世界の中心は、ずっとあなたでした
夜の静かな部屋。
テュエルは、少しの緊張と期待を抱えながら、レイラが来るのを待っていた。
一目惚れをしたあの日、護衛として仕えることを決めたあの日。
レイラの父、ダインの心臓を食べ――人としての道を踏み外しかけた日。
離れ離れになった日、再び彼女と再会した日。戦場で肩を並べた日。
再び護衛として傍に立つことができた日々。
そのすべてを思い返す。
自分の世界の中心は、いつだって自分ではなく、レイラ様だった――と。
そして今。
彼女と婚姻を結び、正式に【夫】として迎える初夜。
儀式など形式的なものは、どうでもよかった。
公的に認められ、レイラと結ばれたという事実だけで、胸はいっぱいで、これ以上ない宝を手にしたような気持ちだった。
扉の向こうから、静かに歩み寄る足音が聞こえる。
心臓が高鳴り、胸が押し潰されそうになる。
思わず立ち上がり、腕を広げる。
「――レイラ様」
その声には、抑えきれない感情が込められていた。
そして、彼女が目の前に現れた瞬間、テュエルは溢れる想いに駆られ、抱きしめた。
「……テュエル…」
その一言で、テュエルの胸は張り裂けそうになった。
呼ばれた声、瞳、仕草、すべてが愛を伝えている――言葉以上に、体の奥まで伝わる。
ゆっくりと手を伸ばし、そっと彼女を抱き寄せる。
体温、香り、鼓動――すべてが、これまでの人生で求め続けていたものだった。
(……違う)
(あの時とは――)
「――レイラ様が6歳だったあの日、手合わせをした瞬間から、ボクの世界は、ボクの中心は、いつもレイラ様でした」
吐き出す言葉に、これまでのすべてが詰まっている。
「いろいろありました。嫉妬してしまい、傷つけたことも、それを許し、でも離れるなと言ってくれたことも。弱っている姿を見せてくれる。それだけで、ボクを信じてくれている――嬉しかった」
胸の奥から、溢れる感情をかき集める。
指先で、髪を撫で、頬に触れ、抱きしめるその腕に力が入る。
「ボクの生きる理由も、意味も――すべて、あなたです」
胸の奥から込み上げる感情に、息が追いつかない。
言葉にできない想いが、涙となって頬を伝う。
愛しすぎて、止まらない。
この瞬間、世界は、時間は、二人だけのものになった。
手を握り返すレイラの温もり、柔らかな呼吸。
テュエルは、心の底から誓う。
(俺の全ては、ずっと、レイラ様のものだ――。
この命、感情、すべて。
そして、これからの人生も、永遠も、共に)
「――愛しています。これ以上なく。しかし止まることを知らない。
ボクの、ボクだけのお姫様……」
レイラは、静かに目を細める。
逃げることも、戸惑うこともなく――
ただまっすぐに、その想いを受け止めていた。
唇が、重なる。
それだけで――十分だった。
言葉はいらない。
触れているだけで、すべてが伝わる。
テュエルの胸には、もう【敗者】の影はなかった。
諦めたふりをして、押し殺していた想いも、すべてが報われ、光に変わった。
初めて心から、「自分は選ばれていたのだ」と理解できた瞬間だった。
レイラの柔らかい手と温もりが、全身に伝わる。
心の奥底から込み上げる幸福と感謝に、思わず瞳が潤む。
抑えていた涙が零れそうになり、喉が詰まる。
それでも、二人で紡ぐこの瞬間が、何よりも確かで、何よりも愛おしい。
「――ずっと、一緒に……」
テュエルは小さく、けれど確かな声で囁く。
レイラは微笑み、そっと彼の手を握り返す。
「……うん……一緒だ……テュエル……」
それだけで、二人は深く愛し合っていることを確かめ合った。
この夜――
二人は、確かに結ばれた。




