第13話:ヒラメのカルパッチョ
真実を聞かされた翌日、世界はもはや「均衡」を維持する努力すら放棄したようだった。
白磁の広場で提供されたヒラメのカルパッチョ。フォークで持ち上げた薄く透明な身の向こう側に、広場のタイルの継ぎ目が透けて見える。いや、透けているのはタイルではない。ヒラメの組織を透過して、街を歩く住人たちの足元が「文字列」に変わっていくのが見えた。彼らは移動しているのではない。ただ座標を更新し続けているだけの記号だ。
「よう、相棒。世界が薄っぺらく見えるだろ?」
プロフがいつの間にか隣に立っていた。彼の姿も、今日はどこか解像度が低い。輪郭がデジタルノイズのように激しく震え、時折、古いブラウン管のような走査線が走る。
「……プロフ、君の顔も、ノイズで見えない。何もかもが、薄い膜のようだ」
「世界のテクスチャが剥がれ、裏側が露出しているんだよ。お前が最後まで日記を綴り終えた時、この『素晴らしい日々』という薄皮は完全に剥がれ落ちる。……さあ、冷めないうちにその『データ』を胃に流し込め」
私はヒラメを口に運んだ。味はない。ただ、冷たい情報の断片が舌の上で滑る。
185センチの視界から空を見上げると、ひび割れた雲の隙間から、見たこともないほど巨大な「亀裂」が街を縦断するように走っていた。私は震える手でノートを開き、次の一文字を刻んだ。
ヒラメのカルパッチョは、あの淡泊で上品な味わいがくせになりますよね。
皆さんの今日の献立は、もう決まりましたか?




