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双国ノ巫女 〜九尾の力を持つ雪女の姫は、戦場でその力を解き放つ〜  作者: Su
出会いと誓い――護衛テュエルとレイラの軌跡
8/65

血を飲み名を捨てた男、双国を壊した裏切りと契約

あの時――

レイラが、こいつを護衛にすると決めた瞬間から。


何かが、狂い始めていたのかもしれない。


こうなる運命だったのか。

それとも、まだ選び直せたのか。


今となっては、誰にもわからない。


 


ゴクッ……ゴクッ……ゴクッ……


……………………………ジュルッ


 


燃え盛る宮内で、

テュエルは黙々と血を飲み続けていた。


 


テュエル

「……飲み切りましたよ、

陛下………………………………」


 


口元から滴る血を、

手の甲で拭う。


 


その瞬間――


体の奥底から、

何かが溢れ出した。


 


濃密な生命の奔流。


 


それは力というより――

“満たされていく感覚”に近かった。


かつて感じたことのない、

圧倒的な力が、体中を駆け巡る。


 


………………………………

…………………………………。


 

 


ゆっくりと視線を落とす。


 


床に転がる、

双国王ダインの胴体。



その瞬間――

 


――ドスッ。


 


躊躇はなかった。


 


テュエルは腕を振り上げ、

そのまま左胸へと突き刺した。


 


肉を裂き。

骨を砕き。


 


そして――


 


心臓を、引きちぎる。


 

 


まだ温かいそれを、

静かに口へ運ぶ。



ぐちゃり、と

湿った音が響いた。



噛み砕く。

 


次の瞬間――



体が、びくりと跳ねた。



全身の奥で、

何かが弾けたような感覚が走る。



そして。


 

内側から、

爆ぜるような熱があふれ出した。


 

熱い。



砕ける。

焼ける。

壊れる。



体の奥で、

何かが組み替えられていく。


 


テュエル

「ぐ……ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 


絶叫が、燃える宮内に響き渡る。


 


その叫びと共に、

髪と瞳の色が、ゆっくりと赤く染まっていった。


 


やがて――


 


痛みが、ふっと消えた。


 


体は羽のように軽い。


 


視界は澄み渡り、

世界はまるで別物のように鮮明に見えた。



………………………………


テュエルは、

懐へ手を差し入れた。



取り出したのは、

猿の仮面。



それをゆっくりと顔へ当てる。



仮面が、

静かに素顔を覆い隠した。


そして、その仮面の下で――

何かが、完全に切り替わった。



そして――


 

双国王ダインの首を腰へ提げると、

燃え落ちる宮を背に、

静かに歩き出した。


 


やがて――


 


凱帝国の使者と、

大軍が到着する。



双国の兵は、宮を守る位置にはいなかった。


ダインの命により、兵たちは民を守るため麓へと降りている。


残されたわずかな兵も、無駄な衝突を避けるよう命じられていた。


凱帝国の大軍に対し、剣を向けながらも、じりじりと後退していく。



 テュエルは、

何も言わずにダインの首を使者へと差し出した。


 


その瞬間――



双国の兵たちが、どよめいた。


 


「……陛下……?」

「そんな……まさか……」



誰かが、

仮面の男を指差す。



「……あいつが……やったのか……?」



信じられないものを見るような目が、

その男へと向けられる。

 


だが――



猿の仮面の奥から、

声が発せられることはなかった。



使者

「ふっ……

たしかに。


……長い間、ご苦労であったな。“エール将軍”」



凱帝国軍がざわつく。



――エール将軍?



使者

「彼は、双国に潜り込んでいた密偵なのですよ」



使者は、

にこやかに笑った。


 


双国の兵たちがざわつく。


 


「密偵……?」

「誰だ……あの男は……」

「まさか、ずっと宮に……?」


 


不安と疑念が広がり、

兵たちは思わず一歩、距離を取る。



使者

「ところで……

レイラ姫は、どこに?」



エール将軍

「……………………」



無言のまま、

燃え落ちる城を指差す。



使者

「な……まさか……

死なせたのですか……!?」



顔色が変わる。



使者

「任務と違うことをして、どういうつもりだ!!

国王の首だけで、満足する方だと思うのか!?」



エール将軍

「……………………」



使者

「……口は、どうしたのです?!

