聖女ちゃんと革命を説くもの
「……ミリアがごめんなさいね」
「あんたが謝ることじゃないでしょ。それに……」
あたしはため息をついた。
ミリアと話をしていたが、あの子はあたしの手を振り払うようにして部屋から出て行ってしまい、ちょうど部屋の外に来ていたシィラに誘われ、彼女の部屋でお茶をもらっているところだ。
正直、少し困惑している。
いつもだったら殴って引っ張っていくはずだ。でも、それが出来なかった。
あの日、ジンギが死んでいた。大丈夫だと思っていたし、あたしがいるからどんなことがあっても守り切るつもりだった。
でも届かなかった。
あいつは救いを求めたわけじゃないし、あれで終わりきるつもりだったことはわかっている。
あたしが及ばないことだった。
でも――。
あたしは頭を振ると、隣に座っているヒナリアに目を向ける。
ミリアの話を聞いてひどく激高していた。
「ヒナ、大丈夫?」
「……」
隣のヒナリアにそう声をかけると、彼女は驚いた顔を浮かべてあたしの顔をじっと見つめる。
「……私としたことが、今のミーシャさんに心配させるなんてです」
「あたしのことはいいの。あんたのことを聞いているのよ」
「……クオン姉と同じく、アヤメ姉が羨ましいです。ミーシャさん、ちょっと女神に優しすぎですよう」
「そう?」
そう言ってヒナリアを撫でていると、ルナが微笑んでおり、あたしはそっと彼女から顔を逸らした。
「ミーシャちゃん、戦いの方にばかり噂が集まるけれど、本当に誰よりも聖女をしているわよねぇ。あたしも見習わなくちゃ」
「はいっ、わたくしたちの自慢の聖女です」
胸を張るルナだったけれど、あたしは少し肩を竦めてルナを撫でた。
きっとミリアを追い詰めているのはこれもあるだろう。
「ルナ、多分ミリアはこれも気にしているわよ」
「これ?」
ルナにそのつもりは当然なかった、それどころかまったくの言いがかりだ。そもそも元々はリョカに向くはずだったそれをあたしが横から掻っ攫ったんだ、予想外も甚だしい。でもミリアにも、多分あっちの――。
「サンディリーデに聖女はいなかった、それはフェルミナのことがあったから――あたしはそれを知っている、それに納得もした。でも外から見るとね、月神が聖女を選定しなかったのはそれに足る才の持ち主がいないからだ」
「そんなこと――っ」
「わかってる、あたしもリョカもそれをわかっているわ。でも違うのよ、あたしが出てきちゃった。あたしにそんなつもりはないけれど、どうにもあたしは聖女としての才能が人よりも高いみたいね。だからこそ、月神は才能ある聖女をやっぱり選定したってね」
「……」
ルナの顔がだんだんと青ざめていく。
責めたいわけじゃない、あたしもルナも足りなかった。
あたしはそっとルナの頭を抱き寄せ、傷をなめ合うように抱き合った。
「特にミリアは、その、才ある聖女を選定する月神の治める国に生まれた。その国で、別の女神の加護を持って大聖女となった。あの子にとってあたしは……」
「違う、違うわよミーシャちゃん、あなたに責任なんてないわ。それを言ったらあたしたちも悪いのよ。問題を先送りにして、ミリアにだけ悪い部分を背負わせた。もっと早くあたしたちが動くべきだったのよ」
ルナが体を震わせている。
昔はどうあれ、今のこの子はちゃんと責任を負える子だ。だからこそ現状を憂いている。
誰も彼もがここに来て、それを清算しなければならない場面に来ている。
今まで目を逸らしてきたことから、負うべき罰を――。
「いえアン姉が一番悪いですよ」
あたしとルナ、シィラでその罪を背負う覚悟を持とうとしていたら、その翼が、革命を起こした。
空気も読まずにあっけらかんと言い放つ神鳥――ヒナリアがルナの頭をぽこんと叩き、あたしとシィラの手を取った。
「もろもろどうあれ、私たちは女神です。その女神が、あろうことか人にここまでの責を負わせ、挙句の果てに翼まで奪う」
「ヒナリア、それは――」
「ルナ姉様、私たちは女神なんですよ? 過去にどんな事情があろうとも、今の環境がどんなものでも、信徒を、人々を、私たちの都合で縛り付けてはいけません」
革命と覚醒の神鳥――それは誰よりも先頭に立ち、その翼を広げる女神。
「私たちは人々の翼を折る者であってはいけません。私たちは翼を与え、飛び方がわからないのなら翼を広げて、飛び立つ人々を見送るのです。一緒に飛ぶのですっ! 私たち女神は、誰よりも世界に生きる命を愛して、信じて――革命の空へ、誰もを導くのです」
「――」
あたしの隣の席からぴょんと降り、ヒナリアは翼を大きく広げて振り返り、何よりも清廉な笑顔をあたしたちに向けた。
そんなヒナリアに、ルナは――月神は呆けた顔で神鳥を見つめていた。
「……神鳥様って、素敵な女神様なのね」
「本当です? いつでも信徒募集中ですよぅ」
あたしは息を吐いて頭をかくと、そっとルナを抱き上げてきゅっと一度抱きしめる。
「あたしたちもまだまだね」
「はい、まさかヒナリアに説かれるとは思ってもみませんでした。いつの間にあれだけ立派な女神に――いえ、わたくしが見ていなかったから。ですね。これからはもっと周りにも目を向けないと」
「ええ、一緒に頑張りましょう」
そうルナと約束し、あたしとルナは揃って胸を張るヒナリアを撫でるのだった。




