第十七話「紳士」
大きな城のような建物の前に来た。ここに私が入るんだろうか。その建物は壁と同じ濃い緑で、建物全体が金で縁取りされていて豪華だった。
「安心してください、お嬢様。これまでにこういうことは何度か起こっております。王も私達も慣れてきているところです」
へえ、と私は頷いた。その時お腹がぐーと鳴った。シャルルからパンを一切れ貰ったばかりなのに。でもシャルルは私に何か尋ねたり、笑ったりしなかった。聞こえていないふりをしているのかな。紳士すぎる。
昔きいたことがある。真の紳士は、女の子が転ぶと手を差し伸べ、助けようとして転ぶらしい。自分を笑いものにすることで、転んだ子の恥をかき消すというものだ。
シャルルもそんなことをするのだろうか……。すると、私の脳裏に意地悪な悪魔が舞い降りて来てしまったのかもしれない。悪魔の囁きは、まさに「転んでみよう」だった。
王宮の入り口には、ちょっとした段差があった。考えはすぐさまに行動に移った。
「う、うわっ」
自然に言うつもりが、わざとらしくなった。手をついて転び、私はシャルルが転ぶのを少し待った。転ばない。ずっと転んだままでいるのもあれだと思い、私は立ち上がった。シャルルの顔を見ると、目をまんまるにして、私がサーカスの芸をやったかのような顔をしていた。
「に、人間界の方はやはりすごいですね……」
「あ、す、すごい?」
「はい。転んでも、立ち上がる。七転び八起きを実践できるのは、正直言って羨ましいです。私達トランプは転びません。いえ、転んでも立ち上がることは困難なのです。紙なので、床に引っ付き非常に剥がしにくくなります」
「はぁ……」
予想外の展開に言葉が出なかった。紳士なら転ぶ、でもトランプの紳士は転ばない。人間にとっての常識は、トランプの常識ではなく、トランプの常識は、人間の常識ではない。そりゃあそうかもしれない。




