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花に出会った


 人間、エルフ、獣人、魔族。

 この四種族が生きる世界に僕は生まれた。


 各種族間の関係はとても良好で、遠い昔には戦争もあったみたいだけれど、過去の遺恨を感じさせないくらい異種族間の交流は盛んに行われている。


 その様子は僕が通う世界中立アリフレッタ学園を見てもらえば分かると思う。

 種族間で勃発した戦争の後で締結された和平協定の証として建てられたからね。


 名前の通り世界の中心に建つ学園。

 この世界に生きる者なら誰でも入学することができる世界唯一の学び舎だ。

 自分の興味のある分野がたくさん学べるようにと、剣術や魔法、治癒といった専門科がある。


 剣術科(フェンサークラス)の所属の僕は、狩人の父と母の間に生まれたおかげかそこそこ剣が得意だった。

 とくに教えてもらったわけじゃないし自己流の剣技だけれど、いつかは僕も得意を活かせる仕事に就きたいと思っている。


 そこで僕が選んだ進路がアリフレッタ学園に通う事だった。


 ここでなら僕の世界も広がるだろうと思ってのことだ。

 狩人になるのも悪くないんだけど、どうせならもっと人のため世のために剣を振るいたい。

 だから僕は故郷の田舎を出て単身上京することにしたんだ。

 両親はちょっと寂しそうにしていたけれど、アリフレッタ学園なら寮もあるししっかりしたところだから安心してもいいかと最終的には納得してくれた。

 学費も自分で貯めて出すって言ったんだけど、息子の将来のためだと言ってドンと一括払いしてくれた両親には感謝しかない。その代わり仕送りはないけどね。


 そうして入学を果たした学園で、思った通り僕の世界は広がった。


 初めて教わる剣術の基本、戦い方、武器の種類。

 知らない事ばかりで、僕はとんだ田舎者だったんだなと改めて実感したのを覚えている。

 四種族が集まっているだけあって生徒数も凄い人数だし、割とクセのある人も多いけれど、クラスメイトのみんなは良い人ばかりで毎日が充実していた。


 季節はあっという間に過ぎて、最上級生の卒業が近づく冬の終わり。

 次年度の生徒会役員を決める選挙が始まった。

 校門に候補者たちがずらっと並び応援者と共に盛大なアピールをするようになって、朝一番と放課後が賑やかになった。


 ある者は得意な魔法を披露して観衆を驚かせてみたり、ある者は模擬剣で決闘し観衆を沸かせてみたり。

 方法は様々にお祭りの如く賑やかだったんだ。


 そんな中、一人だけ静かに蕾を開く人がいた。


「この度、第三十期アリフレッタ学園生徒会長に立候補しました、マイニーシャカ・R・アルノルディです。よろしくお願いしますね」


 チリンと可憐な音を立てる呼び鈴のように、その声は喧騒をすり抜けて僕の耳元へとやって来た。

 開花した蕾が大きく花びらを広げていくかの如く、鼓膜を震わせた声に振り向いてみれば、魔族の女の子と目が合った。

 鮮やかな紅色のぱっちりと大きなアーモンドアイが僕を目に留めた瞬間、微笑んだように目尻を下げる。

 ワインレッドのブレザーに紺色のスカートから伸びる白い手足が眩しい。胸元には慈愛を表す桃色のリボンタイが風に揺れる。


 ぴっと背筋を正し、凛と咲く花のように彼女はそこに立っていた。


 僕が彼女を一目見て魔族だと分かったのは、その髪がうねうねと蠢いていたから。

 ちょいちょいとうねるダークグリーンの髪、それが手招きしているように見えた僕は素直に彼女の元へと(いざな)われた。


「こんにちわ。──そのタイの色、剣術科の生徒さんですか?」


 触手のようにしゅるりと伸ばされた髪が僕の襟元を示す。つられて視線を落とせば、忠誠を表す青色のネクタイが目に入った。


 アリフレッタ学園の制服は所属する科によってタイの色が分けられているんだ。男子はネクタイ、女子はリボン。

 マイニーシャカさんは癒やしの桃色だから所属は治癒術科の生徒だとひと目で分かるようになっている。 


「あ、はい。剣術科の、一年です……」


 花のようなマイニーシャカさんに内心ドキドキしながら、僕の目は彼女の顔の一部を映す。

 近くへ来てみて気づいたんだけれど、マイニーシャカさんは薄黄色の布地で作られたマスクをしていたんだ。

 風邪かと思ったんだけど、彼女の声はくぐもることなく嗄れていることもなく澄んで聴こえてくる。

 特殊な施しをしたものなのかなぁと、よく見てみると紫色に輝く糸で縫われているみたいだった。


「うふふ、私のマスクが気になりますか?」

「──えっ、あ! いや、その……!」


 視線に気づいたマイニーシャカさんに問われて僕は大慌てだった。

 いやだって失礼だよね? ジロジロ見るなんてさ。

 けれどマイニーシャカさんは特に不快に思ったわけでもなさそうで、焦ってわたわたとする僕を見てクスクス笑っていた。


