姫を狙う討伐者たち、 ──天墓使、現る
知らせを持ってきたのは、爺だった。
爺
「姫さま。
他国より……法師と巫女を名乗る者が四名。
謁見を願い出ております」
その声は、いつも通り穏やかだった。
だが——
レイラの胸に、微かな違和感が走る。
レイラ
(……また、だ)
理由のない、嫌な胸騒ぎ。
根拠はない。
だが、無視してはいけない感覚だと、身体が知っている。
レイラ
「……わかった。準備する」
そう言って席を立つ。
爺はいつもと様子の違うレイラに少し心配をし
背中を目で追った
――
謁見室。
高い天井。
整えられた空気。
そこに現れたのは、四人。
法師と巫女、と名乗る者たちだった。
年長の男が一歩前に出る。
フゲン
「フゲンと申します」
その隣に立つ、体格の良い男。
カイホウ
「カイホウです」
巫女装束の少女が、静かに頭を下げる。
スミ
「……スミ、です」
最後に、落ち着いた佇まいの巫女が一礼する。
ジョウカ
「ジョウカでございます」
礼は整っている。
言葉遣いも、丁寧だ。
——だが。
空気が、張りつめている。
レイラは玉座の前に立ち、淡々と名を告げる。
レイラ
「――双国王、代理。
レイラだ」
一拍置き、静かに続ける。
レイラ
「此度は……
どのような御用向きで?」
フゲンは、にこりともせず、しかし敵意も見せずに答えた。
フゲン
「この四人で、長く旅をしておりまして……」
視線が、レイラを測るように動く。
フゲン
「道中……どうにも怪しい“陰”を感じました……」
わざとらしく、間を置く。
フゲン
「この国に、何か……
“心当たり”はないかと、思いましてな」
——疑っている。
隠そうともしていない。
空気が、ぴり、と鳴る。
レイラ
(……やはり……)
内心で息を詰めながらも、表情は崩さない。
レイラ
「……さあ。
特に、思い当たることはないな」
あっさりと、受け流す。
だが、室内の空気は緩まない。
むしろ、じわりと圧が増していく。
レイラ
(……ここは……危険だ)
宮内で、もし——
万が一、彼らが力を振るえば。
そう考えた瞬間、レイラは自然に言葉を選んでいた。
レイラ
「……双国は、自然の美しい国だ」
一歩、前に出る。
レイラ
「せっかくだ。
外を案内しよう。
話は……歩きながらでもできるだろう」
探るような誘い。
だが——
フゲン
「ほう……それはありがたい」
即答だった。
スミも、ジョウカも、カイホウも、何も異議を唱えない。
——外の方が、都合がいい。
その確信が、レイラの胸に重く沈んだ。
こうして。
静かに整えられた“謁見”は、
レイラの胸に残る嫌な予感だけを置き去りにして——
別の顔を見せ始めようとしていた。
――
城外。
風が抜け、空が開けた場所。
そこで、彼らはようやく本題に入った。
年長の法師が、一歩前へ出る。
数珠を腕に巻いた男——フゲン。
フゲン
「つかぬことをお聞きしますが……
貴女さま……”妖”でいらっしゃいますね?」
レイラ
「……!」
心臓が、強く跳ねた。
次の瞬間だった。
フゲンが、迷いなく手を突き出す。
巻かれた数珠が、かすかに鳴る。
フゲン
「すみませんが……
貴女を、浄化いたします」
放たれた法力が、光となってレイラを襲った。
——その瞬間。
視界が反転する。
誰かに抱き上げられ、後方へ引き抜かれる感覚。
レイラ
「……っ!」
同時に、凄まじい衝撃音。
大鎌が振るわれ、法力を正面から弾き返す。
そこに立っていたのは——
シャガル
「……余の“姫”に
手を出すとは……」
低く、殺気を孕んだ声。
テュエル
「何か最初から様子がおかしいと思っておりましたが…
なんて……躾のなっていない訪問者でしょうか……」
レイラを抱えたまま、
テュエルの声音には、静かな怒りが滲んでいた。
レイラ
「テュエル……シャガル……」
——そして。
その場にいた四人、全員の視線が、
一斉にシャガルへと向けられた。
隠しようのない妖気。
圧倒的で、濃密で、
“最強”と呼ぶほかないそれ。
まるで——
探し求めていた獲物を、
ついに見つけたかのように。
フゲン
「……はは」
思わず、笑みが零れ落ちる。
フゲン
「なるほど……
姫を護る者が、この程度とは……
随分と、危うい国だ」
それは、明確な挑発。
レイラを、護衛を、
そして双国そのものを——
一息に侮辱する言葉。
シャガルの妖気が、
一気に膨れ上がった。
シャガル
「貴様……
余が、その歪んだ精神——
叩き直してやろう」
一歩、踏み出そうとする。
テュエルもまた、
はっきりと怒気を帯びていた。
だが——
レイラ
「やめろ!! シャガル!!」
鋭い制止。
レイラは、気づいていた。
これは——罠だと。
しかし、その声は。
——間に合わなかった。
スミとジョウカが、同時に術式を展開する。
シャガルが即座に大鎌を振るうが、
刃は結界に触れた感触すらなく、空を切った。
光が走り、
幾重にも重なった結界が、
シャガルを包み込んだ。
ジョウカ
「どうですか?
あなたのような上級妖には……
よく効くはずです」
スミ
「力が強ければ……強いほど……
動けない……」
シャガルは、
指一本、動かすことができない。
シャガル
「ぐっ…………!!」
レイラ
「……っ!」
テュエルが、結界を破ろうと踏み込む。
だが——
フゲンの法力が、それを阻み。
反射した光が、
そのままテュエルを弾きその結界へと包み込んだ。
テュエル
「がっ………………!!!」
レイラ
「シャガル! テュエル!!」
フゲン
「……?」
目を、細める。
フゲン
「あなた……
人間では、なかったのですか?」
一瞬、
何かに合点がいったように頷く。
フゲン
「なるほど……
確かに、純粋な人間の気配ではない」
そして、冷酷な宣告。
フゲン
「この結界は、妖にしか効力がありません…
故に――
あなたも……討伐対象です。
邪魔な者は、先に浄化しましょう」
一拍、置いて。
フゲン
「姫は……その後だ」
その言葉と同時に。
フゲン、スミ、ジョウカの三人が、
一斉に詠唱を始めた。
光が集束し、
やがて、形を成していく。
大地に根を張る、
神の木。
——喚問。
浄化のためだけに存在する、
神意の象徴。
絶望が、
音もなく、降りてきた。
そして、フゲンが静かに告げる。
フゲン
「我々は、公には名を持たぬ者たち」
数珠が、かすかに鳴る。
フゲン
「妖に、大切なものを奪われた者。
親を、兄弟を、恋人を、
帰る場所を失った者たちです」
冷たい視線が、三人を射抜く。
フゲン
「天より使われ、
妖を——墓へ送る者」
その名を、
初めて口にする。
フゲン
「——【天墓使】」
そして。
フゲン
「貴方方を……
浄化いたしましょう」




