聖女ちゃんと相容れない海の孤独
「ミリア――」
「……」
ミリアの気配を追い、あたしとルナ、ヒナリアとシィラがたどり着いたのはこの聖都で最も大きな神殿――そこには聖都中の聖女が集まり、ただ厳かに祈りを捧げていた。
その最前線で法衣を纏ったミリアは1人祈っており、普段の抜けた空気とは大違いで近寄りがたい空気感であった。
そのミリアがあたしたちにふり返り――。
「……」
目は開いてるのに、瞳は向いているのに何も見ていないような視線。
ああ、駄目だ。この子はもう、決めてしまった。
「……ミリア、あなたなにをするつもり」
「――そう、望まれました」
シィラの問いに、冷たさが残る声色で返答したミリア、あたしは顔を伏せる。
「そんなもの誰に望まれたっていうのよっ! ミリア、あたしは、俺は、お前に聞いてんだよ――」
シィラの男としての怒号も、そのまとわりつく様なねばりつく様な声と気配に遮られる。
「フィムの信者さ、うるさい」
「――っ!」
「ずっと気に入らなかった、なんで私の神殿に星が紛れてるの? ここは大海の神殿、あまねく星の海と勘違いしてる?」
「……アン」
ミリアの肩にそっと顎を乗せて、彼女の首に手を回して降り立った小柄な影――ルナたちと同じくらいの身長でありながらどこか貧相、皮と骨だけとは言わないが、細い腕に脚、体、目には深い隈があり、何故か胸部だけは発達しているアンバランス、その口角を吊り上げてイヒと笑う顔も女神というにはあまりにも濁っていた。
「私だけのミリア、誰にも渡さない。月にも、獣にも、星にも――ねえ、フィムの聖女……邪魔」
「っつ!」
女神からの威圧、跪こうとするシィラの腕をとり、彼女の正面にあたしは躍り出る。
「……」
「ケダモノ、アヤメの聖女――本当に嫌になる。お前は毒だ」
「そうね、ミリアにとってあたしの存在そのものが毒でしょうね。でもだからってあたしはあたしを止めることは出来ない。あたしは聖女だもの、曲げられない」
「――」
「ああミリア、可哀想に。ケダモノはお前を傷つけ続けるそうだよ」
目の奥であたしを見ていないミリアだったけれど、歯を噛みしめ、握りこぶしを作っていた。
あの子は怯えている、逃げている、戦いから目を背けている、革命を恐れている。
ミリアは足を進ませ、あたしたちを通り過ぎる。
あたしもシィラも何もできない。その場から立ち去ろうとする彼女の気配を背中に感じながら、ただただ拳に戦いの気配を纏っていく。
しかし、あたしとシィラではない、ルナでもない。その覚醒が辺りを包む。
「――役立たずの三女はお呼びじゃないのよ」
「アンディルース、翼を奪いましたね」
「だからなに――」
ヒナリアが今まで見たこともないような怒気を込めた表情をアンディルースに向けていた。
「なんだよその顔」
「アンディルース、ぶっ飛ばしてやるから覚悟しろ」
「アンディルースお姉ちゃん。でしょうが三女」
女神に睨まれて脚を止めたミリアの肩からアンディルースが振り返り、その神鳥を額に青筋を浮かべて睨み返した。
海と鳥の間に月が入る。
「アン、考え直すことは出来ませんか」
「ああルナ、なんでアヤメじゃないかは聞かないけれど、お前も好きにやってたんだから、文句を言われる筋合いはない」
「……ええ、わたくしがまいた種です。わたくしからは何も言いませんよ。でも、このままですと革命が起きますよ」
「高が鳥如きに何ができる、海に引きずり込んでその翼をへし折ってあげる。さあミリア、行こう」
「……」
神殿で祈りを捧げていた聖女たちもミリアの後について歩き出した。
そんな彼女たちの先頭に大聖女の影――あたしは振り返り、その背に向かって口を開く。
「覚悟を持つのはあんた自身よ!」
「――ッ」
「どんな経緯でそこに立とうとも、誰の願いでそこに立とうとも、覚悟だけはあんた自身が持つしかないの! それを忘れるんじゃないわよ!」
「……」
届けたい願いは届けた。
あたしたちは聖女が移動し終わると同時にその場を後にするのだった。




