勇者くんと経過報告
「う~ん?」
「セルネ?」
ミーシャからこの聖都のことを調べろと、俺とクレインで神殿中を調べ廻っているのだけれどこれがもう真っ黒で、なぜこんなにも証拠を残しているのかと頭を抱えたくなる。
ここを出たら即パパ上――父上に通報することを決めている。
それはそれとして、ここ数日、どうにもミーシャの気配が妙なことになっている。
俺は別に気配の質なんてものを読めるわけではない。でも明らかにおかしい。
あのミーシャが随分と大人しい気配を纏っている。
あちらにもあちらの都合があるから、ここ数日話は出来ていないけれど、あのミーシャ=グリムガントがぶっ倒れるほどの圧をここ数日出していない。
「多分ミーシャの様子が変!」
「……セルネはミーシャ様も大好きだね」
「うんっ!」
「そっかそっか」
苦笑いのクレインに頭と喉を撫でられ、俺は上機嫌にのどを鳴らす。
クレインはいつも俺と一緒にいてくれる。リョカとロイさんも俺を甘やかしてくれるけれど、一番に甘やかしてくれるのはこの剣だろう。
「クレインもだよっ!」
「はいはい」
俺がクレインに甘えていると、頭を鷲づかみにされるような痛みが発生し、その場に蹲る。
「いたたたたたたっ!」
「ヒナ様?」
多分ヒナ様の神託だ。
けれどなんか……。
「ヒナ様なんか怒ってる?」
「……そうみたい。やっぱ何かあったのかな?」
「う~ん――ミーシャ、だいぶ大聖女のことを気にしてたからなぁ。多分それ関係でしょ。随分とおざなりに扱われているようだしね」
「正直、大聖女様とこの間のおよそ聖女に似つかわしくない戦闘圧の彼、彼女? の2人をここから連れ去ったほうが良いくらいにはこの場所は不健全だ」
「だよねぇ――どうしよっかなぁ。倒すべきは魔狩りの勇者なんだけれど、あいつやたらめったらあちこちに手を伸ばしすぎて、誰をどう倒してもきりがないよ。正直国案件だし、倒すのならリョカに協力を募ったほうが良いかも」
「だね、一個人の勢力じゃどうにも――」
「おや?」
ふと先ほどのヒナ様とは違う感覚――誰の神託だと耳を澄ますと、とても静かだが可憐な声。星を想わせる清廉な声。
『星の力は必要ですか?』
「フィム様」
『こんにちはぁセルネお兄様。相変わらず学園周りは賑やかですね』
「ええ、おかげさまで退屈とは無縁です。フィム様も今度ご一緒します?」
『わぁ――スピリカが構ってくれない時にでもお邪魔し――いたいいたいスピリカ痛いよぅ、ほっぺムニムニしないでぇ』
リョカとミーシャの影響だろうが、星の聖女様も随分と女神さまに対する扱いが前のめりだ。
「えっとフィム様? それでどうかしましたか? というかそんなに女神さまが俺たちに力を貸して大丈夫です?」
『ああはいっ、というより私じゃなくて――』
『セルネ=ルーデル』
「リーンさん?」
『ここ数日、あなたたちの調査はみていました。だからあたしの方から何人か出したので、あなたたちはそちらに集中なさい』
つまり、魔狩りの勇者やその他教会に関わりのある組織にもう動き出しているから、そっちのことは気にせずにこちらはこちらの敵を倒せということで間違っていないだろうか?
『ヒゲと堅物にも声はかけたから、国としても正式な依頼ということになっているはずだから、責任についてはこちらでとるわ』
「陛下と俺の父親を変な風に言うのはやめてくださいね」
『これで通じるのだから一緒よ。それよりもルーデルの坊や、それとクレイン=デルマ、ミーシャのことを任せたわ。あの子ジンギ=セブンスターとカグラのことがあって内心弱っているから支えてあげなさい』
「あ~……はい。やっぱりかぁ――実はリョカ以上にミーシャは表に出さないですからねぇ」
「というか表に出す感情が戦い全般だけですからね」
『そういうことよ、頼んだわ。それとそちらにも助っ人を出したから余裕があったら合流なさい』
それを最後に神託が切れ、俺とクレインは顔を見合わせてため息を吐く。
リーンさんの強引さとまっすぐ進むしかしない我らの聖女様にため息をつかずにはいられなかった。
「ミーシャは頼る頼らないの話じゃないからなぁ」
「頼られることはまったく拒否しないのに、頼ることに関しては勝手にそうなっているというか、ミーシャ様自身は頼んでいないというか、いつの間にか周りが手を貸しているというか」
「だね――さって、それじゃあ俺たちも本腰入れていくか」
と、俺が意気揚々とこの神殿を暴こうとやる気を出していると、またしても神託――。
『あっセルネお兄様、気を付けてください。何かわかりませんが、どうにも窺い知れない別の意思のようなものを感じます。ヴィヴィラ姉さまほど精度はないですけれど、なんとなく妙な感じがしますので』
「わかりました、フィム様もありがとう。今度リョカ作のお菓子送りますね」
フィム様の可憐な返事を聞き、俺たちはとりあえず怪我で動けない魔狩りの勇者を監視することを決めたのだった。




