勇者くんと敵を見誤った先輩勇者たち
「……あっち大丈夫か? なんか妙な気配がするんだけれど」
「そこはミーシャ様たちを信じよう。それにセルネ、大丈夫か大丈夫でないかの話なら、むしろこっちの方が厳しいんじゃない?」
「殲滅、殲滅かぁ……さすがにこの数皆殺しにしちゃうと俺ら捕まる」
「まあ、そこは上手くやっていこう」
俺は盛大にうな垂れると、先行して件の気配に進軍していた勇者たちの正面でため息をついた。
ミーシャのアホ聖女め、俺一般優良勇者なんだけれど、そこのところを考慮してものを言ってほしい。
なんてことを考えながら、うな垂れた体をそのままに顔だけを上げ、その頬に両手を打つ。
正面を睨み、俺とは在り方の違う勇者の集団に意識をやる。
「うちの聖女様が望まれた。お前ら覚悟して歯を食いしばれ――数が有利になると思うなよ、ここにいる勇者と剣は、ケダモノに傅く唯一無二。瞬きは生死を別つものだと知れ。聖剣顕現――」
「発破天涯――」
俺とクレインが戦闘体勢に移行したにも関わらず、聖都の勇者たちはその口を半開きにしたまま――戦いに赴く意識が低すぎる。
すでに聖剣はこの牙に――。
「『銀姫と交わす約束』」
「『覚醒強化』」
初撃――呆けて固まっている勇者の一団に俺とクレインの力任せの一撃。
金色の粒子から作られたいくつもの武器が追従し、勇者たちをそれだけで切り裂いていく。
身体能力の化け物へと覚醒する俺の剣の一撃は大地を砕き、呆気なく勇者たちを空へと放り投げ、無防備になった彼等へと次々と武器を奔らせていく。
そこまでされてやっとこの場での上位勇者たちが聖剣を握り始めた。
「ガイルさんじゃないけれど、最近の勇者はたるんでる」
「あの人たちもまだまだ初心者の俺たちには言われたくはないだろうね」
敵意を向けられ、俺たちは勇者の集団の中心で聖剣を解き、呆れたように口を開き、2人揃ってこの集団の中で最も強い戦闘圧を向けるそれに目をやった。
「貴様、銀狼か、何故ここに――」
「そこからだもんなぁ。魔狩りの勇者、本気でうちの聖女に勝つつもり?」
歯を食いしばり俺にちっぽけな殺意を向けながらも、魔狩りの勇者――ワイズ=スピアードが口元をわなわなさせ、それでも聞かざるを得ない、そんな葛藤が見て取れるほどわかりやすい表情で口を開いた。
「何故、何故、何故だ! 貴様も勇者であろう! なぜ我らの前に立ち塞がる!」
「正直あなたと一緒にされたくないんだよね、人さらいに人身売買、善意を逆手に詐欺まがいの恫喝、目的のためにわざと両親を殺してすぐに寄りそい救世主よろしく信頼をでっちあげてからの傀儡――俺の知っている魔王より圧倒的にひどいよあなた」
「それが俺たちの救い――」
「勇者が救ってどうする。勇者は希望だ、救われる奴は勝手に救われろ。本当に助けてもらいたいのなら聖女を頼れ」
「馬鹿な、聖女なぞ」
「あなた一体聖女の何が気に入らないのかは知らないけれど、聖女はね、この世で最も強いんだぞ」
「――」
唖然とした顔で俺を見るワイズ=スピアード。
なんだその目は、間違ったことなど言っていない。現に俺はあの聖女に一度どころかまともに攻撃が通ったこともない。
「それに聖女は存在そのものが可愛いってリョカが言ってたよ。もう無理でしょ、勝てるわけがない」
「……貴様、本気か?」
「俺はいつだって本気で生きてるけど?」
歯を砕くんじゃないかという顔で歯を噛んでいるワイズがその聖剣を俺に向けてきた。
この隙だらけの俺たちに一体いつまでぬるい空気で戦いを挑もうとしているのか。
ミーシャみたいに喝を入れさせるだけの圧倒的気配でも出せればいいのだけれど、生憎俺にそんなことは出来ない。
