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双国ノ巫女 〜九尾の力を持つ雪女の姫は、戦場でその力を解き放つ〜  作者: Su
出会いと誓い――護衛テュエルとレイラの軌跡
6/66

別れを告げる前に戦争が始まってしまった件


朝の風が、静かに部屋を吹き抜ける。

柔らかな光が障子越しに差し込み、髪をそっと撫でた。


ゆっくりと目を覚ます。


……隣を見る。


そこに、テュエルはいなかった。


一瞬だけ、昨夜のことが夢だったのではないかと思う。


けれど――


体をわずかに動かした瞬間、

下腹部に鈍い痛みが走った。


昨夜の名残のような、じんとした熱。


夢ではなかったと、

体が静かに教えてくる。


レイラは小さく息を吐いた。


やがて身支度を整え、部屋の扉を開ける。


すると――


まるで、いつもの朝のように。


テュエル

「おはようございます、レイラ様!^^」


そこには、いつも通りの笑顔のテュエルが立っていた。


レイラ

「……うん」


テュエル

「もう朝食、ご用意できてますよ^^」


レイラ

「……うん」


あまりにも、いつも通りだった。


まるで昨夜のことなど、

何事もなかったかのように。


少しだけ――


拍子抜けする。


ほんのわずかに頬が熱くなるのを感じながら、

レイラは視線を逸らした。


自分だけが、

昨夜を意識しているみたいではないか。


ほんの少しだけ、

拗ねたような気持ちになる。


――結局、言えなかった。

あとで言おう。


そう心に決めたはずなのに、

胸の奥が、なぜか少しだけ重かった。



食堂に入る。


朝の光が差し込む静かな空間で、

すでに席についていたダインがゆっくりと顔を上げた。


ダイン

「……………………」


その視線が、レイラの後ろに立つ男へと向けられる。


いつも以上に、鋭い。


まるで何か――

極めて気に入らないものを見つけたかのような目だった。


父上から、いつも以上に睨まれているテュエル。


空気がわずかに張り詰める。


しかし当の本人はというと――


テュエルは、いつも通りにっこりと微笑んでいた。


それどころか、どこか妙に晴れやかな顔をしている。

肌つやもよく、目元までやけに生き生きとしていた。


……なぜか、やたらとツヤツヤしている。


その様子が余計に、

ダインの眉間の皺を深くさせていた。


相変わらずの光景だ。


それを見て、レイラは少しだけ肩の力を抜いた。


むしろ――

安心してしまう光景だった。


 食事を終え、席を立つ。


自室に戻り、荷物を見直そうか――

そう思った、その時だった。


城門の方から、張り裂けるような声が響いた。


門番

「狼煙だーーー!!!

狼煙が上がったぞーーー!!!

凱帝国だ!凱帝国が攻めて来たぞーーー!!!」


次の瞬間。


警鐘が鳴り響いた。


カン、カン、カン――


けたたましい音が、宮中へと広がっていく。


兵たちの怒号、駆ける足音。

一瞬で、城の空気が張り詰めた。


レイラ

「……!?」


三日の猶予が、あったはずではないのか……?


どうなっている……!


