第7話 新たな世界
いつも読んでいただきありがとうございます。
悠磨
「はぁ……」
悠磨はログアウトすると、急いでトイレへ駆け込んだ。
悠磨
「毎回これがなければ……良いゲームなのに」
用を済ませて部屋に戻り、時計を見ると午前3時30分だった。
悠磨
「今日は流石に疲れたな……。鱗も手に入ったし、金も入った。今日は寝るか……」
ベッドに横になった時、ふと思い出した。
悠磨
「唐揚げ……。樹梨の作った唐揚げの味がしたな……」
そんなことを考えながら、悠磨は満足した気分で眠りについた。
翌朝、午前10時。
悠磨は目を覚ますと、トイレを済ませ、顔を洗い、歯を磨いた。
朝食を簡単に作って食べ終えると、部屋に戻った。
すると、スマートフォンに通知が届いていることに気づいた。
メッセージを確認すると、知らない番号からだった。
悠磨
「誰だ?」
開いてみると、そこにはこんなメッセージが届いていた。
『おはよ! すまん、流空に頼みこんで番号を聞いた。タイミングが合えば11時にまたギルドで待ってる!』
悠磨
「……ああ、二刀流か」
昨日、竜退治を一緒にしたクラスメイトからだった。
悠磨
「新しいクエストでも出たのかな?」
悠磨は時計を確認した。
悠磨
「まだ時間はあるな……。よし、ログインするか!」
VR機器を装着した。
いつもの白い空間。
ナビゲーターが姿を現した。
ナビゲーター
「クロス様、おはようございます。ログインを開始します」
ところが、いつもとは違い、ナビゲーターはすぐに言葉を続けた。
ナビゲーター
「申し訳ありません」
クロス
「ん? どうした?」
ナビゲーター
「現在、エラーが発生しております」
クロス
「エラー?」
ナビゲーター
「はい。クロス様が利用されていたサーバーA023へのログインができません。ただし、キャラクターデータは存在しております。別のサーバーに変更することで、ログインが可能です」
クロス
「サーバー変更? まぁ、ログインできるならいいか。変更してくれ」
ナビゲーター
「かしこまりました。接続可能なサーバーを検索します」
しばらくすると、ナビゲーターが再び口を開いた。
ナビゲーター
「検索が完了しました。接続可能なサーバーはP4444です」
ナビゲーター
「P4444? サーバーって、そんなにあるのか?」
クロス
「ほかのサーバーはないのか?」
ナビゲーター
「申し訳ありません。現在、接続可能なサーバーはP4444のみとなっております」
クロス
「そうか……。まぁ、仕方ないか。そこに変更してくれ」
ナビゲーター
「かしこまりました。サーバーを変更します」
ナビゲーターが手をかざすと、白い空間が揺らいだ。
ナビゲーター
「サーバー変更が完了しました。前回と同じく、クラグ・バストルから再開しますか?」
クロス
「頼む」
ナビゲーター
「かしこまりました。それでは、いってらっしゃいませ」
白い空間が消え、視界が切り替わった。
クロス
「……ん?」
目の前には、石造りの街が広がっていた。
昨日、竜退治を終えたあと、最後にログアウトしたのは酒場だったはずだ。
クロス
「街の外からか……。まぁ、いいか」
街並みはいつもと同じように見える。石造りの建物が並び、その左側には大きな山がそびえていた。
クロス
「やっぱり綺麗な街だな……。あの山も、相変わらず凄いな」
山を眺めながら、少し違和感を覚えた。
クロス
【……あれ? 山って、こんな位置だったっけ?】
しかし、すぐに考えるのをやめた。
クロス
【まぁ、サーバーが変わったんだし、多少違うのかもしれないな】
「時間もあるし、ギルドに行くか!」
街へと歩き始めた。
街の中へ入ると、周囲の視線に気づいた。
街を歩いていた人々が、立ち止まってこちらを見ている。
クロス
「……なんだ?」
いつもなら、NPCたちはそれぞれの行動をしているだけだ。こちらを気にすることなど、ほとんどなかった。
クロス
【何かのイベントか? こんなの、今までなかったけどな……】
少し気になりながらも、悠磨はギルドへ向かった。
ギルドの中に入ると、昨日よりも多くのプレイヤーで賑わっていた。
クロス
【ああ、今日は土曜日か。そりゃ人も多いよな】
周囲を見渡し、二刀流の姿を探した。
しかし、まだ来ていないようだった。
クロス
「……まだ来てないのか」
そう呟いていると、1人の少女が近づいてきた。
少女
