魔王ちゃんと運命の慰め方
「だあもう! ヒナの馬鹿たれ」
「僕ですら全然気が付かなかったとは」
「ヴィヴィラと違ってヒナリアのあれはそうじゃないことを認めさせれば、際限どころかなんにでも適用されますからね。自分で言ったことなのになにも違和感を持てない」
「ヴィヴィラとランドばかりに目を向けていたから、ヒナリアのことを後回しにし過ぎたね。あの子は三女の中でも異質、でも三女の中でもこちらに寄り添ってくれていたから、あたしたちは甘えていた。姉失格だよ……」
僕のカウンセリングが終わり、改めてダンジョンの準備をしていたのだけれど、その途中で女神さまたちの顔色が変わった。
どうにもピヨちゃん関係で問題が起きたそうなのだけれど、話を聞いている限りミーシャが解決したらしい。
さすが僕の幼馴染だと胸を張っていると、ジンギくんの傍で作業をしていたヴィヴィラ様の顔色がひどいことになっており、彼女は体を震わせながらその場にへたり込んでいた。
「おいヴィ、大丈夫か――」
「あたしのせいだ、姉さん、そんなこと、一言も……」
カウンセリングが必要な人が多すぎる問題。
僕も人のことを言えないけれど、女神様人ともに精神面の強度の差が顕著過ぎる。
僕自身も精神面が強いとは言えないし、ああいう子に対して持っている言葉も少ない。
というかミーシャに頼り過ぎてた弊害がここまで来ている。
何かフォローしなくてはとヴィヴィラ様に脚を進めるのだが、運命神様の様子に気が付いた獣と豊穣がすぐに駆けだしていた。
「おらぁヴィヴィラぁ!」
「……ふぇ」
「ああもうヴィヴィラ、最近は妹感を惜しみなく出してくれて、あたしも嬉しいよ。でもヴィヴィラは何も悪くないんだから、そんな可愛い顔をして泣きはらさないで。リョカちゃんが襲いに来るよ」
「僕のことなんだと思ってます!」
アヤメちゃんがヴィヴィラ様の頬を両手で掴み、ラムダ様がはにかんでヴィヴィラ様の頭を撫でる。
女神さまの精神的支柱はあの2柱で確実だろう。
しかし改めて、落ち着いて泣き顔のヴィヴィラ様を見ているとこう、クるものがあるな。
やはり運命神様は紛うことなき美少女だ。
「……リョカさん、締まりのない顔に変わりつつありますよ」
「ぐへへ――ちがっあ~えっと。ピヨちゃんなにかありました?」
「うん、女神として致命的な問題がね」
「もしかしてあれです? 僕も気になっていたんですけれど、女神さまって人に認知されていないと存在が危ういですよね? ピヨちゃん、知名度テッドちゃんよりないと聞いていたので、どうしているのかなとは思っていたのですが」
「……うん、まさにそれ。しかもヒナリアの権能は起こした革命を当たり前の認識に変えるものだから、僕たちも全く気が付かなかったんだよ」
革命を当たり前に変える? つまりあれだろうか。
問題の否定、それを肯定させることで世界が勘違いするってことだろうか。
問題A・俺は強い。革命B・いいや弱い。世間C・確かにな。で、問題Aを世界が弱いと錯覚する。
まあこの例えは革命にはなりえないけれど、原理はこんな感じだろう。
つまりピヨちゃんは何らかの革命を起こし、自分は認知されていなくても心配はない。的なことを世界に認めさせたのだろう。
ヴィヴィラ様の権能に似た部分はあるけれど、ないものをないと言い切るのとあるものをないと言い切るのは別物ではあるから、これはこれで厄介だな。
いや、だからこその革命か。
英雄とは得てして嘘から成り立つものだ。
そもそも女神さまの関係性は三女世代から互換性がある。
フィムちゃんテッドちゃんアリシアちゃんの四女世代もそうだけれど、ピヨちゃんヴィヴィラ様ランド様もそれなのだろう。
ランド様についてはわからないけれど、ヴィヴィラ様が試練を与え、ピヨちゃんが革命を促し英雄を育てる。
ピヨちゃんのそれは本当に人目線の優しい革命だ。
