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最強姫様は今日もご立腹です ~溺愛する妖王と護衛がうるさいので兵士相手に発散していたら夫婦喧嘩(物理)になりました~


その日。


レイラは、完全に限界だった。


連日の睡眠不足。

連日の“猛獣接近警報”。


結果――

朝、執務机に突っ伏したまま、意識を失った。


「……もう、無理だ……」


 ――――


目を覚ましたのは、昼過ぎ。


差し込む光に目を細めながら、ゆっくりと身を起こす。


(……少し……スッキリしたな……)


だが、次の瞬間――

脳裏をよぎる、昨夜、一昨日の光景。


(……夜……)

(……来る……)

(……絶対、また来る……)


眉間に、深い皺。


「…………」


レイラは無言で立ち上がると、

護衛を呼ばず、

誰にも告げず、

一人で部屋を出た。


向かった先は――


 

――――――

兵・稽古場

――――――


この日は、偶然にも

東西南北、四部族合同の稽古日。


広い稽古場に、

剣と掛け声が飛び交う、

張り詰めた空気。


そこへ――


レイラ、降臨。


「…………」


一瞬で、空気が変わった。


(え……?)

(今……姫様……?)

(今日、そんな予定……?)


兵たちがざわめく中、

レイラは静かに剣を取る。


「……今日は、打ち込み稽古だ」


低く、冷たい声。


「遠慮はいらん。

 かかってこい」


――殺気。


明確な、

いつもより濃い殺気。


兵たち、全員察する。


(あ、これ……)

(機嫌……最悪だ……)



剣が振るわれる。


金属音が、稽古場に響く。


レイラの動きは――

あまりにも流麗だった。


無駄のない一歩。

しなやかな体捌き。

鋭く、美しい剣閃。


レイラ

「なにをしている。立て」


倒れた兵を一瞥する。


「……こんなもので、満足するのか?」


声は凛としている。

だが、どこか冷たい。


剣を交えるたび――

兵たちの集中は、違う意味で削がれていく。


(やばい……)

(動き、綺麗すぎる……)

(美しい…目が……離せ……)


肩のライン。

剣を握る指先。

踏み込む脚の筋。


兵たち

「……っ、いかん……集中……!」


必死に自制する兵たち。


レイラは、そんな様子を見て、

ほんの少しだけ、口角を上げた。


レイラ

「ふふ……」


「まだまだ甘いな。――立て。」


「もっと強くならねば――

 私に勝てるはずもないぞ?」


完全に、S。


兵たち、赤面しながら全力。



――その様子を。


遠くから、

二人の“猛獣”が嗅ぎつけていた。


シャガルとテュエル。


二人同時に、胸を押さえる。


シャガル

「…………」


シャガル、震える声。


「……余の妻は……」


一拍。


「……強く、美しく……」


語彙、死亡。


「……最高だ!!!♡」


テュエルは、目が完全に輝いている。


テュエル

「あぁ……♡

 俺の奥さんなのかぁ……♡」


手を胸に当て、恍惚。


「斬られたい……♡

 俺が打ち込まれたい……♡

 はぁぁぁぁ……♡」


シャガル

「黙れ猿」


即ツッコミ。


――――――


稽古場では。


レイラが、剣を振り下ろす。


レイラ

「次!!」


兵たちは涙目になりながらも、どこか嬉しそうに構えを取り直す。


その背後で――


二匹の猛獣が、

昼間から静かに火花を散らしていた。

 




(……あれ……)


ふと、レイラは視線を感じる。


振り返った先――

見覚えのある二人。


レイラ

「…………」


(……なぜ……いる……)


レイラの頭痛が、

静かに再発した。



稽古場の熱気は、すでに限界に近かった。


剣先が風を切り、金属音が乾いた音を立てて規則正しく響く。


レイラの視線は冷ややかで鋭く、

兵士たち一人ひとりを射抜いていく。


「……っ」


思わず息を呑む兵。


(殺気が……)

(さっきとは……違う……)

(息が……詰まる……!)


剣を交わすたび、

その所作の美しさの奥に潜む

“容赦のなさ”が、確実に伝わってくる。


兵たちの集中力は、

今度こそ、本当に削られていた。

 

レイラ

「なにをしている、立て!」


凛とした声。


「こんなもので満足するのか?」


びくり、と背筋が伸びる。


(し、叱られてるのに……)

(なぜだ……胸が高鳴る……♡)

(これは……まずい……!)



