月の女神ちゃんと繋がる安堵
「……」
ミーシャさんに背中を押され、わたくしは街の中に突撃していったヒナリアとアンを追って駆けだしている。
とはいえ歩幅も小さく、テルネのことを言えない程度には走ることが得意ではないために息を切らして大きな戦闘音を目指して全力ダッシュ中。
街の外にいるミーシャさんやセルネさん、クレインさんのことも気になりますけれど、異常な状態のアン、そのアンの加護を受けてとんでもない量の信仰を得たミリア。
意思があるのかないのか曖昧な魂。
どうにも妙なことになっている。
このことをアヤメたちは把握しているだろうし、そろそろ連絡を取ったほうが良いかもしれない。
アヤメが説教したそうな気配がしたためにここ最近、向こうの声を断っているのですけれど、いい加減声を聞き、今回の問題に対する動きでも探ろうかとわたくしは考えている。
――と、わたくしは走ったまま目を少し掻く。
どうにも先ほどからわたくしの目と体の中の……加護、でしょうか、それに違和感がある。
「う~んぅ――」
『美少女走りだぁ!』
「うわぅびっくりしたっ」
突然響くわたくしの魔王様の声――驚きに一瞬動きが止まったわたくしだったけれど、すぐに脚を動かし、冷静に事態を把握する。
……これ、女神の秘密回線なはずなのですが、どうしてこの魔王様はそれを使ってわたくしに――。
「加護?」
『やっぱ聞いてなかったなぁ。アヤメちゃんがぷりぷりしてるよ』
わたくしは目を閉じ、わたくしの加護を通してリョカさんの信仰を引っ張り上げ、そこから今日まで彼女たちが何をしていたのかをその魂に聞く。
「……またとんでもないことを――まず1つ、わたくしの加護で何をしようとしていたんですかぁ?」
『いやいや、何かするつもりはなかったんだよ。ただちょっと気が付いちゃっただけでね。メル様にも止められたし、これ以上はないもしないよ』
「まったく、メルまで出てきて――わたくしの前には一切顔を出さないのに」
『綺麗な人ですよね』
「――? ええ、そうですね」
リョカさんの口からあまり聞かない言葉が出てきた。
少し思案していると、リョカさんの信仰に袖を引っ張られるような、話をしたいという感覚。
『それでルナちゃん、あれ、多分リッカさんについてた虫だと思うんだけれど、それについてどう思う?』
「……あの虫ですか。あの時間近で見ていましたが、よくわからない。ですね。絶気なのはそうなのでしょうが、誰が、どうやって、なにに対して働いているのか。そのすべてがわかりませんでした」
『だよね~、あれに関しては僕にもわからないことが多い。もっと深くまで探れれば違ってくるんだろうけれど、みんなに止められててね』
「それにはわたくしも賛成です。わたくし周りでやはり敵になったら一番恐ろしいのはリョカさんですもの」
リョカさんの笑う声が聞こえ、わたくしも肩から少し力を抜く。
現在緊急事態ではありますけれど、それでもやはり彼女の声は心地が良い。ミーシャさんの声も力強く頼りたくなる声をしているけれど、わたくしが今やる気に満ち溢れてもおよそ邪魔にしかならないだろう。
『ミーシャは大丈夫そうだけれど……』
「セルネさんたちですか?」
『うんにゃ、ピヨちゃん。というかさっきからヴィヴィラ様が情緒不安定で、こっちにいる女神さま方がその対応でちょっと動けそうにないみたいで』
「……ヴィヴィラ、本当にあの件の後から可愛らしくというか、昔の気弱だったころに戻っているのですよ。喜ばしいことではありますけれど、今は見守っていてほしいですね」
幼くなった結果、覚悟の取り方も、思考の方向性も幼くなっていなければいいのですが、今はジンギさんもいますし、とりあえず見守ることにしましょう。
「それでリョカさん、アンについてなのですが何か対策はあるのですか?」
『一応ね、だからルナちゃんに声をかけたわけだし』
「そうなのですか?」
『うん、そろそろ夜だからね。その辺は任せてよ、切っ掛けくらいは作れるはず』
「わかりました、それではお願いします。早くヒナリアに追いつかないと」
『うん――ああそうだルナちゃん、一応このチャンネル繋げたままでお願いね。ジンギくんには最悪な運命の可能性を告げられたけれど、場合によっては僕そっちに行くからさ』
「……ですね、致し方ない場合にはわたくしからもお願いするかもしれません」
わたくしはため息をついたけれど、彼女の信仰がそっとわたくしの加護に寄り添っている感覚がし、小さな笑みをこぼす。
やはり安心する。
わたくしはわたくしが持てるだけの熱を持ってその一歩を力強く踏み込み、改めて全力でヒナリアたちを追いかけるのだった。




