第14話:イカの塩辛
白昼の光はもはや、黄金色を維持することさえ止めていた。
街は、色褪せたセピア色の静止画のように。私はプロフの店先で、小鉢に盛られた暗褐色の泥を見つめていた。イカの塩辛。この清潔な「聖域」において、内臓を熟成させるという行為は、最も忌むべき「不純」だ。
「いいか相棒、塩辛ってのは、腐敗と熟成の境界線だ。この街も同じさ。お前が文字を綴るたび、システムは熟成を通り越して、修復不能な腐敗へと突き進んでいる」
プロフの声が、多重録音されたノイズのように不自然に反響する。
185センチの視界。その高い視点から外を見ると、街の「空」が物理的に剥がれ落ち始めていた。空のテクスチャが裂け、そこから巨大な光ファイバーの束のような「情報の触手」が垂れ下がり、住人たちを釣り上げては琥珀色の霧へと変えていく。
「……私は、これを完成させなければならないのか」
私は震える手で、塩辛を口に運んだ。
脳を直接刺すような過剰な塩気と、生々しい内臓の臭い。
デバイスが「森林の香り」で上書きしきれないその悪臭こそが、自分がまだ「データではなく、生きた肉の塊」であることの、最後の手応えだった。
私はノートに、次の一文字を刻んだ。
その一瞬、視界の端で「正常」を意味するインジケーターが、断末魔のような音を立てて消滅した。
イカの塩辛は、あの独特のコクと塩気がくせになりますよね。
白いご飯が欲しくなりますが、ここでは手に入らないのが残念です。