「ふふふっ。ラフレシアを知ってますか?」

「ラフレシア……って、あの植物界の……?」

「はい、私その一族の娘なんです」

「ええっ!?」


 あっさりと告白された事実に僕は素直に驚いた。

 ラフレシアは五大魔族として知られている一族だったからだ。


 水のオンディーヌ。

 火のサラマンドラ。

 風のシルフィード。

 土のグノーム。

 花のラフレシア。


 世界中に根を張り巡らせ草木が枯れればそこに緑を生やす。

 有毒性のある植物や、食人食虫植物など、危険な植物は全てラフレシアが統治する場所で管理されているため、森や山に安心して入れるようになったのもラフレシアのおかげだ。

 そんなすごいところなんだ、五大魔族って。


「確か五大魔族ってそれぞれ受け継がれた特性があるんでしたっけ?」

「はい。……ちょっと恥ずかしいんですけど、ラフレシアの特性『ブレス』ってそれはそれは強力なんですよ。普段はちゃんとコントロール出来るんですけど、私緊張しちゃうと無意識にやっちゃうんです……」


 なるほど、と僕は納得した。

 ラフレシアのブレスは狭い範囲から広範囲にまで行き渡る。

 でもそれを人が集まる場所でやってしまうとそれはもう地獄絵図と化してしまうらしい。

 同じ魔族同士なら耐性があるということでちょっと麻痺する程度で済むようだけど、なんの耐性もない人間が受けたらまず気絶するし最低三日は目覚められないとかなんとか。


 それほど強力なものだから、うっかり(!)発動しちゃっても大丈夫なように特殊な効果を施したマスクをしているんだとマイニーシャカさんは語る。


「でも私、ラフレシアの一族として恥じないよう緊張しても大丈夫になりたくて。だから今回生徒会長という大役に立候補してみたんです」


 健気だ。

 歳上だけどこの子すっごく健気で良い子だ……。

 そうか。例え五大魔族のすごい家の生まれでも、それなりの苦労があるものなんだね。

 微笑んではいるけどその瞳は真剣だった。

 彼女は心から克服を望んでいるんだ。

 僕だったら苦手を克服するために大役を担おうとするなんて出来ない。 


「僕、絶対あなたに投票します」


 素直に応援したいって思ったから僕はマイニーシャカさんにそう言葉を掛けた。

 するとマイニーシャカさんの表情がみるみるうちに華やいだ。

 ゆっくりと蕾を開く花のように、ふわっと。

 心から嬉しそうに瞳を潤ませ、白いほっぺたにぽっと桃色を咲かせて、マイニーシャカさんが笑った。


「嬉しいです! 是非、よろしくお願いしますね」


 蔓草のようなダークグリーンの髪も嬉しそうにうねうねしている。

 まるで喜びを表現した蔓草のダンスだ。

 マイニーシャカさんは表情いっぱいに、体全体を使って感情を伝えてくれていた。


「────っ」


 それを見た僕は、がちりと心臓を掴まれたような感覚を得た。

 胸がとても苦しいけど、苦しくない。

 ちりちりと痛むようで、痛くない。

 心と心がせめぎ合って混ざり合って、新しい感情が生まれたようなそんな感じ。


 僕の意識を奪った可憐な声、僕を魅了する花のような仕草。


 ここまで誘われて、惚れないわけが無かった。

 きっと最初にひと目見たときからそうだったんだろう。

 僕の中にマイニーシャカさんに対する恋心をはっきりと自覚した。



 この時は短いやり取りとなってしまって、名前も名乗ることも出来ず。

 数日後無事に生徒会長として舞台に立った彼女の姿を見れたとき、それはもう嬉しかった。


 しかし僕たちは学年も違うしクラスも違う。

 好きを自覚したもののお近づきのチャンスは無いし、生徒会長になったことでマイニーシャカさんは注目されるようになった。

 しかもあの可憐さだ。ライバルは一気に増えた。



 だから僕はこの恋を早々に諦めてたんだけど、でも完全に諦めていなくて良かったって今でも思う。

 もし諦めていたらきっと、裏山で困っていたマイニーシャカさんと再会することもなかったし、『現在』も無い。


 最初はお互い緊張していたからマイニーシャカさんもマスクを装着していて。

 でも親交を深めようとお昼を共にするようになって、僕たちを取り巻く空気も少しずつ柔らかくなった。

 『マイカって呼んでほしい』と言われた付き合って一ヶ月目の日、僕は二人きりのときはマスクを外していいよって言ったんだ。


 だけど、せっかく近づいたはずの距離も僕が急ぎ過ぎたせいで離れてしまったかもしれない。



 三ヶ月目を迎えたあの日以降、マイカさんは再び僕の前でもマスクをするようになった。

水→魚人

火→ドラゴン

風→有翼

土→ゴブリン

花→アルラウネ的な


魔族=モンスター娘みたいな

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