魔王ちゃん、反組織と対峙する
「おぅふ……なんかブルッて来た」
ミーシャたちを教室に閉じ込めた僕は室内訓練所、所謂体育館にパイプ椅子っぽい何かを引っ張ってきて腰を下ろしている。
「っとごめんごめん、それにしても随分集めたね。セルネくん人望あるじゃない。偉い偉い」
「……俺の人望ではない。みんなそれぞれに思惑がある」
「でしょうね、殺気が素晴らしい。でも人望がないってことはないと思うよ。だってそもそも君がいなければきっと僕に喧嘩を売ろうなんて考えもしなかったんじゃないかな。胸を張っていいよ、君は立派な勇者だね」
素直な称賛をセルネくんに送っていると、ヒステリックでも起こしているのかという激しい顔をした女生徒、ランファ=イルミーゼが彼を守るように前に立った。
「セルネ様、あんな汚らわしい存在と言葉を交わしてはなりませんわよ~。あれは敵で、わたくしたちが倒さなければならない存在ですわよ~」
「わかってる」
わかっているなんて言うセルネくんだけれど、明らかに何かを葛藤しているようにも見える。
少し近づきすぎてしまったかなと僕は反省するけれど、そんな彼の困惑を嬉しいと思う反面、この場面では勇者でいてほしかった。
「はっ、なんだっていい。あいつをぶっ殺せんだろ。笑えよセルネ」
さらに隣に立つマッチョマン。確か名前はジンギ=セブンスター、ミーシャやガイルタイプの戦闘狂かとも思っていたけれど、どうにも向けられる殺気から並々ならない恨みを魔王に持っていると推察できる。
さて、周りのことは正直どうでも良いけれど、セルネくんのやる気が出ないのはちょっと困る。僕は彼に発破をかけるために、ジンギくんに目をやる。
「ねえジンギくん、昨日僕に臆病者だとか、戦う覚悟もないとか散々言ってくれたよね」
「あ――?」
僕は指を鳴らし、ジンギくんの頬に魔王オーラを放つ。彼の頬から赤い筋が流れると、周囲がしんと静まり返った。
「君たちじゃ相手にならないんだから、戦いになんてなるわけないでしょ? これから起きるのは一方的な虐殺だよ」
ニコッと満面の笑顔で僕はその場でタップを踏み、指を鳴らしながらクルクルと辺り一面に魔王オーラをばら撒く。
「ほら、もうこれだけ減った」
今僕たちが通っている校舎には1年生しかおらず、2年、3年はまたそれぞれの校舎を持っている我が校なのだけれど、今年は1年生だけで約500人はおり、その内これに参加しているのは400人ほど。
そしてわざわざこんな体育館なんて狭い場所にいるのは100人程度で、あとは体育館の外から様子を覗っていた。
今の魔王オーラで40人くらい伸したけれど、正直これだけ密集していると撃っただけで当たるからもう少し考えてほしい。
「はっ、何かと思えばそんな豆鉄砲で何ができんだよ」
「豆鉄砲とはひどいなぁ」
僕はジンギくんの挑発に乗ってあげることにした。
そもそも今撃った魔王オーラは彼の言う通り豆鉄砲である。普段やっているように刃物形状で飛ばしてしまうと血濡れの体育館になってしまい、多分ホラースポットと化してしまう。
とはいえ知ってもらわなければ意味もないと僕は薄く鋭くした魔王オーラをあちこちの壁に撃ち出し、みんなに視線を向ける。
「普通にやっても良いけれど、豆鉄砲じゃないと君たち真っ二つだよ」
「――」
周囲の生徒たちの顔から血の気が引いた。
そして先ほどまで勝気な顔をしていたジンギくんですら、足を一歩引いたのが見える。
「ねえジンギくん、君の考えていること当ててあげようか? 君は多分体を硬化させるみたいなスキルを持っているね。僕の勘だとギフトは『未熟者の金属片』自己強化型で、体を金属に変える攻撃と防御を備えた良いギフトだ。で、君は今思ったでしょ? 僕の絶気はこの金属すら切り刻めるんじゃないかって」
ジンギくんが奥歯を食いしばって額から脂汗を流している。
「多分余裕で切り裂けるね。これが架空の金属だったり僕が考えた最強の金属だったりしたら話は別だけれど、今の君じゃそこいらにある金属くらいにしかならないでしょう? やってみようか」
ついにジンギくんが握り拳を作って顔を伏せた。勝てないって思ってくれたようで何よりだけれど、問題はこの子じゃない。僕はちらとセルネくんを見る。
「もういい、下がれ」
勇者・セルネ=ルーデルが前へと出てきた。
正直これを待っていた。ここにいる全てを倒すことは不可能ではないけれど、それなりの労力がかかる。
けれどこうやって群れのボスが出てきてくれるのであれば、大して疲れないし容易い。それと個人的に彼とはサシでやり合いたかった。
「やっと出てきてくれた。正直他じゃ相手にならないし」
「……俺でも相手になるんですか?」
「なるよ。というかこの形じゃないと駄目でしょう」
「そうですね。俺は勇者です、だから魔王を倒さなければならないし、ここに集まった少なくとも魔王を恨んでいる人たちから目を背けるわけにもいきません」
「おっ、ぽくなってきたね。セルネくん偉い偉い」
「魔王、リョカ=ジブリッド、俺は今からあなたに挑みます」
「うん、かかっておいで。さぁ因縁をかき鳴らせ、剣戟で福音を鳴らせ、心湧きたつ祝福を――」
「聖剣顕現」
金色の剣。まだ名もない無名の剣だけれど、その輝きは何よりも高尚で、何よりも勇者らしかった。
きっとセルネくんはよい勇者になると確信出来るほどに、その聖剣は素晴らしいものだ。
「行きますっ!」
「覚悟しろ勇者、僕は強いぞ――うひゃぁあぁっ」
僕は指を構え、彼の剣を受け止めようとした。
しかし僕の中で、何かが崩れる音と壊されるような轟音が鳴り、耳を塞いで蹲ってしまう。
「ど、どうしましたか?」
「いやいやいや、ちょっと嘘でしょ。あり得ないって、あれ結構な硬度だよ。ほとんどのオーラは結界につぎ込んでるんだから壊されるわけ……はっ、ちょセルネくんちょっと中断させて、奴が来ちゃうっていうかわりとヤバいっていうか」
「な、なにを? それに今さら」
「いやこれは僕の命の危機でして」
「一体どういう――あっ」
「とにかく隠れさせて――」
「リョカ、一体何から隠れるのか、ぜひあたしに教えてくれない?」
ほとんどの魔王オーラを教室に使っていたために、探知オーラを張っていなかったのも悪いけれど、いつの間にか背後に回っていた聖女様に、僕は脂汗を流す。
そもそも防御に回すオーラもほとんどなく、超破壊聖女パンチなど今喰らったら間違いなく死が見える。詰んだ。リョカ=ジブリッド、ここに散る。女神さま、しょうもないことで死んでしまい本当に申し訳ない。と、穏やかな気持ちで、僕は背後から感じるおよそ聖女ではありえないほどの殺気に振り返る。
「ふんっ!」
「――」
最早声も出ない。とんでもない衝撃が顔面に届き、成す術もなく僕の体は浮き上がり、ぶっ飛んでいく。
そして壁に激突すると同時に、僕は意識を手放した。