「というかリョカさんも気が付いていたのなら言ってくださいよ」
「いやごめん、女神さまの力については把握していなかったから、それで大丈夫だとばかり」
「まあそうだよねぇ。しかもあの感じ、意図的に隠していただろうし、こっちから言わなくちゃわからないよ。ミーシャちゃんはよく気が付いてくれた」
僕らはそれぞれ頷きつつ、ヴィヴィラ様に目をやるのだけれど、相変わらずポロポロと涙を流す運命神様がアヤメちゃんとラムダ様に引っ付いていた。
「あたしが、自分勝手にしていたから、ヒナ――姉さん、だれにも頼れなくて……ほんとうなら、あたしたちが、支えなきゃなのに」
「おいおい、ヒナはそんなこと言っていないでしょ」
「姉さん、優しいから――」
「うんうん、ヒナリアはいつでもヴィヴィラを大事にしているもんね。だからこそね、ヒナリアが理由でヴィヴィラが泣いていたら、あの子も悲しんじゃうよ」
「でもぅ……」
「お前なんであの時悪役面して出てきたんだよ。隠し事なくなってから小さい時の感じになりやがって」
「今の頑張っているヴィヴィラも素敵だけれどね。あたしたちはとことんこれに弱いね」
ゴスロリメカクレ意地っ張りの泣き顔とかたまらんな。しかもあの見た目で昔は甘えん坊だったとか、もつか? 僕の鼻。
そんなことを考えていると、泣いているヴィヴィラ様に手を伸ばす男の影――ジンギくんがあきれ顔で運命神様を抱き上げた。
「ジンギぃ……」
「はいはい。アヤメ、ラムダさん、ちょっとこいつ借りるぞ」
ヴィヴィラ様の脇に手を入れたジンギくんが彼女を抱き上げて胸で抱きながら背中をポンポンと撫でている。
「聞いた感じ、お前の行動でヒナが困ったことになっていたんだな?」
「うん……でも姉さん、それをあたしには言わないから」
「だろうな。俺でもそうする」
「なんでよぅ」
「だって言ったら泣くだろお前――」
ジンギくんはヴィヴィラ様を抱っこしたままその場に腰を下ろし、歯を見せてにかっと笑い、膝の上にいるヴィヴィラ様が顔を上げたのと同時に口を開いた。
「俺もヒナも、お前の可愛い笑顔を見ていたいんだよ」
「――ふがぁ」
泣き顔から一転、顔を真っ赤にして体を震わせる運命神様――僕の脚は自然にジンギくんの背後に進ませ、僕はそのまま彼の背中に思い切り平手をぶつける。
「あいたぁ! 何すんだリョカ!」
「うごごごご――お前、お前、ほんとちょっと見ない間にそんなイケメンムーブを習得しおってからに」
「いや何の話だよ」
自覚なしであんな言葉を口から出すのか。怖すぎだろこいつ。
ヴィヴィラ様の脇に下ろして立ち上がって僕と対峙するジンギくんだったけれど、本当に覚えがないのかしきりに首を傾げている。
脇に置かれたヴィヴィラ様の肩をアヤメちゃんとラムダ様が軽く叩いている。
「これが一番効果あんだもんなぁ」
「あたしたちにはできないことだけれど、ちょっと妬けるね」
「あ、えっと、ちが――」
「ああいいよいいよ、それだけヴィヴィラが今、健全にあるってことだから、あたしたちにも喜ばしいことだよ」
顔を赤らめながら小さく指を動かしているヴィヴィラ様に、女神さまたちは生暖かい目を向けていた。
「なんだか僕の若い頃を思い出す微笑ましさだね」
「土から発掘される惚気はもう十分聞きましたから言わなくてもいいですよ。いつの話ですか?」
「若い時って言ってるでしょ」
「いたたたたたっ」
クオンさんがテルネちゃんの頭を鷲づかみにしながら、笑顔を振りまいていた。
まあこうしてジンギくんに当たってはみたものの、ヴィヴィラ様に関してはもう、彼に任せておくのが良いだろう。
なんだか今日はカウンセリング日和なのだろう。
僕もピヨちゃんもヴィヴィラ様も、今日ばかりはそれぞれ甘えていよう。
そうして僕たちはのんびりと作業に取り掛かるのだった。




