幸薄な大聖女ちゃん、その席から立てず
私は特別だ。
そんな感情を持っていたのも最初の数日間だけ。
聖女として高い素質を持ち、ここで大聖女として務めよと連れてこられてから私は私の無力さを噛みしめるばかりだった。
苦しむ人々――ある時は体の傷、ある時は心の傷、たくさんの救いを求める声がこの神殿に集まってきた。
ここにいる聖女や他の人々、彼ら彼女たちは皆優秀だ。そんな声に全力で応えていたし、救われる人々も多くいた。
けれどそれでも……。
私は大聖女だ、ここに来る人々は救われたいからここに声を届け、大聖女様なら救えるとあまりにも真っ直ぐな期待をいつだって持っていたはずだ。
でも――。
「……私に、全ては救えません」
「ミリア?」
どこまでも不遜でありながら真っすぐと見据える気高い瞳――彼女、ケダモノの聖女様であるミーシャ=グリムガント様が私の手を引きながら顔を覗き込んできた。
ワイズを止めきれなかった私をミーシャさんが連れだしてくれた。
私は大聖女、こんなことで顔を下げてはいけないのに、私にはそれが出来なかった。
聖女は座っていればいい。ワイズの言う通りなのでしょう。
私に、人々を救えるだけの力はない。
「……ミリア、あなたは真っ当な聖女です。それを忘れないでください」
「用意された席に座っているだけのわたしが、真っ当であるのでしょうか」
これは八つ当たりだ。
神獣様は私を慮ってくれている。女神さまに対してなんて無礼を働いているのだろうか。
でも、こればかりはどうにも割り切れない。
私たちはただの教会であった。
けれどそこに勇者が加わった。このセレミルーナでは代々から勇者が聖女を守る任についている。
私がここに務めてからもそれは変わらなかった。
聖女と勇者の関係はそれだけだったのに、私が大聖女を務める前からここの勇者たちは聖女を守るためと称して様々な場所に手を伸ばしていた。
何をしているのかは知らない。それを知ったところで私には何もできない。
だからこそ、見てみぬふりを続けている。
私がそれを見ないことで、少しでも救われる人がいるのならそれでいいと、私は言い訳を続けた。
私は座っているだけだ。
大聖女という立場でありながら、私の力も、心も、そこに届いてはいない。
私が顔を伏せると、その手が、あまりにも眩く荒々しいそれが頭に伸びてきた。
「ミリア、行くわよ」
何も聞きはしない。
あなたの目には、私はどう映っているのだろうか。
私が出会った誰よりも聖女らしく、誰よりも力を持ったミーシャさん。
ああ、本当なら私なんかではなく――。
「……どうして、あなたではないのでしょうね」
「あたしはあたしでしか成りえないけれど?」
そう言って、ミーシャさんは私の手を優しく握り、それでも力強く引っ張ってくれる。
ああ、私にもこれだけの力があったのなら、こんなにも悩まなかったのだろうか。こんなにも――。
そうやって手を引かれるまま、私は自室へと連れていかれるのだった。




