第6話:吸い物
今日の記録は、透き通った「出汁」の輝き。
椀の中で、薄切りの鞠麩が静かに回っている。
メガネ型デバイス『PED』のレンズは、この無機質な液体を「芳醇なカツオの香り」として私の脳に直接送り届けている。
その静寂を、乱暴な金属音が切り裂いた。
「おい、またそんな『空の器』を拝んでんのか。不気味な野郎だぜ」
現れたのは、ジャンク屋のプロフだ。
油の染み付いた作業服をまとい、煤けた顔をしている。彼が歩くたびに、埃一つないはずのキッチンの床には、黒い油の足跡が刻まれていく。
『PED』のレンズがプロフの姿を捉え、視界の端に警告を表示する。
『Unknown Object: Visualization Error.』
プロフの姿がノイズにまみれ、バグったポリゴンのように歪む。
だが、彼は構わず、私の「完璧なキッチン」の壁を乱暴に叩いた。
「おい、デバイスのメンテだ。お前のメガネ、レンズがショートする前にテンプルの基板を掃除してやるよ」
本日の事故、0件。
記録は、極めて正常だ。
第6話、読んでいただきありがとうございます。
今日は、お出汁の優しさを愉しむ吸い物にしました。
【こだわりレシピ:透き通るお出汁】
沸騰直前で昆布を引き上げること。それが、濁りのない美味しいお出汁を作る唯一のルールです。
……でも、プロフは「そんな贅沢品、この街のどこにあるんだ」と笑っていました。彼は冗談が好きな人のようです。
最近、少しだけメガネのピントが合いにくい気がしますが、彼に見てもらえば安心ですね。




