勇者くんと倣う覚悟
「――?」
「っ! セルネ!」
クレインに背中を引っ張られ、俺は背中から倒れそうになりながら先ほどは感じられなかった戦いの気配をその身に受けながら後退する。
なんだ、何かが致命的に変わった。
俺はクレインと顔を見合わせて頷きあうと、そのまま周囲を意識しつつ、敵集団のど真ん中から離脱する。
いくら何でもこのままあそこにいたらまずいのがわかるほどには連中の圧が変異していた。
「クレイン、これって一体」
「わからない。けれどいきなり変わったね、聖女の奇跡か? いやでも――」
『セルネ、クレイン、聞いているわね!』
「アヤメ様?」
頭に響く獣の声――どこか焦ったようなそれに、俺もクレインも首を傾げる。
『アンディルースの馬鹿が加護を使いやがった。その加護は存在の同期、奴らに戦う意思がなかろうとも、アンディルースの現在の在り方がそこの勇者たちにも適応される。体も魂も本人のものだ、ただ決定的に存在が違う。アンディルースの行動、意思が、まるで自分もそうであるとたどり着く』
「洗脳とかそんな感じでしょうか?」
『いや違う。そこにいる人々は、自分がアンディルースならどうするのか――つまり、大海の女神がたどり着く結果に自ら進む。アンディルースの結論、戦うべき相手……当然よ、そこの勇者たちは大海の女神になった。力云々ではなく在り方、だから信仰の量も馬鹿みたいに増えるし、あいつがやりたいことに辿りもつく。気をつけなさい、そいつらはさっきまでの雑魚とは違うわよ』
アヤメ様の忠告に、俺たち同じように息を吸い、そして吐き出した。
ああ、最近は本当にあの聖女様のことを言えなくなってきている自分がいる。俺だけじゃなく、クレインもそうなっているのがわかるし、なんとなく呆れてしまう。
『おっ』
ああ認めよう。
退屈だった。
こんなものか勇者たち、今お前たちは敵を前にしているんだぞ――。
それが、それが――こんなにも胸躍る戦場にやっとなった。
『セルネ、クレイン、一応聞いておくけれど、お前たち、俺の信者にならない? 融通するわよ』
「ハっ、その神獣様の信者譲りなんですけれど~」
「すみませんアヤメ様、俺にはもう、それなりに大事にしたい女神さまがいますので」
『……おう、2人ともそれを大事にしなさい。女神は、いえこの神獣は、お前たちを尊重するわ。だから――さっさとぶっ飛ばしなさい』
俺たちは力強くうなずき、大きく返事を返した。
それと同時に解いていた聖剣を、覚醒その他強化をその身に纏わせ、俺たちは嗤う。
「行くぞクレイン」
「ああ」




