読者への挑戦状
ここで、いったん筆を擱く。
すべての手がかりは、すでに、あなたの前に置かれている。
この物語には、隠された一行はない。語り手・真壁詠子が見たもの、聞いたもの、書きとめたものは、ことごとく、あなたもまた読んだ。詠子の知らないことを、あなたに明かしてはいない。詠子の気づいたことを、あなたに伏せてもいない。叙述の罠も、ここまで語られなかった新事実も、この先には、ひとつもない。回り続ける灯が照らし出したものは、残らず、あなたの目にも映っている。
だから、問おう。
回光館の一夜で、二十年前の罪人たちを、わらべ唄になぞらえて一人ずつ葬っていったのは、誰か。
塔の上で「動いて」見えた玄三の影も、内側から閂の下りた機構室で鵜飼を打ち砕いた重錘も、その絡繰りそのものは、すでに東雲暁人が解いてみせた。——ならば、問おう。その二つの絡繰りを、ともに組み上げられたのは、誰か。あの夜、誰もが誰かと顔を合わせ、互いを見張り合っていた、あの広間にいながら、人を殺しえたのは、誰か。いちばん隙のないアリバイは、いったい、誰のものだったか。
唄の最後に据えられた灯の主・玄三が、誰よりも先に息絶えていた。その一事は、犯人について、何を語っているのか。
そして——その犯人は、何のために、二十年もの歳月をかけて、この嵐の夜を、ただ一つの絵として描き上げたのか。
犯人は、あの夜、館に集った者の中にいるのか。それとも、誰の目にも触れぬ場所に、ひそんでいたのか。——それすらも、ここまでに与えられた手がかりだけで、見極められるように書いてある。憶測ではなく、論理で。
唄は、残らず歌われた。一つとせから、七つとせまで。死の様式も、その順序も、見つかる順も、すべて出そろった。あとは、それらを正しく結ぶ、ただ一本の線を引くだけだ。
灯は、嘘をつく。けれど、灯そのものが嘘をつくのではない。嘘をつくのは、いつも、灯を語る人間のほうだ。——ならば、あの几帳面に回り続けた光が見せたもののうち、どれが真実で、どれが仕掛けられた嘘なのか。あなたには、もう、選り分けられるはずだ。
数えて七つ、灯が消えて、朝が来る。
その朝が明ける前に。
——さあ、あなたの答えを聞かせてほしい。




