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妻が帰ってこなくて夫二人が半泣きです


翌朝。


爺の献身的すぎる看病により、

レイラの体調はほぼ回復していた。


……いたのだが。


機嫌は、別だった。


明らかに。


目に見えて。


ぷりぷりしている。



朝の執務室。


テュエルが、

恐る恐る声をかける。


テュエル

「お、おはようございます……レイラ様……」


レイラ

「……うん」


短い。


短すぎる。


シャガルも負けじと挨拶。


シャガル

「おはよう、レイラ。

 体調は――」


レイラ

「……うん」


同じ。


語尾すら、ない。



書類を差し出してみる。


テュエル

「こちら、今日の分です……」


レイラ

「……ん」


受け取るだけ。


笑顔?

ない。


視線?

合わない。



――沈黙。


部屋の空気が、

ひんやり冷えていく。


(やばい……)

(完全に……怒ってる……)


テュエルの背中を、

冷や汗が伝う。


シャガルも、

珍しく落ち着きがない。


(……余は……)

(やりすぎた……)



レイラは書類に目を通しながら、

内心ではぐるぐるしていた。


(……別に)

(嫌いになったわけじゃない)


愛している。

それは事実だ。


許してしまいたい気持ちも、

正直、ある。


(……でも)


あの、

ずっと終わらない夜。


体が悲鳴を上げても、

止まらなかった時間。


(……あんなの……もう嫌)


だから――

今は、怒る。


ちゃんと、怒る。



そして爆弾投下


しばらくして。


レイラは、

ふっと顔を上げた。


「……今日」


二人、ぴくっと反応。


「墓参りに行ってくる」


シャガル

「……なに?」


テュエル

「え……?」


レイラ

「一人で」


二人

「「え?」」

 

 ――


拒否


シャガル

「待て、護衛は――」


レイラ

「いらない」


テュエル

「で、でも……危険ですし……」


レイラ

「ついて来ないで」


きっぱり。


迷いのない声。


 ――


二人、

完全に固まる。


(拒否……)

(されてる……)


シャガル

「……余は……」


レイラ

「ついてくるな」


二度目。


より強く。



レイラは立ち上がり、

上着を羽織る。


「……少し、一人になりたい」


それだけ言って、

扉へ向かう。



残された二人


扉が閉まった後。


沈黙。


テュエル

「……俺たち……」

「本気で……やらかしたな……」


シャガル

「……ああ」


二人同時に、

深いため息。


(怒らせた……)

(しかも、正当な理由で……)



この日。


シャガルとテュエルは、

初めて知る。


怒っているレイラの背中が、

こんなにも遠いということを。




 レイラが出ていってから、数時間。


部屋の空気は、最悪だった。


シャガルは部屋の隅で膝を抱え、

テュエルは窓辺に立ったまま、何度目かのため息をつく。


重い。

静か。

不安が、じわじわと染み出す。



テュエル

「……シャガル。」


シャガル

「……なんだ、猿。」


テュエル

「その呼び方、今だけはやめてください。

……レイラ様を怒らせたままなのに、

またケンカしてる場合じゃないでしょう。」


シャガル

「……それもそうだな。」


一拍。


「……では、猿と呼ぶのは控えてやる。」


テュエル

「だから普通に名前で呼んでください!」


シャガル

「……テ……テュ……」

「ぐっ……言いにくい……!!」


テュエル

(うわ、この人ほんとにプライド高い……)



しばし沈黙。


やがて、テュエルが観念したように一歩前に出て、

手を差し出した。


テュエル

「……停戦しましょう。

レイラ様のために。」


シャガルは悔しそうに眉をひそめ、

だが、ゆっくりとその手を握る。


シャガル

「……仕方ない。

余も……レイラの為なら……貴様と組む。」


こうして。


地獄のように仲の悪い夫二人が、

同じ目的のために手を組んだ。


 ――――――――

 仲直り?企画会議

 ――――――――


机の上には、

巻物、紙、書きかけの紙や資料で山積み。


シャガル

「まず、レイラを笑顔にする案だが……

宝石はどうだ?」


テュエル

「レイラ様は物じゃ釣られません。」


シャガル

「では……菓子だ。

好きなだけ食わせる。」


テュエル

「胃袋で誤魔化そうとしてますよね?」


シャガル

「……ぐ……難しい……!!」


テュエル(腕を組み)