「ふざけるな、ふざけるな! 勇者はこの世界の特権階級だ! それを望まれている、それで世界が回っている、俺たちの行動が人々に救いをもたらすものだ! それを貴様は――」
「勇者が特権階級なら、俺の扱いももっと良くなってたはずなんだけれどなぁ。愚痴るつもりもないけれど、俺学園だと半分ポンコツって呼ばれてんだよ。この扱いどう思うよ」
まったく関係ない話に魔狩りの勇者がついにぶちギレたように雄たけびを上げ、俺にその聖剣を振るってきた。
「セルネ――」
瞬時に俺の剣が庇おうとしてくれたけれど、俺は彼を手で制しそのまま魔狩りの聖剣をこの身に受ける。
腕に奔る聖剣、それは一筋の傷をつけ、その傷から徐々に徐々に頭にまで痛みが上ってくる感覚――それと同時に胸を締め付けるような記憶。
「貴様の心、貴様の闇――俺の剣で暴くぞっ!」
「あ、あ――」
「セルネ?」
魔狩りの勇者の聖剣、それは斬った相手に思い出したくない記憶を瞳に映し続けるというもので、俺が見た記憶は、それだけは――。
俺は頭を抱えながら早歩きでワイズの下に脚を進める。
「これが俺の聖剣・魔を穿つ追』――」
「なに思い出させてんだボケぇ!」
「ぐぇぇっ!」
大地を滑っていく魔狩りを見届け、俺はその場で頭を抱える。
「ぐぉぉっ! 止めてミーシャ! 俺の腕はそっちに曲がらない!」
「……なにを思い出してんのさ?」
「ミーシャ!」
「うん、セルネの頭の中の大半はリョカ様とミーシャ様で占められていることがよくわかったよ」
何を当たり前のことを。
クレインがとても呆れており、俺は首を傾げるのだけれど、彼はトントンと頭を撫でてくれた。
「他にもいろんな人と戦ったはずなんだけれどなぁ」
「ミーシャが一番怖かったよ。俺あの体育館での出来事忘れてないからね、人間って目を合わせただけで震えるんだって初めて自覚した日だからねっ」
「そっかそっか――」
優しい目を向けられている。
「けれどどうするのさこの空気」
「ん~――そろそろかな」
敵の集団の真ん中でのんびりしているけれど、なにもふざけていたわけではない。どんどんと近づいてくる強い気配、それを待っていた。
「それでクレイン、なんかリーンさんの助っ人に心当たりがあったようだけれど?」
「……ああ、なるほど。セルネは変なところで鈍いよね」
「そうかなぁ?」
俺がそう言って背後に意識をやると、大地を滑っていたワイズが俺が殴った頬に手を添えて立ち上がり、勝利を確信したような笑い声をあげた。
この状況でこいつは一体何を見出しているのだろうか。
「ああ、ああッ! 残念だよ銀狼の勇者、貴様ほどの強い勇者であるのならいくらでも引く手あまただっただろうに。我らの戦力はこれだけではない、今ここにあちこちから集めた精鋭が――」
「もう四割削ってるね。相当強いなこれ」
「いったいどんな修行をつけてもらっていたのやら」
「おいっ、なんだ、何の話を――」
「その援軍、来ないよ。夜王がすでに対処済み」
「夜王……? なぜ、そんな大物が」
「リョカのお母さんだからだよ」
「――?」
ワイズが口を半開きにして理解できないと言わんばかりに、目を点にしている。
「いや、この進軍、リョカに向けてでしょ。もしかして知らなかったのか? この間の大きな気配、あれは月姫の気配だよ」
「……馬鹿な。ならば、今俺たちは――」
「この国最大戦力だろう組織に喧嘩売ってることを自覚しろ」
体を震わせるワイズを横目に映しながら、俺はミーシャに言われた殲滅云々をどうしようかと考えていた。
こいつら弱すぎる。
「とりあえず助っ人を待ってから決めようか」
「うん、なんかもう、戦うまでもない空気感になってるもんね」
俺とクレインは絶望している勇者連中を目に映し、盛大なため息をつくのだった。