「ねえ、あなた。ここは初めて?」
クロス
「え? いや、昨日も来たけど……」
少女
「昨日? 私もここにいたけど、あなたのことは見てないわね」
クロス
「時間が違ったんじゃないかな。俺、昨日は夕方にログインしたから」
少女
「そうなんだ。私はミシャ。よろしくね!」
クロス
「ああ、俺はクロス。よろしく」
ミシャは笑顔で頷いた。
ミシャ
「ねえ、クロス。一緒にクエストに行かない?」
クロス
「え? いや、今はちょっと人を待っていて……」
そのとき、後ろから少年の声がした。
少年
「おい、ミシャ。珍しいな。お前から男に話しかけるなんて」
ミシャ
「ノア! 余計なこと言わないで!」
ミシャが振り返って声を上げた。
ノアと呼ばれた少年は、クロスを見て首を傾げた。
ノア
「へえ……。あんた、魔剣士なのか?」
クロス
「ああ、そうだけど?」
ノア
「この辺りじゃ、魔法を使う奴は珍しいんだよな」
クロス
「……魔法使いが珍しい?」
悠磨はギルドの中を見回した。
剣を持った戦士や、盾を構えた重戦士。軽装で、何本もの短剣を携えている者もいる。
クロス
【……新しいクラスか?】
以前は見たことのない装備や、見慣れない雰囲気のプレイヤーもいた。
ミシャ
「ねえ、クロス。このクエスト、一緒に行かない?」
ミシャが依頼書を見せてきた。
そこには、サーベルタイガーの牙を十本集めるように書かれていた。
クロス
「サーベルタイガーの牙か……」
サーベルタイガーは、これまで何度も戦ってきた魔物だ。
クロス
「悪いけど、今日は人を待ってるんだ」
ミシャ
「その人が来るまででいいじゃない!」
クロス
「いや、でも……」
ミシャ
「どうせすぐ終わるわよ!」
ミシャは引き下がらなかった。
ノアが呆れたように口を挟む。
ノア
「ミシャ、無理に誘うなよ。困ってるだろ。それに、この依頼は2人でやるんだぞ?」
ミシャ
「分かってるわよ!」
ノア
「分かってないだろ……」
2人のやり取りを見て、クロスは苦笑した。
クロス
「まぁ、待ってるだけなのも退屈だしな。5匹くらいならすぐ終わるだろ。いいよ、一緒に行こう」
ミシャ
「本当? ありがとう!」
ミシャは嬉しそうに笑った。
ノアは少し驚いた顔をした。
ノア
「自信あるんだな。サーベルタイガーは、そう簡単な相手じゃないぞ?」
クロス「大丈夫だよ」
すると、ギルドの奥から年配の男が声をかけてきた。
年配の男
「おい! ミシャ! また依頼失敗か?」
ミシャ
「うるさいよ! ダン!」
ミシャが睨みつける。
ダンは鼻で笑った。
ダン「お前、いつになったらまともに依頼をこなせるようになるんだ? ノア、お前もそんな奴に付き合ってないで、俺のグループに来いよ」
ノア
「……考えておくよ」
ノアは曖昧に答えた。
ダンはクロスに視線を向ける。
ダン「そいつは見ない顔だな。お前らと組んでも、すぐ死ぬだけだぞ」
そう言い残し、ダンは去っていった。
ミシャ
「……ごめんね、クロス。あんなこと言われて」
ミシャが申し訳なさそうに謝った。
クロス
「いや、気にしてないよ」
【……NPCではないよな?】
3人は街を出て、雪原へと向かった。
辺り一面に雪が広がり、遠くには白い山々が見える。
クロス
「寝不足かな……。移動が辛いな……」
昨夜は遅くまでゲームをしていた。さすがに疲れが残っているのかもしれない。
ミシャが心配そうに顔を覗き込んできた。
ミシャ「クロス? 疲れちゃった?」
クロス「寝不足かな……。少し調子が悪いかな……」
ノア「少し休むか?」
ノアも足を止めた。
クロス「……」
突然叫んだ。
クロス「来るぞ!!」
ノア「ミシャ!」
ノアが声を上げ、ミシャとノアは剣を構えた。
クロスも剣に手を伸ばしたが、そこで気づいた。
クロス「……あっ!」
昨日の竜との戦いで、愛用の剣は根元から折れてしまったのだ。
新しい剣を用意するのを忘れていた。
クロス
「しまった……コンソールを……」
いつものようにコンソールを呼び出そうとする。
しかし、何も現れない。
クロス
「えっ? アイテムが出せない!」
ノア「アイテムボックスのことか?」
「欲しいものをイメージして、手を伸ばしてみろ!」
クロス「アイテムボックス?」
戸惑いながらも、いつも使っている細身の剣を思い浮かべた。
そして、手を伸ばす。
すると、手の中に何かの感触があった。
クロス「……おっ!」