「レイラ様が欲しいのは、

“落ち着いた夜”と“静かな時間”と“安心”です。

ボクたちが四六時中張り合うのが、

一番疲れる原因なんですよ。」


シャガル

「……確かに。

 余らは、少し騒ぎすぎたかもしれぬ。」


テュエル

「“少し”じゃないです。

昨日なんて白骨化してましたよ。」


シャガル

「しかし、あれは無理だった!!」


テュエル

「……そこは同感です。」


バカみたいな会話をしながらも、

二人の表情は真剣だった。



それでも、帰ってこない


最初は思っていた。


(墓参りなら、数時間で戻るだろう)


だが――


夕刻。


空が茜に染まっても、

レイラの姿はない。


テュエル

「……おかしい。

レイラ様なら、夜になる前には必ず戻るはずです。」


シャガルの表情が、

一瞬で引き締まる。


シャガル

「…………まずい。」


テュエル

「シャガル……」


シャガル

「考えられる可能性は三つ。」


拳を、ぎゅっと握る。


「一つ。

 余らに嫌気が差して、本当に家出した。」


テュエル

「……っ」


「二つ。

 何か事件に巻き込まれた。」


「三つ。

 妖が再び動いた。」


シャガル

「……どれも、許せぬ。」


テュエルの瞳が、

不安に揺れる。


テュエル

「レイラ様が……一人で泣いていたら……

 ボク……耐えられない……」


シャガル

「余もだ。」


二人は、強く目を合わせた。


シャガル

「テュエル……行くぞ。」


テュエル

「はい。急ぎましょう!!」



レイラ捜索開始


二人は城を飛び出し、

馬を駆って墓地の方向へ向かう。


胸にあるのは、ただ一つ。


怒られてもいい。

叱られてもいい。


――ただ、無事でいてくれ。


闇が降り始めた道を、

二つの影が、全速力で駆けていった。



二人は1つの馬を二人乗りし、

息つく間もなく城を飛び出し、

まっすぐ墓地の方向へと向かう。


シャガル

「レイラァァアァァァッ!!!!」


テュエル

「レイラ様!!どこですか!!」


森の中、丘の上、川沿い、

あらゆる場所を全力で駆け回る。


テュエル

「気配は……?!」


シャガル

「……まだ感じぬ。

だが必ず見つける。余が。」


二人の顔には

“心配”と“後悔”と“愛”が混ざった、

どうしようもないほど切実な表情。


彼らを突き動かすのはひとつ。


「レイラに嫌われたくない」

「レイラがいない世界なんて恐ろしすぎる」


ただそれだけ。




シャガルは乗れない馬の後ろで

テュエルの腰をぎゅうううっと掴みながら叫ぶ。


シャガル

「テュエル!!もっと速く走らせろ!!!」


テュエル

「これ以上速くすると落ちますよ!?

あなた!!腕の力が強すぎる!!苦しい!!」


シャガル

「レイラの為なら苦しくて当然だ!!

余は死んでもいい!!!」


テュエル

「もうっ……!……黙って掴まっててください!!」

(最後小声)


馬は暗い山道を疾走し、

蹄の音が夜の空気を切り裂く。


道中、

テュエルがふと谷底を見て顔色を変える。


テュエル

「まさか……馬が滑って……

馬ごと、あの谷に……!!」


シャガル

「レイラがそんなことで死ぬわけなかろう!!

……だが……もし怪我をして動けぬとしたら……」


想像した瞬間、二人の心が締め付けられる。

馬をさらに走らせ、王の墓──禁足地へ。



そこは空気そのものが違った。

澄みきった白霧が薄く立ちこめ、夜なのにまるで月光が地面から湧いているよう。


ミコトの

雪女の治癒力と巫女の霊力が眠る場所。


普通の妖なら近づくだけで浄化されて蒸発しそうな、

とんでもない清らかさ。


シャガル

「ぐ……ぬぬ……

やはり……ここは……余には……居心地が悪い……」


(これまでにも墓参りの折に近くまでは足を運んだことはあるが、この奥へ踏み入るのは初めてだ)


