勇者くんと心強い援軍
「藪から棒になんでござるか――」
「オルタだこれぇ!」
筋肉もりもりの助っ人に俺たちが呆然としていると、聞き覚えのある話し方にそれがオルタリヴァ=ヴァイスその人であることがわかった。
けれどなんだ、いくらなんでも仕上げすぎだろう。
王都で別れてからひと月経ったかなぁ。くらいなもので、この短時間で一体どんなことをすればそこまであの体が絞られるのか……いや、もしや物理的に絞られたのではないだろうか? リーンさんならやりそうだ。
俺はつい、オルタ(仮)に憐れみと同情の目を向けてしまう。
クレインなんてさっきから一言も発さずに口を開けたまま固まっている。入学以来からの友人の変わり果てた姿に困惑しているのだろう。
「あっ、あ~、あ~ね、あああれかっ! リョカ様の世界渡りの姿変換――」
「違うでござるよ」
真正面から否定されてしまい、クレインは顔を覆ってしまった。
そんなにあのもちもちポンポンがなくなったことが悲しいのか我が剣よ。
「これには一応理由が――」
オルタが何かを言おうとした瞬間、俺たちはまだ戦場の最前線にいることを思い出した。
正面の勇者たちが飛び掛かってきたために、俺たちは構えるのだが、それはどこからともなく飛んできたいくつもの紙によって遮られる。
「『百華――神紙・枝垂れ藤』」
俺たちの左右を紙が覆い、それが1つにまとまり大きな腕に変わる。
その腕が大地を叩くと同時に、周囲の勇者たちの足元はまるで沼のように柔らかくなった地面に脚を取られて沈んでいく。
このスキル、もう1人のひがいし――リーンさんの下へ修行に出ていった。彼女か。
俺は振り返り、彼女がどんな変化をしているのか、少し楽しみになりながら勢いよく首を回す。
「セルネくんやっほ~」
「……」
マナさんがいた、特に変化はなかった。
格好が多少過激になったくらいだろうか。
2人は基本的にジブリッドの服を着ている。
オルタは黒いレザーの長いコート? 黒いインナー? に黒いパンツ、そしてサングラスをしている。
リョカから聞いた程度の服の名前だったけれど、そんな格好をしており、さっきから耳元で爆笑交じりのアヤメ様が『ブレイドだこれ! 刀を持て!』と興奮しており、そっと聞こえないふりをする。
マナさんの方は白を基本にしたピッチピチの見たこともないような素材の服を着ているのだけれど、太ももと胸元とか、服中に穴が所々に空いており、その露出いる? と、俺は訝しんだ。
「……なぁにセルネくん、そんな可哀想なものを見るような目をして」
「その穴は、お金足りなかったんですか?」
「おしゃれだよ!」
女の子のおしゃれはよくわからない。今度リョカに教えを乞おう。
服装のことはともかく、改めてマナさんに目をやるとさっき使われた紙で出来た大きな腕が彼女の両隣りに控えるように浮いており、リョカだったら、また妙なオプション付けてきて。的なことを言うだろう。
「むっ、セルネくんさては私の実力を疑っているね。これでも店長にもお墨付きをもらったんだから」
「そうでござるな、店長の言う通りマナはとても強くなったでござるよ」
「えへへ、でしょ~」
何かいちゃつき始めたけれど、それよりも何よりも、先生でも師匠でもなく、店長なのか。相変わらず読めない人である。
と、俺はそんな思考を放棄してクレインに目をやる。
「そろそろ飲み込めた?」
「……うん、なんとか。もう、オルタの不健康そうに見えて実は健康なお腹を触ることは出来ないんだね」
「拙者の腹を何だと思っているでござるか!」
「というか変身具合で言ったらセルネくんも大概だからね?」
「とうとう犬になったでござるか」
「なんだとコラぁ! 俺はずっと犬だよ! ……あれ?」
俺が首を傾げると、オルタが微笑み、俺とクレインに拳を差し出してきた。
「遅くなったでござる」
「ん~ん、最高のたいみんぐだったよ」
「だね、本当に助かった」
途端、俺とクレイン、オルタは頭上に目をやる。
勇者たちが飛び掛かってきた。
けれどどういうわけか焦りは感じない。オルタリヴァ=ヴァイス――学園男子生徒、最も頼りになる男。その彼が嗤ってテッポウを向けた。
「『百華・逢冴零鴉』」
リョカがリーンさんたちが使う百華とはギフトから加護を取り出して戦う術だと話していた。
そしてオルタの使う百華は多分リーンさんと同じく終末神メルフォース様からの加護を使っている。
オルタの放つ鉱石の銃弾を受けた敵に当たった個所が凍っており、血しぶき1つ上がらない。
「これは――」
それどころか、先ほどまで厄介だった大聖女の回復が届いていない。
「大海神アンディルース様の加護、拙者が食い止めるでござるよ。2人には、のびのびと戦ってほしいでござるからな」
「さっすがオルタ!」
「本当に頼りになるよ!」
オルタが次々と勇者たちを撃ち抜き、凍った相手に俺たちは刃を、拳を奔らせていく。
「ちょっとちょっと! お姉さんのこと忘れてない? 『百華神紙・桜吹雪』」
マナさんが携える大きな腕から大量の紙が噴き出し、それが勇者たちの体に張り付く。
その瞬間、紙を張り付けられた勇者たちが途端に痛がったり、腕を、脚を地面に吸い込まれるように叩きつけられたりしていた。
「いやその前線で戦いますよ的な見た目ででばっふぁーなの!」
「あっ今のリョカちゃんみたいだった」
マナさんがウインクしながら片手でVサインをして笑っていた。
俺とクレインは肩を竦ませると、改めて聖都の勇者たちに対峙した。
「ここまで場を整えてくれたんだ、無様は晒せないね」
「うん、やるよセルネ。俺たちもとっておきを出しちゃおう」




