勇者くんと多分知り合いの援軍
「セルネ来たよ!」
「クレイン俺に乗って! ある程度大げさに動いて減らしていくよ!」
クレインを背中に乗せて駆ける。
駆けながら剣を生成して斬りつけながら高速で走り回る。その際、クレインも第2ギフトのスキルで突風と熱を掛け合わせた肌を焼くほどの熱風を発生させたり、近づいてくる敵を殴りつけたりしてとにかく数を減らすことを優先した。
けれど先ほどアヤメ様に聞いた大海神様の加護――実に厄介だ。
神獣様の言葉が正しいのであるのなら、戦略や戦い方、それに向けられる意欲は大海神様と同じに至るというものだ。
でもそれだけなら皆が皆同じ動きをするのかとも思ったけれど、そんな単純なものでもない。
そこには個性がある。
至る結論は同じでも、そこに続く道筋は誰もが違う。
向かうべき終着点は同じのくせして誰も彼も違う経路を通っている。
だからこそやりにくい。
同じ動きなら対処も容易い。けれどそうじゃない。
全員が全員、別のことを考えながら俺たちに刃を振るっている。
これが存在の同期――しかも聞いたところによると、大海神様を主に持つ大聖女の扱う奇跡は、この存在を同じにしたものにかかる奇跡のようで、範囲を広げるのではなく、複数を狙って奇跡の行使ができるために、ここにいる勇者全員が聖女の奇跡によって傷をつけても回復し、体を強化されているという始末だ。
「ほらやっぱり聖女が一番厄介じゃないか!」
「まったくだね。ミーシャ様たちの言葉だと、随分と自信のない聖女様だったみたいだけれど、これだけのことが出来て自分を認められないなんて、周りは一体なにをしていたんだよ」
「スピカより絶対強いし、多分マルエッダ様よりも素質がある。大聖女なんて賜った時点で、もっとやりたいことやればいいのに」
俺が今まで出会った聖女がだいぶ自由にしていたからか、この聖都の大聖女をどうにも同情してしまう。
クレインも同じなのか、俺の背中から周りの勇者たちを軽く睨んでいた。
「それをさせなかったのがこいつらなんだね」
「……そういうこった。やる気出てきた」
クレインが背中から飛び降り、俺はその場で意識を、戦闘の意欲を、戦うための理由を、魂の中の約束を爆発させる。
以前ジンギに対して使った俺のスキル――『聖剣のその先に・月に吼えるケダモノに』これは勇者のスキル『一声喝魂』がどういうわけか変化したもので、月の信仰を取り込むことでその強さを発揮する。
「行くぞ――信念も約束もない勇者たち」
正面に体を倒し、片膝を立て、もう片方の脚を伸ばして、片方の腕を伸ばして大地を掴み、残った手には黄金に輝く剣を握る。駆け出す体勢――一瞬で最高加速にたどり着く姿勢。
折り曲げた脚で思い切り大地を蹴り、大地を掴んで手で体を引っ張り加速、低空姿勢を維持して伸ばされた脚でバランスを取りながら手に持った剣を振り続ける。
そして敵集団の中心にたどり着いた俺は立ち上がり大きく剣を振るう。
月の信仰を引っさげ、その信仰が力に変わる。
振り抜いた金色の剣は粒子を放出させながら力の奔流へと変わり、それは剣から光の帯を吐き出した。
光の帯は衝撃に。勇者たちを切り裂いて吹き飛ばし、その中心で俺は嗤う。
「――」
でも、正直大した被害になっていない。
吹っ飛んで行った勇者たちの傷は一瞬で治り、着地と同時に斬りかかってきた。
俺が体中に傷を作りながら後退すると、俺と入れ替わる様にクレインが正面に出てくれて、俺が対処できない相手をさばいてくれる。
「やっぱり数が多い」
「それだけじゃない。全員が全員、目的を同じにしているから連携を発揮しちゃってる。手数が圧倒的に足りない」
さてどうするか。俺が頭を回そうとしていると、死角外、そこで妖しく笑う1人の影――俺はを噛みしめ、前に足ってくれているクレインの背中を押す。
「セルネ――」
「『魔を穿つ追憶の従剣』」
他人の記憶を呼び起こす剣がクレイン目掛けて放たれた。
俺はそれを体で受けるのだが、さっきは大丈夫だったその剣も何十と重ねられて引き起こされたことでさすがに気分が悪くなってくる。
俺は膝をついてしまい、一瞬の隙を作ってしまう。
「セルネ避けて――」
そんなクレインの声を聞きながら、数人から放たれる聖剣を俺はゆっくりとなる視界で眺めていた。
マズイ、油断しすぎた。
斬られても多少は大丈夫だ、この体勢でも急所さえ避けていれば……無理かもしれない。
全員殺意が高く、避ける隙も与えてくれていない。
今切って間に合うか――いや無理だな。
あきらめではないけれど、少しでも致命傷を避けようと体から力を抜き痛みと衝撃に備える。
「――?」
けれどふと香る見知った匂い。これは――。
「『百華――」
周囲にはパラパラと鉱石が降り始めており、随分と鍛え上げてきたなと頬が緩む。
「流秘凪周』」
俺を狙う勇者の1人に彼が指を伸ばした手のひらを腹部に押し付け、加護の光が輝くと同時に敵の体が凍っていく。
そして彼は攻撃した手を引っ込め、腰から2つのテッポウを引き抜くと周囲に弾丸を撃ちつける。
「『再起する乱反射』」
弾丸の発射と同時に聞いたこともないスキルの発動――さっきから降ってきていた鉱石はまったく効果を発動していなかったのだが、彼のそのスキル発動と同時に今鉱石が輝きを取り戻した。
終わりを与えての始まり――これは多分。
鉱石が一斉に爆発を起こし、その彼が俺とクレインを抱えて戦線からの離脱。
地面に下ろされた俺とクレインは肩を竦ませ、助けてくれた人物に目をやる。
「助かったよ、援軍ってお前か――」
「どうなるかと思ったけれど、随分と鍛えてもらったじゃんオル――」
筋肉ムキムキの、ジブリッド商会でリョカが開発したサングラスなるものを目にかけた男がそこにいた。
「誰ぇ!」
「……え? え?」




