聖女ちゃんと革命の狼煙
あたしはルナとヒナリア、シィラとテーブルを囲み、これからどう動こうかを話していたのだけれど、ふとこの街……というよりこの街の外が異様に騒がしいような気配を覚える。
ルナとヒナリアが眉を顰めたのだけれど、それと同時に扉をノックする音が鳴り、シィラがどうぞと声をかけた。
「ミーシャ」
「セルネ――もしかして外のこと?」
「さすがミーシャ様です。こちらを」
クレインから手紙を手渡され、あたしがそれを読んでいるとヒナがクレインに抱き着き、シィラが立ち上がり2人に頭を下げた。
「旦那様ぁ」
「ただいまヒナ様、調子よさそうで良かったです。帰りに卵を買っていきましょうね」
「えっとそちらは確か――」
「あたしはシィラよ。遅くなってしまったけれど、この間はありがとうね、本当に助かったわ」
あの魔狩りだか言う勇者とシィラが戦っていた時、セルネとクレインに助けられたようで、彼女はその時のことを言っているのだろう。
あたしは手紙を読み進めるのだけれど、そこから香ってくる匂いに小さく笑みを浮かべる。
出会い頭に一発、これが一番実力を測れる。
どれだけ扱かれたのかを楽しみにしながら、手紙を畳みクレインに返す。
「……あの、手加減してあげて下さいね」
「いやよ――そういえばシィラにちゃんと紹介するのは初めてだったかしら? セルネとクレイン、あたしが退屈しないくらいには強いわ」
「アヤメ様がいないから俺が言うね――聖女が強弱で人を測っちゃだめだと思う。シィラさんこんにちは、この間のことは気にしないでください、通り道だっただけなので」
「ヒナ様とも遊んでくれてありがとうございます。シィラさんは変わった気配を持っていますね」
「遊んでないですよぅ」
セルネとクレインが手を差し出し、シィラと握手を終えるとあたしに目を向けてきた。
「それでミーシャちゃん、その手紙は?」
「読んでみると良いわ」
クレインから手紙を受け取ったシィラは手紙を読み進めていくたびにその圧を体から発生させた。
「あのバカ……ワイズは多分、この間発生したとんでもない気配に向かおうとしているわね、一体どんな敵が相手なのかわからないけれど、無謀すぎる。それにあの気配はただ物じゃ――」
「あれリョカよ。あたしの幼馴染、言っていなかったかしら?」
「……うそでしょ? 尚更止めなくちゃならないじゃない。月の魔王様を狙うということはあなたたち、それに金色炎、それにグエングリッターの極星、キサラギ、女神さまたちもそうね。あとこの国自体も敵に回すことになりそうね。ほんっとうにあのバカ勇者」
学園とあっちにいる魔王たち、それとジブリッドとおばさんの夜叉会? などなど、どう考えても勝てそうのない戦力が出張ってきそうだけれど、言わないでいたほうが良いわね。
そもそもこの聖都の戦力程度であるのなら、リョカは待ったをかけるだろう。
なんだかんだリョカは融通を利かせるし、魔狩りのあいつをボコボコにしただけで手打ちにするだろう。
とはいえ気分が良いものでもなく、ここで潰せるのなら潰しておいたほうが良いだろう。
「それでミーシャ、大聖女のあの……あの子に取り次いでもらいたいんだけれど」
「……」
問題はこっちだ。
あたしはシィラと顔を見合わすと、揃ってため息を吐く。
「えっなにどうしたの?」
「……ごめんなさいセルネさん、ミリアは動けるかどうか。わたくしが追い詰めてしまい、それにアンも――」
「いやいや、女神さまに追いつめられるって何? 俺たち人はそれを受けてもなお、立ち上がって歩かないと。女神さまのせいになることなんて本来はあり得ないことですよ」
「……」
ルナが呆けた顔をセルネに向けた。
この子もいつの間にか強者の風格を持っている。これはミリアにはきついだろう。
そんなことを考えているとクレインにくっ付いていたヒナリアが飛び跳ね、セルネの背中をポンポン叩き始めた。
「さすがセルネさんです。けれど今回に限ってはうちの姉が悪いのでそっちは任せてくださいです」
「いや女神さまが悪いなんて――」
「甘やかすなですよぅ、人がそうやって女神を甘やかすからルナ姉とかラムダ姉とかルーファ姉とかアン姉とかヴィーラとかランドとかフィムとかテッドとかアリシアが問題起こすんですよぅ!」
「……ヒナリア、ヒナリア、止めて、止めてね」
体を震わせるルナをあやしていると、ヒナリアは胸を張り空に目を向けた。
その体からはアヤメともクオンとも違う荒々しい戦闘圧が発生しており、普段の緩い顔は鳴りを潜め、戦いに、革命に、下剋上に――翼を広げる者の顔をして神鳥は言い放つ。
「私は勝手にやりますよ! アンディルースのことは本当に許せない、後で文句言ってもいいですけれど、邪魔したら姉さま方だろうが容赦なくぶっ飛ばす!」
ヒナの体から力の弾ける音が迸る。
本気でいま彼女は革命を成そうとしている。
それを眺めていたルナが深くため息をつき、ヒナに近づいてそっとその頭を撫でた。
「わかりました、わたくしが何とかしますから好きにやりなさい」
「……初めてルナ姉に認められた気がするです」
「もうっ」
にひひと笑うヒナリアに、ルナはそっぽを向いた。
そんな2人を見てあたしたちも覚悟を決める。
「まずはミリアね」
「俺たちも行ったほうが良い?」
「あんたたちはあの魔狩りとか言う奴を見ておきなさい。シィラはあたしと一緒に」
「女神さまたちと一緒だと刺激があっていいわねぇ。任せなさい、聖女の力を見せつけてやるわ」
そうしてあたしたちはそれぞれ行動に移るのだった。