テュエル

「レイラ様!!陛下の元へ!!!」


迷いのない声だった。


レイラはすぐに頷く。


二人は同時に駆け出し、

父のいる場所へと向かった。



ダインの前へ辿り着く頃には、

城内はすでに戦の気配に包まれていた。


兵たちが慌ただしく行き交い、

遠くではまだ警鐘が鳴り続けている。


その中心で――


ダインは、静かに立っていた。


ダイン

「……………………

予想だにしていなかったな。

使者を送る前に攻め込んでくるとは……

まったく、鬼人とはよく言われたものだ…………」


レイラは一歩前へ出る。 

そして、一度だけテュエルの方を見た。


レイラ

「ご心配なさらないでください。

私が目的なのでしょう。


私が向かいます。


民に被害が及ぶ前に、

早く行かせてください」


迷いのない声だった。


その言葉は、

まるで最初から決めていたかのように――

静かで、揺るがなかった。


その場の空気が、ふっと沈む。


外では警鐘が鳴り続け、兵たちの怒号が飛び交っているはずなのに、

この場所だけ、時間が止まったかのようだった。


やがて――

ダインは深く、重い息を吐く。


ダイン

「…………もうよい……もうよいのだ……

まさか、このような策を講じるとはな。

甘かった。 …ヤツの元へ、お前を送ろうとしていた私が、間違っていた……。」


「許してくれ……レイラ……」


その声は、王ではなく父のものだった。


その言葉が落ちた瞬間、

レイラは目を見開いた。


何を言われたのか、すぐには理解できなかった。


一歩、ダインが近づく。


次の瞬間――


強く、抱きしめられていた。


大きな腕が、逃がさないようにレイラを包み込む。


それは王としてではなく、

ただの父としての抱擁だった。


レイラ

「え……

……では、どうするのですか……」


状況が変わりすぎて、

言葉が追いつかない。


ダインはゆっくりと娘を離すと、

静かに振り向いた。


ダイン

「爺。

宮中にいる全ての者に伝えよ。

全員、宮から降りろ。

凱帝国の者が民に危害を加えるようなら、それを止めろ、と」


「……御意」


爺は深く頭を下げると、

すぐにその場を後にした。


レイラ

「父上は……

私は……どうすればいいのですか」


静かな声だった。


問いかけというより、

縋るような響きだった。


ダインは、すぐには答えなかった。

しばらく沈黙が落ちる。


やがて――


ダイン

「…………お前は……逃げろ」


レイラ

「………………?

どこへ逃げろと言うのですか。

私が逃げたら、どうなると思っているのですか」


声がわずかに強くなる。


だがダインは、

その言葉に答えようとはしなかった。


ただ静かに、目を伏せる。


そして――


ダイン

「父親らしいことを、

お前には何一つしてやれなかった。

父を……許してくれ」


その言葉で、悟る。


――聞いてくれない。


もう、決めてしまっている。


父の言葉は、覆らない。

何を言っても、無駄だ。


……それにしても。


胸の奥で、

何かがひどく痛んだ。


レイラ

「最期まで……

本当に、許してもらおうともしていないじゃないですか……

あまりにも身勝手です……

あんまりでは、ございませんか……」


声が震える。


視界が滲む。


こらえようとしても、

涙は止まらなかった。


ぽろりと――

一滴、頬を伝う。

ダイン

「……すまない」


短く、それだけを告げる。


その声には、

王としてではなく――

父としての重さが滲んでいた。


ダイン

「時間がない。

隠し通路がある。

ここに入り、出口を目指せ。

出たら、煌龍国を目指せ。

まっすぐ降りれば、関門の目を掻い潜り、国境へ出られる」


レイラ

「……選択肢は、一つなんでしょう?」


ダイン

「………………」


否定は、返ってこない。


レイラ

「父上……

……また、会いましょう」


ダイン

「………………あぁ……」


その一言が、

妙に遠く聞こえた。


レイラは、ゆっくりと振り向く。


レイラ

「……行こう、テュエル」


テュエル

「…ボクは……行けません…………」


レイラ

「………………………………」


――その言葉が、胸に刺さる。


ずきり、と頭の奥が痛んだ。


レイラ

「……お前まで……

なんなんだ………………」


テュエルは、

いつものように――


笑った。


テュエル

「レイラ様^^

大丈夫です。

ちゃちゃっと凱帝国をやっつけて、陛下をお守りして、

リュウコの安全が確保できたら――

レイラ様が、どんな場所にいようと、必ず見つけ出します。」


「それまで、しばしのお別れです。」


「ボク、かくれんぼで見つけるの、得意なの知ってるでしょう?

だから……隠れて、待っていてください。

必ず、お迎えにあがります」


その言葉は、

まるで最初から決めていた約束のようだった。


揺るがない声音。

変わらない笑顔。


何を言っても、

この男は動かない。


レイラは、そう悟る。


ゆっくりと、息を吐く。


レイラ

「………………

私を、いくつだと思っている……

……絶対、忘れるなよ」


視界が滲む。


涙が、止まらない。


テュエル

「ボクがレイラ様を忘れるなんて、

天地がひっくり返っても、ありえません」


レイラ

「……………………」


胸の奥が、きしむ。


――もう、あの頃の日常には戻れない。


ふと、

そんな確信が胸をよぎった。


テュエル

「……………………

……さぁ、行ってください」


その言葉に合わせるように、

ダインは執務机へ手をかけた。


重い机が静かに動き――


その下から、

人一人がようやく通れるほどの穴が現れる。


闇へと続く、細い通路。


レイラは、そこへ片足をかけた。


――そして、振り返る。


父と。

テュエルを。


二人とも、

どこかすっきりとした表情をしていた。


覚悟を決めた者の顔だった。


それを見て、


メソメソしている自分が

少しだけ、馬鹿らしく思えた。


ダイン

「レイラ。

目に見えるものだけを、信じるな。

……また、会おう」


レイラ

「…………はい。

必ず……また、会いましょう」


そう言って、

レイラは穴の中へと身を落とした。


すぐに、光は消える。


真っ暗な通路。


手探りで、壁をなぞりながら進む。


背後では、

もう誰の声も聞こえない。


それでも――


不思議と、怖くはなかった。


胸の奥には、

まだ温もりが残っている。


父の腕のぬくもり。


そして――


テュエルの、

あの笑顔。


――小さな冒険が、


いま、始まった。


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