聖女ちゃんと届かない責務
「ミリア」
「ぴっ――」
ミリアの執務室、そこに無遠慮に押し入り中にいた大きな机に向かい合って座っていたミリアに声をかけたのだけれど、彼女は肩を跳ね上げて妙な鳴き声を漏らすとそのまま首と目をあちこちに回して、焦ったようにぐるぐるとしていた。
しかしミリアはすぐに息を吐いて落ち着いたような顔を浮かべると、手に持ったカップをカタカタと震わしながらあたしとルナ、ピヨ子に引きつったようなニコぉを向けてきた。
そんなミリアがカップを置いて立ち上がり、あたしの背後にある出入り口に意識を向けているのがわかった。
「そ、それでは、私、仕事が――」
「ミリア」
ピクリと体を震わせる大聖女に、あたしは背後から近づき、その拳に信仰を込める。
「えっちょ、ミーシャさん――」
「拳が――」
ルナとヒナリアが驚いた声を上げる。
しかしあたしは構わずに拳に信仰を込めに込め、ミリアの背中にそっと近づく。
ミリアは体を震わせながらも体の動きを止めてしまっており、ぽたぽたと額から滴る汗が床に跡を作っていく。
「な、なんですか?」
「……」
「あの、私、仕事が――」
「……」
「私には、これしか」
「……」
「だから――」
「ミリア」
「……」
体の震えを止め、歯を鳴らしたような音がすると同時に、ミリアが勢いよく振り返った。
瞳には涙をため、くりくりとした大きな目はあたししか映っておらず、口元をわなわなと震わせて何かを言いたげにしていたけれど、彼女はそれを飲み込むように喉を鳴らした後、真っすぐと見つめるその瞳で口を開いた。
「私は、大聖女です。皆からの期待を、救いを、私が、受けて……だから、座っていることを、望まれるのなら、私は――」
「ミリア」
「大聖女、大聖女なんです。私には、それしかないから――」
「ミリア」
段々と呼吸が荒くなるミリアに、ルナは痛ましい顔を浮かべ、ヒナリアは額に青筋を浮かべ奥歯を噛みしめている。
「私に、力はありません。だけど――っ」
「……」
拳に込めた信仰を霧散させ、あたしはあたしより少し高い場所にある彼女の頬に手を伸ばし、そのまま頭に手を回して胸に抱き寄せた。
すっぽりと胸に収まったミリアの頭は小さく、ポロポロと涙を流している彼女は両手であたしの体を何度も叩き、鼻息を荒げて小さな獣のように唸り声をあげていた。
そんなミリアをあたしは撫で続ける。
ああ、この子はジンギと同じだ。
自分を弱者と疑わない。大聖女である自分と本来のミリアを秤にかけて釣り合っていないことが歪みを生じさせている。
そして今まではそれでやってこれたけれど、その均衡を壊してしまったのは――ああ、あたしだ。
「どうして――」
「……」
「どうして、あなたではないのですか」