握りしめて引き抜くと、見慣れた剣が現れた。
クロス「出せた……」
ミシャ「へえ、ちゃんと出せたじゃない!」
ミシャが笑顔を見せた。
クロス「ありがとう、助かったよ」
ノア「でも、アイテムボックスも使えないのか? 大丈夫か?」
クロス「剣があれば問題ないよ」
剣を構えながら答えた。
クロス
【いつの間にかアップデートされたのかな……】
そんなことを考えていると、目の前に2匹のサーベルタイガーが現れた。
2匹は唸り声を上げ、3人を睨みつけている。
ノア「油断するなよ!」
1匹がミシャに向かって突進し、もう1匹は跳び上がって襲いかかった。
クロス「上は俺がやる!」
剣を構え、サーベルタイガーの攻撃を迎え撃つ。
鋭い爪が振り下ろされる瞬間、剣を合わせる。
いつもなら、攻撃を弾くことができるはずだった。
しかし、剣は空を切った。
クロス「……は?」
タイガーの爪が迫る。
慌てて身をかわした。
クロス【タイミングは完璧だった……。何故弾かない?】
ミシャは迫りくる牙を紙一重でかわし、左へ飛び退いた。
ミシャ「そこっ!」
剣を突き出すと、刃がサーベルタイガーに突き刺さった。
「ギャウッ!」
悲鳴を上げたタイガーに、ノアが正面から迫る。
ノア「悪いな……!」
ノアは剣を胸に突き立てた。
サーベルタイガーはその場に倒れ、動かなくなった。
ノア「ふぅ、とりあえず1匹……」
ミシャ「やるじゃない、ノア!」
ミシャが笑顔で声をかけた。
ノア「それより、クロスは?」
2人が振り返ると、クロスはサーベルタイガーと向かい合っていた。
サーベルタイガーが再び跳び上がり、鋭い爪を振り下ろす。
クロス「ナメるなよ!」
悠磨も跳び上がり、剣をサーベルタイガーの腹へと突き刺した。
「グギャアッ!」
血が飛び散り、悠磨の身体にかかった。
クロス
「……え? 血……?」
サーベルタイガーは地面に落ち、そのまま動かなくなった。
しかし、いつもなら倒した魔物は光となって消えるはずなのに、目の前の死体は消えなかった。
クロス「……消えない……?」
ミシャ「クロス、やったじゃない! 1人で倒しちゃうなんて!」
ミシャが駆け寄ってきた。
クロス「……確かに、死んでるな」
「どういうことだ……?」
ノア
「クロス? どうしたんだ?」
クロス「いや……倒した魔物が消えないんだ」
ノア「何で消えるんだ?」
不思議そうに首を傾げた。
ミシャ「そんなことより、牙を切り取らないと!」
そう言うと、倒れたサーベルタイガーから牙を切り取った。
ノアももう1匹の牙を回収する。
これで、依頼に必要な牙はあと6本になった。
ミシャ「クロス、本当に大丈夫?」
ミシャが心配そうに声をかける。
クロス「……ああ。アップデートで、いろいろ変わりすぎだよ」
ミシャ「アップデート?」
ミシャが不思議そうに聞き返す。
ノア「おい、また来るぞ!」
3人の前に、3匹のサーベルタイガーが姿を現した。
クロス「考える前に、やらなきゃ!」
【魔法はどうなってるんだ……。コンソールが出ない……。どうすれば……】
魔法を使おうと考えた瞬間、頭の中に1つの呪文が浮かんだ。
「……バラ・フロゴス!」
クロスが手をかざすと、炎の球体が放たれた。
ノア「うわっ! スゲー! 魔法だ!」
ミシャ「本物の魔法だ!!」
炎の球体はサーベルタイガーの1匹に直撃した。
「ギャアアッ!」
炎に包まれたタイガーは、雪原の上で暴れ回った。
やがて動かなくなり、炎だけが揺らめいていた。
残る2匹のサーベルタイガーは、仲間の姿を見て戸惑ったように立ち止まっていたが、すぐにこちらを向いた
ノア
「来るぞ!」
ミシャは、クロスの放った魔法に見惚れていた。
クロス
「アップデートで凄くリアル感が出たな。面白い!」
クロスは再び手を前にかざした。
「バラ・フロゴス!」
「バラ・フロゴス!」
魔法を使うのが楽しくなったクロスは、次々と炎の球体を放った。
ミシャはクロスを見つめ、ノアは唖然としていた。
炎の球体が直撃したサーベルタイガーたちは、暴れながら燃え上がり、やがて動かなくなった。
クロス
「凄い! 魔法、楽しい!」
ミシャ
「クロス、凄い! 魔剣士なんだけど! 私、魔法を使うところを初めて見たよ!」
ノア
「魔法って強いんだな! 凄いぞ、クロス!」
クロス
「まぁ、魔剣士だからね」
クロスは得意げに答えた。
【魔法を使うのって楽しい!】
今後もよろしくお願いします。