その端で。


シャガルとテュエルは、無言で見守っていた。


――表向きは。


内心は、完全に崩壊寸前。


シャガルが、低く喉を鳴らす。


シャガル

「……おぉ……」


目を細め、拳を握る。


「さすが余の女……いや、余の妻……!

 あの太刀筋……見惚れぬ方が難しい……」


近くにいた兵が、ちらりと二人を見る。


(……なんか、空気違くないか……?)

(あの二人……目が……)

(こっちも怖い……)


テュエルは、もはや隠す気がない。


テュエル

「俺の奥さんです」


完全に熱のこもった視線。


「レイラ様……本当に……美しい……!

 あの冷ややかな視線……!


 あの太刀筋……!

 向けられたい……♡」


兵の一人が、思わず呟く。


(……あ、あの人……尊死寸前だ……)



――その異様な空気に。


レイラが、気づかぬはずもなかった。


剣を振るう合間、

ふと、視線を向ける。


端で、妙に熱っぽい目をした二人。


稽古場の空気が、

ぴり、と冷える。


兵たち、一斉に背筋を伸ばす。


(来る……)

(来た……!)


レイラは剣を下ろし、

わずかに口角を上げた。


そして、猛獣二人の元へ

ゆらりと歩み寄る。


だが、その目は笑っていない。


レイラ

「……どうした、お前たち」


低く、静かな声。


「私に――斬られに来たのか?」


兵たち、息を止める。


(ひぃ……!)

(でも……かっこいい……!♡)


シャガルが、一歩前へ。


シャガル

「ふむ……」


「余の妻の太刀筋……

 たしかに……試さずにはいられぬな」


ざわっ。


(え……?)

(シャガル様……自ら……?)

(この稽古……レベル違くないか……?)



レイラ

「いくぞ、シャガル。手加減はするな」


シャガル

「もちろんだ!」


次の瞬間。


剣先と剣先が、激しくぶつかる。


――ガァンッ!!


重い音が稽古場を震わせ、

兵たちは思わず後ずさる。


(は、速……!)

(重……!)

(なにこれ……別次元……!)


シャガルの攻めは力強く、

しかしどこか余裕を含み、挑発的だった。


シャガル

「ほぅ……なかなかに良い腕前だな……」


兵たち、ざわざわ。


(いや……)

(“なかなか”じゃないだろ……)

(互角……いや、それ以上……)


「だが……」


シャガルの口元が、わずかに歪む。


「余も、負けぬぞ……♡」


レイラは、その一言を冷静に受け流しながらも、

確かな圧と技量に、背筋がぞくりと震える。


(……さすがだ……)


レイラ

「……シャガル」


低く、鋭く告げる。


「手加減はするなと、言ったはずだ」


剣が交錯するたび、

火花が散り、

視線が絡み、

呼吸の距離が、否応なく近づいていく。


稽古場の空気は、

いつしか完全に――

二人だけの戦場へと変わっていた。


兵たちは、もはや声も出ない。


(……夫婦喧嘩……?)

(いや……戦……?)

(目が……離れん……!)


シャガルは、ほんの少しニヤリと笑う。


シャガル

「余の妻よ……

 余の前で、そんな顔を見せるとは……」


低く、甘く。


「……たまらんな♡」


レイラは、呆れたように小さく息を吐く。


レイラ

「……シャガル」


剣を弾き、間合いを一気に詰める。


「余裕がありそうだな」



――次の瞬間。


レイラの剣先が、

完璧なタイミングでシャガルの木刀を弾き飛ばした。


――カンッ!!


乾いた音。


兵たち、一斉にどよめく。


「うおっ……!」

「弾いた……!」

「シャガル様が……!」


シャガルが、片膝をつく。


そこへ、

容赦なく押し倒すレイラ。


木刀が、眉間にぴたりと当てられる。


レイラ

「……まだまだだな、シャガル」


一瞬の静寂。


次の瞬間。


(……っ!!)

(か、勝った……!)

(かっこよすぎる……!!)


端で見ていたテュエルが、限界を迎える。


テュエル

「……ボクの……奥さん……

 尊すぎ……(泣)もはやご褒美……

 シャガル……殺す(羨望)」


兵の一人、思わず心の中で合掌。


(……わかる……尊)



稽古場は、

完全に異様な熱気に包まれていた。


誰も声を出せない。

誰も目を逸らせない。


――剣しか交わしていないのに。


なぜか、

一番危険な空間になっていた。

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