし、交わることはなく手を取り合った。
あたしの革命――生命力は信仰に、信仰は生命力に、それそのものにはなりはしないけれど、敵を、首を、顔面をとるために、あたしの中の信仰が、あたしの中の生命力が吹きあがる。
「『神獣拳――極楽鳥』」
放出し続ける生命力は信仰を伴って大きく溢れ、あたしを、世界を、敵を揺るがす。
あふれ出た生命力と信仰を無理やりに抑え込み、あたしの背で片翼の黒い翼となる。
「生命力40、信仰142――」
あたしの翼から羽が舞い、その内の数枚が腕へと吸い込まれていく。
赤く黒く――あたしからあふれ出した生命力と信仰が腕だけにまとわりつく。
それら全ては攻撃力へと変わり、飛び出してきた聖騎士聖女たちにただの一撃――。
「『壊鳥』」
「――」
振りかぶった拳は、空を、風を、空気を、時間を、世界を、それら全てを突き抜けて、それら全てを壊しながら破裂音を響かせ、世界そのものを押し返す。
壁で押し出すような認識で、飛び掛かってきた彼ら彼女たちは一斉に拳圧に押し出されて体を壊しながら、200いたほとんどがあたしの正面から彼方まで吹き飛んでいった。




