魔王ちゃんといつもののぞき見
「いいね、役者がそろってきた」
『もうリョカさん、そんな暢気言っていられる状況でもないですよぅ』
「いやいや、もうここまで来たらなるようになるだけさね。そっちに顔を出せない以上、僕は見守ることしかできないからね」
ダンジョン作りはいったん休憩、戦いの気配にこちらの脳筋どもが集まってきており、各々が酒と肴を手に、ルナちゃんの個人権利ガン無視映像を模倣したもので映像を空に映し、みんなで戦いを眺めているところで、僕は可愛らしく走っているルナちゃんに声をかけていた。
『こっちは大変なんですよっ。ヒナリアは街破壊しだすし、アンはさっきから気が違ったように笑い続けていて意思疎通が不可能ですし』
「おいルナ、アンディルースはマジでどうなってるのよ」
『わたくしが聞きたいです。信仰や魂は間違いなくアンです、けれど在り方が圧倒的に違っています。あんな子じゃなかった、それはアヤメもよく知っているでしょう?』
「そうね、でもなにかがあった。じゃないとああはならないわ」
「虫の影響では?」
「俺たちに影響を与える虫ってなによ。あれ絶気でしょ? つまり俺たちに対抗しうる魔王が他にもいるってことなのよ? マズすぎでしょ」
アヤメちゃんの懸念もわからなくはない。
エンギ以外にも女神さまに害をなせる存在がいる。それだけで世界が震撼するレベルの大事だ。
僕は暢気に椅子に座ってチーズを口に運び、ワイングラスを揺らして映像を見ているアンデルセンと男の子みたいな空気感で映像に釘付けになっているミルド、この問題に顔をしかめているロイさん目をやる。
「ロイさん、心当たりはないですか?」
「すみません、私にはさっぱりです。無王や魂壊に比べると私もまだ若い魔王ですからね」
「年を取ればいいというものでもないぞロイ=ウェンチェスター、長らく魔王をやっている俺でもそんな奴は聞いたこともない。リッカ=キサラギについては話を聞いたが、そもそも絶気を虫にする奴なぞ話にすら出てきたことはない」
ロイさんは1人の時間が長かったからともかく、あちこちに手を伸ばしているアンデルセンでも何も情報はないのか。
僕が頭を抱えていると、呆けていたミルドが首を傾げて僕たちに目をくれた。
「あれ、魂関与の虫だぞ」
「なにそれ?」
「そのままの意味だ。魂に寄生し、卵でも植え付けているのか、魂を餌にしているのかはこの場からはわからないが、随分と不愉快な生き物だな」
「魂って、相手は一応――」
「貴様が言ったんだろうが、魂とは加護だと。女神はその加護の塊だぞ。えさ場としてはあれほど優れた者たちもいないだろう」
魂の加護を食べているのか、それともそこの居心地がいいのか――ともかくそんなことが出来る奴が野放しになっているということか。
「不愉快っていうのは?」
「魂とはその形だからこそ美しい。人の尊厳、人の意味、人の在り方――奴らとて同じだ。魂にこそ星の輝きがある」
「……」
「それをあのような虫ごときで食い荒らすなぞ不愉快極まりないだろ」
魂壊の魔王・ミルド=エルバーズを知っている面々は皆が皆一様に苦々しい顔で、およそ皆が「どの口で」と、その言葉を飲み込んでいた。
「あ~うん……ミルド、あの虫についてお前の方が知見がありそうだ。今度捕まえられるように頑張るから、研究手伝ってよ」
「くはははっ、俺の力が必要か。良いだろう! 今回は共闘だ、あれを扱う魔王が出てきたら俺に伝えろ、塵も残さないほどに砕いてやる」
こいつほんま――。
僕が疲れたようにため息をついていると、ロイさんがお茶を持ってきてくれて礼を言って、それを口に運ぶ。
するとガイルが僕の頭に手を置き、顎を触りながら興味深そうにセルネくんたちを見ていた。
「お~お~、あいつらも随分と頼もしくなったな。セルネは何か隠してんな? あれはお前の影響か?」
「いや知らん。帰ってきたら二足歩行獣になってたよ」
「オルタも強いな――しかしマナの奴、一体何を目指してんだ?」
「百華、お母さまの技だよね。随分と使いこなしているみたいだけれど、この短期間でどんだけ詰め込んだのやら」
ここにはいないお母さまに文句の1つでも言いたいところだが、それよりも僕たちよりも深刻に顔を引きつらせている風切りに目をやる。
「クレインめ、あいつ何をやっているのかわかっているのか」
「あれシラヌイだよね~、最初聞いた時は驚いたけれど、もう形にしてたんだ」
「知っていたのなら止めろ」
「でもクレインくんだよ? 間違った使い方はしないでしょ。しかもあれ、ギフトじゃなくて生命力を燃やしているし」
「それはそうだが、あいつのあの技、完全に対人特化だな。あいつにも技の扱い方と心得を指南するか」
さっそく教育面に燃えている勇者の剣に僕が笑っていると、カナデもうな垂れていた。
「クレインって意外と思い切りが良いよね、あたしにシラヌイを使うからって許可を求めてきたんだけれど、出来るわけないじゃんって適当に了承しちゃったんだけれど、早まったですわぁ」
「シラヌイ仲間できてよかったじゃん。まあもっとも、あれはシラヌイじゃなくて火産霊だけれど」
「バチくそ格好いいですわ。わたくしも改名しよう! 爆裂爆砕最強13世とかいけますわ――」
「お前はそのままでいろ! 妙な改名なぞするな、シラヌイに誇りを持てとは言わんが、その技を教えてくれたのはカグラだろう。もっと敬意を持て」
しゅーんとするカナデを苦笑いで撫でると、それは大気を揺らすように風と共に吹いてきた。
「――」
女神さまたちの視線がアヤメちゃんに集まる。
「この件がどう転んでも、俺はきっと叱られる」
「でしょうね~」
世界を揺らすほどの圧――この荒々しい圧を放てる聖女なぞ1人しかいない。
なぜわかるか――この圧、獣と鳥の信仰が混ざっている。うんなもん1人しかいない。
「大人しくしててくれねえかなぁ」
「無理でしょ」
「ヒナの信仰を得たけれど、今度はなにするつもりだあいつ」
「テルネちゃんが頭を抱えて、クオンさんが拗ねると見た」
「それでなんで俺が叱られるのよ」
「監督不行き届きですね」
「あれがお姉ちゃん!」
そりゃあもっともだ。と、顔を伏せるアヤメちゃんの耳を巻き込んでナデナデ――僕たちは始まった戦争の鑑賞に戻るのだった。




