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第二十六話「杏琉」

 警報が鳴り止んで数分。しかしながら非常ランプはまだ落ち着きなく光り続けている。出会ったばかりの少女は、うるさい音がなくなったからか元気にスキップをしていた。

 杏琉(あんる)。杏子の杏に、琉璃の琉。小学校五年生ながらも、大人顔負けの難漢字だった。

 どらごんによると、僕たちの向かっている方向は出口と反対側。理由を聞いても、いつもの通り教えてくれなかった。手に持ったペンライトは未だ光を灯しているが、そう遠くまでは見えないため霧の中を歩いているようだった。

「ところで兄ちゃん。黒トラの世界の光は僕たちには見えない。闇で目が利くのは猫だけだ。コウモリは嗅覚や触覚を使う。提灯アンコウだってそうだ。しかし。猫の目は闇で光る。つまり黒トラが本当に光のない世界で暮らしているのならば、だね。目は光るはずなんだよ」

「トランプには目がないって言ってる?」

「惜しいね。僕が思うには、だよ。彼らには違う種類の光が見えてるんじゃないかな。そうすると二つのオプションが出てくるんだ。その違う種類の光だけが見えるか、二種類両方見える秀才かだ。両種の同時存在も否定できない」

 延々と独演するどらごんに僕は聞いたふりをし、光とは無関係のことについて考え始めてしまっていた。大抵なら考え事もすぐに終わる。始まりには終わりの来るように。しかし今回は終わりそうもない。

 どうしたら彼女を落とせるか。そればかり考えてしまっている。僕は高校一年生。彼女は小学五年生。いくら可愛くても、年齢差がありすぎる。いっそ四年ほど遅く生まれて来れれば良かった。そうしたら、ちょうど僕が一個上で完璧だ。いや、僕の両親は七歳差だ。五歳差くらい、大したことは無いはずだ。実際、結婚したら名前は白鳥杏琉に変わる。ぴったりだ。

「聞いてないんだね」

 さすが、博士ぶっているからだろうか。どらごんはニヤっとした表情を見せたかと思うと、僕の考えていることはすべて見通しているかのように、杏琉の髪をわしゃっ、と撫でた。

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