第四十一話「思い出」
いよいよ、明日は移動の日だ。人間界だったら、毛布もなしに土の上で寝たら低温で翌朝には電池の切れたロボットのようになっていただろう。しかしここは気温差が激しくないのがありがたい。皆で近寄って、服装も変えず眠りにつく。明日は忙しくなるだろう。体力も大幅に消費することになるだろう。どらごんと、皆がいるのを確認し合い横になる。
しかし、僕は寝ように寝れなかった。家族とのたくさんの思い出が、頭の中で次々と芽を出す。芽を出した記憶は、久しぶりに地上に出れたようで、元気に成長し、葉を付け、花を咲かす。その愛おしい匂いを嗅ぎ、その景色が恋しくなった。
秋、綺麗ねえ。見える? お母さんが窓をうっとりと眺めながら言う。もう何回も見ている景色。雲の上から見える夕焼けというか朝焼けは、確かに綺麗だ。空の青と太陽の赤のコラボは、見事なグラデーションを僕たちに魅せてくれている。機内では、お父さんを含めてほとんどの人が眠っている。ちょこちょこと、起きている人の頭上に明かりが点いていて、ゲームをしていたり、映画を見ていたり。また、外へ目をやる。太陽はさっきより明るく金色に光っていた。綺麗だね。僕はお母さんに返事をした。
もうすぐだなあ。目の前からは香ばしいカレーの匂いがしてくる。ぐつぐつと熱い液体をゆっくりと混ぜる。もうそろそろ、味見をしようか。お父さん、味見する? 隣には、赤いチェックのエプロンをつけたお父さん。おお、父さんと秋の特製カレーができたなあ。嬉しそうに味見をする。美味しいぞ。白米とカレーをお皿に入れ、食卓に座る。いつもとは違う新しい食材……エシャロットだ。お母さんなら絶対に入れない、玉ねぎ代わりのエシャロットだ。男の手料理は、何かしらこだわったものが多い。おかわり! 僕はその後お腹を壊すほど平らげた。
カレー、食べたい。エシャロットじゃなくていい。カレーが欲しい。でも火のないこの世界では無理だろう。……いや、マッチの火ならある。でも……鍋なんてないだろう。カレーのルーだって……あったりするのだろうか。次第に僕は眠たくなり、目を閉じた。




