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第三十四話「棋士」

 部屋には、いつも通り中学生3人――晝眞(ひるま)(ひかる)、実夏――と、高校生1人――私――がいた。リュウは男子部屋で本を読んでいるだろうし、小学生は女子部屋にいる優子と色珀(いろは)を除き皆外にいた。

 私はしばらく美香と喋っていたが、実夏は散歩に行ったので退屈になり、数メートル先で将棋をしている光と晝眞の元へ行ってみた。

 私が近寄っても、晝眞は私に気付きもしなかった。代わりに光が私の方に振り向いた。

「な、晝眞。小竹に気付いてる?」

「誰?」

「小竹だよ。龍がよく話す……」

 光はそこまで言ってから、ハッとしたような顔で私を見た。

「えっ?」

「いや、何でもない」

 光は咄嗟に将棋が乗った机に目を戻した。

「晝眞はね、将棋めっちゃ上手なんだよ」

「そうなの?」

 光の向かいに座っている晝眞は、駒を一つ前に動かした。ばらばらに並んだ駒がいっぱいあったが、将棋をしたことのない私にはさっぱり解らなかった。でも、半分以上の駒の五角形が光へ差されていることは分かった。

「いや、まだまだだよ。プロの棋士になるには最低1万時間費やさないといけないんだ。僕は5000だ」

 話している間も、晝眞は将棋盤から目を離さない。

「プロの棋士……って、晝眞君、プロを目指してるの?」

「うん。僕の将来の夢だよ」

「晝眞は運動苦手だもんね。俺も無理だからこうやって室内に残るんだ。そしたらいつの間にか晝眞の相手させれてんだよ」

 そう言いながらも、2人は仲良さそうだった。

 うーんと唸って、光が自分の駒を横に動かした。

「小竹は運動得意?」

「えっ、運動は……まあまあかな」

 本当は得意な方だけど、好きだということもない。得意な理由だってきっと剣道のおかげで、剣道部に入っていなかったら私も将棋をしていたかもしれない。

「そうなの? じゃあ小竹の将来の夢って何?」

「夢は……」

 本当の夢を言おうか少し迷ったが、やっぱり言えない。夢にちっとも近づけていないのだ。

「まだ決めてないよ。幼稚園の先生とかかな」

 適当なことを言って済ませてしまえば笑われないだろう。

「なんで?」

「子供とか可愛いし……」

 話を聞いていたのか、なぜか晝眞がくすっ、と笑った。

「俺はじゃあ小学校の先生」

「えっ?」

「子供可愛いじゃん。でも俺幼稚園は嫌だ」

 なぜか私が子供好きな印象になってしまったけど、私も幼稚園児は苦手な方だ。そのまま光たちには私の本当の夢――モデルになること――は知られることはなかった。

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