その仮面……血まみれの姿……」



じっと観察する。



そして――



使者

「…なるほど。

国王に、喉でもやられましたか」



エール将軍は、

小さく頷いた。



使者

「……仕方ありませんね」



そして、

にやりと笑う。



使者

「ですが……


本当に双国に未練がないのか。

裏切っていないのか。


……判断材料が、もう少し欲しいですね」


 


エール将軍

「………………」



猿の仮面の奥で、

わずかに眉が歪む。



奥歯を、強く噛み締めた。

 


喉の奥で、

吐き捨てるような言葉が渦巻く。



【……下衆が】



その時だった。



凱帝国兵士

「ぐあっ!!」



後方が騒がしくなる。



――北部族長と、東部族長。



エール将軍は、

声のする方へ歩みを進めた。



ザッ……ザッ……ザッ……



北・東部族長

「陛下ーー!!

お助けに参りましたぞ!!」



兵を斬り伏せながら辿り着いた二人は、

エール将軍の手にぶら下がる首を見て――



顔色を変えた。



北部族長

「へ……陛下……!!

よくも……!!」



怒りのまま剣を振り上げる。

 


北部族長

「――はあぁ!!」


 


――次の瞬間。


 


エール将軍の拳が、

北部族長の腹を貫いた。



東部族長

「ひっ……!!

お前……よくも……!!」



震える声で叫び、剣を振りかざす。



だが――


 

その剣が振り下ろされることはなかった。


 

エール将軍の足が、

下から鋭く跳ね上がる。



――ガンッ。



剣は弾き飛ばされ、

東部族長の手から離れて地面へ転がった。


 


東部族長の視線が、

思わずその剣へと落ちる。


 


その、刹那。


 


――ドゴッ。


 


拳が、顔面を打ち抜いた。


 


東部族長

「ぐっ……!!」



体が地面へ叩きつけられる。



エール将軍は、

足元に転がったその剣を拾い上げた。



ゆっくりと歩み寄る。


 

倒れ伏す東部族長。



かつて、

身を置いた部族の長。



世話になったことも――

一度や二度ではない。



だが。



その足は、止まらなかった。



そして――



そのまま、東部族長の心臓へ。

剣を突き立てた。



深く。



迷いなく。



遅れて到着した西部族長セルガは、

その一部始終を目の当たりにし、立ち尽くした。


 

セルガ

「……お前は……」


「…テュエル……だろう?

俺には、わかる」


 

セルガ

「お前……

なにを……なにをしている……!!」



エール将軍は応えない。



心の奥で、かつて父と呼んだ男への僅かな躊躇がほんの一瞬だけよぎったが、理性と使命がそれを押し潰す。



ただ、静かに刃が振られた。



――ザンッ



放たれた斬撃は、一瞬でセルガの首を吹き飛ばす。



エール将軍

「……」



それを見ていた南部族長は、

完全に言葉を失った。


 

南部族長

「ぁ……ぁ……

ば……バケモノ……」



絶望に駆られ、

背を向けて逃げ出す。


 


南部族長

【なんだ……あれは……

死ぬ……殺される……


まるで……閻魔大王だ……!!】


 


背後から、足音が迫る。


 


…………………………ダッ


 


次の瞬間。


 


エール将軍の体が、

高く宙へ跳び上がった。


 


影が覆いかぶさる。


 


逃げる男の背後へ――


 


落ちる。


 


――グチャリ。


 


頭骨ごと、

踏み潰した。


 


エール将軍

「………………………………」


その場に、重苦しい沈黙が落ちた。


凱帝国軍も、双国の兵士たちも、もはや声を上げることはできず、ただ後ずさるしかなかった。


目の前で起きた異様な光景に、誰もが息を呑み、震える手で武器を握り直す。

 


兵士

「……バケモノ……

こえぇ……

本当に、味方なのか……?」


その声さえ、震えで途切れ途切れにしか聞こえない。


周囲には、ただ張り詰めた空気と、恐怖で動けぬ群衆だけが残った。



使者

「……素晴らしい」



震えを隠しながら、

ゆっくりと拍手する。



使者

「四部族長を、いとも簡単に。


これは、ソンゴル殿下への

良い手土産になりますな」



――だが、その胸中では。



別の計算が、静かに巡っていた。



【こんな存在とは聞いていない。

契約を誤れば、代償は命。


……だが、使いこなせれば。


凱帝国は、さらに強くなる。


煌龍国制覇も……夢ではない】


 


エール将軍

【…………………………

 レイラ様……


 どうか……ご無事で……】


 


 


――――――契約書――――――


 


一、

双国姫専属護衛テュエルは、

ダインの首を手土産とし、

名を捨て「エール」と名乗る。


 


二、

双国民には、決して手を出さない。


 


三、

双国の地を、破壊しない。


 


四、

エールを、凱帝国の政治に関与させない

(縁談等を含む)。


 


以上を反故した場合、

即時、敵対関係に移行する。


 


――――――――――――――――――


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