体がむず痒いような、刺されるような。

シャガルの妖気が薄く焼かれている気さえする。


テュエルも眉をひそめる。


テュエル

「俺も……少し妖の気が混じっていますから……

何度来ても、苦手な空間です……」


でも二人は迷わず進む。


テュエル

「……わがまま言っている場合じゃありません。

行きましょう。レイラ様が先です。」


シャガル

「……ああ。余も耐える。」


草を踏む音だけが響く暗闇。

湿った風、滝の轟音。

光源は月と、清らかな霊力の淡い輝きのみ。


二人の影が長く伸びて揺れる。



滝の前。

王の墓の霊気が静かに満ちる場所。


シャガルが墓の前でピタッと立ち止まり、

眉をしかめた。


シャガル

「…む?…レイラの気配が……確かにここに……」


テュエル

「え……?どこですか?」


シャガルの視線の先にあるのは、

大きな氷の塊。


シャガル

「む?なんだこれは……」


 氷塊へ視線を向ける。


テュエル

「……それは……ダイン陛下のお墓です。」


 シャガルの視線が、わずかに揺れた。


シャガル

「……なんと……」


一拍。


「……お前……こんな所に……」


氷の墓を前に、

シャガルは珍しく言葉を失った。


知らぬ間に、

子を残し。

知らぬ間に、

この世を去り。


そして今も、

誰にも邪魔されぬ静けさの中にいる。


「……余が……」

「永遠の好敵手と認めた男、だったのだがな……」


小さく鼻で笑う。


「……勝ち逃げとは、卑怯な奴め。」


――対抗心よりも、

ほんのわずかな寂しさが、

そこにあった。

 

 

しかし、その瞬間。


シャガルの耳がピクリと動く。


シャガル

「──違う!!こっちだ!!」


 テュエル

「まさか…………」

(以前二人で入った……氷柱の洞窟……)


風の流れ、霊気の揺らぎ、微かに混じる“レイラの匂い”。

全てが導くように、滝の水の裏へ。



二人は同時に駆け出し、

洞窟の向こうへ飛び込む──



 氷柱が輝く洞窟の奥で──


そこはまるで別世界だった。


青白く光る氷柱、

床は透明な氷で、天井からは霜の粒がきらきら舞っている。


そして──


レイラが氷の上に寝転がって、

すやすや気持ちよさそうに寝ていた。


シャガル & テュエル

「……………………」


二人の心配が一瞬で吹き飛び、

同時に脱力。


テュエル

「寝ている……普通に寝てる……」


シャガル

「ば、馬鹿者……!!心配したぞ……!!

 (しかし可愛い……)」


二人はそっとレイラに近づく。


テュエル

「起こしたら……可哀想ですよ……」


シャガル

「では……どうする……?」


テュエル

「……添い寝……ですかね……?」


シャガル

「……うむ。」

(なんか悔しいがテュエル案を採用)


二人ともそっと横になる。


──が。


一分後。


シャガル

「……さ……寒い……!!!」


テュエル

「ぶ、無理……これ雪女専用の寝床じゃないですか……!!」


歯がガチガチ鳴る二人。


シャガルは観念して

レイラの肩をそっと揺する。


シャガル

「レ、レイラ……!レイラ!!起きよ……!

 寒さで……皆死ぬぞ……!」


レイラは目をこすりながら起き上がる。


レイラ

「……ん…………どうした……二人とも……

なにをそんな……震えて……」


テュエル

「なにを、じゃありません!!

 心配したんです!!どれだけ探したか……!!」


シャガル

「レイラ…お前……!!また心配を……!!余を狂わせる気か……!!」


 二人に怒られて、

 レイラはちょっと反省しつつもくすっと笑う。


レイラ

「……すまない。

少し……落ち着きたかっただけなんだ……」


二人の表情が少し柔らかくなる。



シャガル

「とりあえず……ここは寒すぎる……!!

 余は妖の身でも耐えられぬ……!!」


テュエル

「ボクも……手が凍りそうです……」


レイラ

「あぁ……そうだったな……

 じゃあ、もう少し離れた場所へ行こうか。」


三人は洞窟を出て、

清らか過ぎない、でも危険ではない場所まで戻る。


小さな焚き火を起こし、

三人は自然と寄り添って座った。


レイラは二人の顔を見る。


二人は馬で二人乗りをして来たのか、

どことなく仲良さげで、

レイラは気づき微笑む。


レイラ

「……なんだ。

 ちゃんと……仲良くできてるじゃないか……」


テュエル

「い、いえ、別に仲良くしていたわけでは──」


シャガル

「違う!!あれは仕方なく──」


レイラ

「ふふ……ありがとな。

 二人とも……心配してくれて。」


その言葉に、

テュエルは胸を押さえ、

シャガルは耳まで真っ赤。


レイラが二人の肩に頭を預けた瞬間──


二人は同時に息を止めた。


シャガル

「……二度と……勝手にどこかへ行くな……」


テュエル

「……お願いですから……

 ボクたちの心臓を……殺さないでください……」


レイラ

「はいはい……すまなかったな。」


三人はそのまま静かに寄り添い、

焚き火の光の中で眠りについた。


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