第三十三話「丘」
もう暗くなってきた。といっても、空は白いままで、少しグレー掛るだけだが、遅くなる前に帰らなくちゃならない。私は最初に登った坂道を降り、小さなトランプの街の中心へ行った。
会話をしていたトランプ達はもうそこにはおらず、代わりにちょこちょこと買い物帰りのトランプが歩いていた。そのうちの一枚はとても見覚えのあるトランプだった。
「シャルル!」
「あ、小竹さん! どうして外にいるのですか? みんな心配していますよ」
シャルルは振り返り、そう言うと近くへ寄ってきた。
「あの、私よりミカンは……」
「今、実夏さんの居場所に行くところです。一緒に行きましょう」
そう言ってシャルルは青と白の縞模様の家屋の横を通り、ズンズンと進んでいった。地面は次第に草原となり、目の前に少し盛り上がった丘が見えた。若葉色の丘の反対側に、彼女の茶色い髪が見えた。
「ミカン!」
途端に、その茶色い髪が揺らぎ、顔が見えた。そして、待っていたというような表情で、手招きをした。実夏の隣に座り、私は実夏に訊いた。
「なんでここに座ってるの?」
実夏は無言で腕を伸ばし、前方を指した。彼女の指の向こうは、黄や青や緑で綺麗に並んだ街が見えた。綺麗だった。実夏は腕を戻し、木の棒で地面を掻いた。
「ここね、好きなんだ……たまにね、やっぱり、ずっとたくさんの人のところにいるのは大変で、1人になりたい時があるの。だぁっれもいない、静かな場所。それでね、ここは、景色も良くてね、元気になれるの。あたしのパワーの源だよ」
「そうだったんだ……」
この景色のおかげで、"ロマンチック"で"良いこと"や"幸せに暮らしましたとさ"で出来てる実夏のキラキラした世界が修復されていると思うと、私はふと高校の部活後の体育館を思い出した。
部活が終わると、みんな疲れているのかいつもすぐに帰ってしまっていた。誰もいなくなった体育館で、暑い剣道着を脱いで舞台の角に座るのが私の日課だった。そして、キラキラした世界ではないけれども私なりに気分を修復していたので、実夏の気持ちがよく分かった。私は無償に剣道部のみんなに会いたくなって、膝の上に水滴がぽとっ、と落ちた。




