魔王ちゃんと腫れ物運命
「ヒナがブチギレてるな」
「ありゃ、ピヨちゃんどうかした?」
昼休みのミニ裁判プラス重大案件報告を終え、僕たちは作業を再開しているのだけれど、アヤメちゃんを含めた女神さまたちがまた頭を抱えていた。
「お前の報告といい、今日は本当に頭が痛くなるわね」
「まあ僕の方はどうにでもなるので、後回しで大丈夫ですよ」
「……そこは信頼してるわよ。だが向こうはちょっとね」
アヤメちゃんがチラと僕を見てきたけれど、これは向こうに行ったほうが良いのだろうか。
ミーシャがいれば何とかなりそうだけれど、あの感じ、誰か女神さまが関わっているな。
僕がアヤメちゃんの視線を受けてどうしようかと考えていると、ヴィヴィラ様がジンギくん、ロイさんテルネちゃんラムダ様を連れてやってきたのが見える。
「ああうん、あれはダメだ、ヒナはキレるよ」
「まったく、あの子はなにをやっているのかしら」
「アンディルース……あれで人に頼るのが嫌いだから、こっちとしても手が出せないんだよね」
女神さまたちがそれぞれに大海の女神様のことを話していた。
彼女について知らない僕とロイさん、ジンギくんは顔を見合わせるのだけれど、これは出張ったほうが良いかなと僕は口を開く。
「僕行ってきましょうか?」
「いえ、それなら私が」
「あーダメダメ、魔狩りの勇者は本当に魔王にだけは強気になれる奴だから。リョカちゃんとロイくんは相性が悪い」
「ん。そもそもアン姉のあの感じ、ルナ姉とラムダ姉の2人がいくと拗れるんじゃあないかな」
「……ねえヴィヴィラ、もしかしてあたしもアンディルースに嫌われてる?」
「う~んと、嫌っているのはラムダ姉というより、誰からも尊敬される人、かなぁ」
ラムダ様が複雑な顔で頭をかいていた。
そんなヴィヴィラ様に、テルネちゃんが盛大にため息を吐いた。
ルナちゃんと同じで同期だったか。
「そもそもアンはやっかみが過ぎるのです。私たち同士で比べても意味なんてないのに、それなのにあの子は――」
「いやテルネ、アンディルースに関してはお前らが悪いわよ。どんだけあいつをほったらかしにしてきたよ?」
「ほったらかしって。子どもじゃないんですから自分のことくらい自分で何とかしてほしいです」
「……そういうことじゃなくてな――リョカぁ!」
「ああうん……はい」
確かに適任だ。
僕はそっとテルネちゃんの肩に手を置き、遠い日を思い出すように明後日の方を見つめながら言葉を探す。
「テルネちゃん――」
僕は大きく息を吸った。
「私たち所謂シゴデキが会社を1人で回している気になって他をおざなりにしていると、いつか私が会社にとってのマイノリティになって、背中を刺されるどころか私以外の全てが私を排除するために動き出すというか、気が付いたら周りは敵だらけで、すでに私が何をしようとも歯車は私の思った通りに回らなくなって、挙句の果てに私だけが逆回りに回りだして、それを続けている内に社会の歯車からも外されて誰とも関わらない場所で延々と回り続けるだけの虚無とな――」
「わかりましたわかりましたってっ!」
「……振っといてなんだが、お前の目からハイライトが消えると普通に怖いわね」
ロイさんとラムダさんに撫でられながら僕は肩を竦ませると、改めてテルネちゃんに目をやる。
「実際ね、大丈夫だと僕も思ってたんですよ。でもね、思いの外寂しくてね。誰かに置いてかれて、誰とも歩幅も会わせられなくて……ついつい人を傷つける言葉ばかり出てしまう。アンディルース様がどんな方かはわからないけれど、誰にも声が届かないのはキツイかなぁ」
「……」
「もちろんね、その責任をテルネちゃんたち同期にとれ、とは思わないけれど、当事者はそうじゃない。向けるべき恨みはどうしてもそこに向いてしまう」
「お前らからしてみれば、アンディルースに非があると思うだろうがな。少なくとも人の社会の上ではそれはどっちに転ぶかわからないものだが、俺たちは何んだ? 手と手繋いで同じ速度じゃなくちゃ、世界の理なんて回せないんだよ。お前らだけ出来てればいい。が通用するわけないでしょ」
「そうでなくとも姉さんたちはルナ姉を筆頭にした実力主義だから、正直あたしたちは途中でついて行くのを放棄したよ」
長女と三女に責められ、叡智の女神さまは顔をひきつらせた。
しかしテルネちゃんはそっと手を挙げると空を指差した。
「呼びますか? ルーファ」
「今はお前に言ってんのよ。責任の所在を分割しようとすんじゃないわよ」
小さく膨れるテルネちゃんを僕は抱き上げてあやすと、話を聞いていたジンギくんが手を上げた。
「なら俺行ってくるよ。ミーシャが心配なのとお前たちの友だちが困ってんだろ? 俺なら動きやすいだろうし、問題ないだろ」
「あ~確かに、ジンギめっちゃ動かしやすいのよね。脚もあるしこっちのこと汲んでくれるし、世界的に圧倒的中立だし」
「ん~、でもジンギくん無茶するからねぇ」
「しないっすよラムダさん」
「ジンギも動かなくていいよ。リョカちゃんのお母さんが手を打ったみたいだし、それとも妙な運命でも感じた?」
「妙っちゃ妙だな。ただすぐに影響のあるものじゃなくて、ミーシャとセルネ、それにクレインとヒナとは関り……いや、ヒナとは少し繋がってるか? とにかくミーシャたち面々って言うより、なんかある1人の運命が――ああそうだ、この間会ったフィルミナさんみたいな――」
「う~ん……」
「なんでこうも厄介なことが次から次へと」
「ジンギくんの運命がどこまで見えているのかもわかりませんからね。早めに動くべきでしょうか?」
「あ~、リョカとロイさんは動かないほうが良いです。なんか2人が動くと途端にその子の死の運命が濃くなる」
全員で頭を抱える。
この運命神の聖男、一体どこまで見えているんだ?
「運命を司る者としての助言なんだけれど、こういう時はなるようになれ。だよ。下手に手を出すと後々後悔する。ミーシャちゃんたち、それとヒナとルナ姉を信じよう」
僕たちは頷き、当面はそのスタンスであることを決めたのだった。




