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「分類不能」その一言が、死刑宣告だった

 喚問された神木は――

 まるで意思を持つ生き物のように、蠢いた。


 大地が、呻く。

 地表が割れ、太い根が露わになる。


 蔦がうねり、枝が軋みながら伸びる。

 絡みつき、締め上げ、逃がさぬように――


 シャガルとテュエルの身体が、宙へと引き上げられた。


「……っ、ぐ……!」


 シャガルの喉から、抑えきれぬ低い呻きが漏れる。


 ――抜かれていく。


 妖力が。

 力が。

 誇りが。


 存在の芯を、根こそぎ抉り取られるような感覚。

 ただ奪われるだけではない。

 “在ること”そのものを否定されている。


レイラ

「シャガル!!」

「テュエル!!」


 叫びは、確かに届いている。

 だが――身体が、応えない。


 妖力を吸い尽くしたあと、

 神木はそのまま——喰らおうとする。


 それが、彼らの言う【浄化】だった。


 一方、テュエルは激しい吐き気に襲われていた。


 妖気はない。

 それでも、この場を満たす異質な力が、内側を掻き回す。


「……っ……」


 息が詰まり、視界が滲む。

 身体の奥が、拒絶反応を起こしていた。


 レイラは歯を食いしばり、刀を抜いた。


「……二人を…離せ……!!」


 駆け出す。

 妖なら――入れるはずだ。

 ――止められるはずだ。


 


 ――バチン!!


 

 乾いた音が、空気を裂く。


 次の瞬間、

 レイラの身体は、無慈悲に弾き飛ばされていた。


 レイラは息を詰まらせながら起き上がる。


(……弾かれ…た……?)

 

 

「……なぜだ……?」

 フゲンの声に、明確な戸惑いが滲む。

「妖であれば……拘束されるはず……」


 即座に、ジョウカが判断を下す。


「……ならば。人の結界を」


 光が張り巡らされ、神木を包み込む。


 レイラは、再び踏み込んだ。

 今度は、迷いなく刀を振るう。


 ――バチン!!


 レイラ

「がはッッッッ!!」


 衝撃――

 皮膚が裂け、血が弾ける。


 視界が揺れ、膝がつく。


(……人の結界にも……)


 ――入れない。


 ――妖の結界にも、

 ――人の結界にも。

 

 


 シャガル、テュエル

「レイラッ!!!!」「レイラ様ッ!!!!」

 


「……人間でも……ない……」

「妖でも……ない……」

「半妖でも……ない……?」


 困惑と嫌悪が、場を満たす。


  レイラは、はっきりと理解してしまった。


 

 (私は……)

――”どこにも、属していない”。

 


 カイホウが、吐き捨てるように言った。


「……分類不能……気味が悪い……」


 錫杖が、静かに——しかし確実にレイラへと振り上げられる。


 ――――


 レイラは、刀の柄を強く握った。


 ――だが。


(……違う)


 胸の奥で、何かが引っかかる。


 目の前にいるのは、人間。

 秩序を語り、法を掲げ、正義を信じる者たち。


 妖だから斬る。

 人だから守る。


 そんな単純な線引きで、

 世界を見たことなど――一度もない。


 悪しき人間なら、裁く。

 人に害なす妖なら、斬る。


 それだけだ。


(……戦う理由が、ない)


 だから――


 ほんの、一瞬。


 刀を抜くのが、遅れた。


「レイラ様!避け――!!」


 テュエルの声。


 避けられるはずだった。

 誰よりも、それを信じていたのは――テュエル自身だ。


 

 ——ガッ。


 ——シャン……。


「……っ……」


 鈍い衝撃とともに錫杖の音が鳴る。


 レイラの額から、血が流れ落ちる。

 


「……え……?」


 テュエルの声が、震えた。


 ――なぜ?


 答えは、

 レイラ自身が、痛いほど分かっていた。


 助けたい。

 ――だが、助けられない。


 ――妖にも。

 ――人にも。


 ――拒まれた。


 その事実がレイラの心でずっしりと重く

 巨大な重りとしてのしかかっていた

 


――「カイホウ、待て」


 フゲンが、静かに制止する。


 レイラを見据え、低く告げた。


「……そなた……もしや巫女か……?」


 一瞬の、沈黙。


「妖の身で……神聖力……いや……霊力……」


 そして——


「……どちらでもない者よ……」


 その言葉が、

“答え”として胸に落ちた。

——理解してしまった。


(……そうか)


(私は……最初から……)


誰にも、居場所を与えられていなかった。


 その理解が、

 胸の奥で、静かに致命傷になった。



「……やはり、妙だ」


 フゲンの低い声。


「妖でありながら、巫女の力を宿すなど……」


 スミが、怯えたように一歩下がる。


「……そんな存在……聞いたことが……」


 ジョウカが、淡々と結論を下す。


「理から外れた存在。

 ——ならば、理により処理するまで」

 


 ――ジャリ


 カイホウが、一歩踏み出す。


「結界がダメなら……俺がやる」


「化け物だろうが、神に逆らう者だろうが、関係ない」

 


 その目に、慈悲はない。


「――討伐だ」


 その掛け声を聞きフゲンが、静かに詠唱を始める。


 

「理により、命ず。」

 


フゲンが、低く唱える。


言葉と同時に、

術式が“脈打った”。


光が、降りてくるのではない。


――生まれる。


地面が割れ、

光が粘性を持って盛り上がる。


スミの前で、

淡い光が繭のように膨らみ、裂ける。


中から現れたのは、

人の形を模した“何か”。


顔はない。

翼だけが、完成されている。


ジョウカの術式でも、同じ光が蠢く。


光が骨格を形作り、

肉を持たぬ身体が、意思だけで立ち上がる。


――二体。


さらに、

フゲンの術式からも。


理を刻まれた光が、

神意の名を与えられ、固定される。


「——喚問。神意執行体”浄天史”しんいしっこうたいじょうてんし


声が重なり、

六体の神意執行体が、完全に“定着”した。


ただ、

標的を“処理”するために存在している。


感情はない。

躊躇もない。


カイホウを筆頭に、その全ての視線が――


一斉に、

レイラを捉えた。



レイラは、力無く立ち尽くす。


 

――世界が、敵になった

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