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溺愛しすぎた護衛のせいで体調を崩したら、妖王が看病してくる話


――――――次の日の朝――――――


 テュエルは扉の前で、静かに待機していた。


 やけに機嫌が良く、にっこりとした表情はどこかツヤツヤとしている。


 落ち着かない様子をわずかににじませながらも、どこか浮ついた空気をまとっていた。


 しばらくして――


 レイラがそっと扉を開ける。


テュエル

「レイラ様!おはようございます!今日も皇務、頑張りましょう!^^」


レイラ

「腰が……痛い……体が……痛い……

 ……なんか……全身だるい……」


テュエル

「レイラ様?!だ、大丈夫――」


 昨日の出来事が脳裏によみがえり、テュエルは思わず頭を抱える。


テュエル

「……や、やりすぎたかもしれません……!」


レイラ

「……うぅ……皇務……」


 歩き出そうとしたその瞬間――


 その場で、膝から崩れ落ちる。


テュエル

「ぁあああぁ……レイラ様っ……!!ボ、ボクのせいで……っ……!!」


 自分を責めるテュエル。


 その背後から、ゆらりと影が差す。


シャガル

「おい!貴様!!レイラになんてことをしておる!!」


「無理をさせおって!!レイラの世話は余がする!!」


「貴様は反省していろ!!一生部屋から出てくるでない!!」


 言い放つと同時に、レイラを抱き上げる。


 テュエルは反論する間もなく、その場に崩れ落ちた。


 床に座り込み、静かにうなだれる。


テュエル

「……ボクの……せいで……」


(……止まらなかった……)


 ――自分でも制御できず、想いが溢れた。


 その事実に、動けなくなる。


 そのまま床に座り込み、うなだれるテュエル。


(……レイラ様……)



――――――



 シャガルはレイラを自室の布団へと運び、横たえる。


シャガル

「くそ……あの猿の臭いがこびりついておる……」


(脳裏に、あの猿の姿がよぎる)


(ウッキキと笑うような、忌々しい気配……)


「全く忌々しい……」


「レイラがこんな状態になるなど……どれほど無理をさせたのだ……」


 小さく息を吐く。


シャガル

「はぁ……」


(しかし今は、それどころではない。余が看病をするのだ)


 そう決意し、シャガルはその場を離れる。


 爺のもとを訪れ、看病の手順を問う。


 爺は「自分がやりますよ?」と静かに申し出るが、シャガルは「余がやらねばならんのだ!!」の一点張りで押し切る。


 結果、爺はため息混じりに基本的な看病の心得だけを教えることになった。


――――――――


 レイラは布団に横になっていた。


 顔はわずかに火照っている。


 そこへシャガルが戻り、氷嚢を用意して額に当てるが――


 水分の絞りが甘く、布から雫が垂れる。


シャガル

「レイラ!気持ち良いか?!」


レイラ

「顔に垂れてくる……」


 ――さらに、必要以上に布団をかける。


シャガル

「あたたかいだろう!」


レイラ

「……暑い……」


 続いて、鳥粥を作るつもりが――


 茹でた鶏肉そのままを差し出す。


シャガル

「どうだ!余の手料理だ!」


レイラ

「いや……流石にそれは……」


 水を飲ませようと、シャガルの手がわずかに震える。


 レイラはそっと手を添え、その動きを支えた。


 それでも、シャガルの中からは必死さと、献身的な優しい匂いが伝わってくる。


レイラ

(弱っているからか……?)


(シャガル……あんなに必死になって……)


 その様子に、レイラの心が静かに揺れる。


レイラ

「……シャガル……ありがとう……」


シャガル

「余が……余が看ると言ったのだ!」


「お前はゆっくり休んでおればよい!!」


「全く……妖のくせに、病などに負けるな。だらしないぞ」


 言葉は厳しい。


 だがその奥に、隠しきれないほどの優しさがにじんでいるのを、レイラは感じ取っていた。



レイラ

「……うん……」


「…ごめん。」


(不器用だけど……いいところもあるじゃないか……)


 そう呟き、レイラは再び静かに目を閉じた。


――――――


 熱にうなされながら、レイラは浅い眠りの中にいる。


 その手を、シャガルがそっと握りしめる。


シャガル

「レイラ……大丈夫だ……余がそばにおる……安心せよ」


 その時――うわ言のように、レイラが小さく呟く。


レイラ

「…………テュ……エル……」


 その名を聞いた瞬間――


 シャガルの瞳が、わずかに見開かれる。


 ほんの僅かに。

 だが、確かに――揺れた。


シャガル

「……っ……」


 握っていた手の力が、わずかに緩む。


シャガル

(……今朝のことといい……)


(レイラは、相当あの猿に心を許している……いや……)


(すでに……心はあやつにあるのか……)



シャガル

「…そんなにあいつがいいか……?」


「余では……ダメか……?」


「……何が足りない……?」


 誰に向けたわけでもない。


 それでも、押し込めるには収まりきらなかった想いが、言葉となって零れた。


 それでも――


シャガル

「……絶対に諦めぬぞ…」


「この先、覚悟せよ……レイラ……」


「必ず……余に惚れさせてみせる」


 そう言って、再びレイラの手を強く握りしめた。


 そして――


 どこか余裕を含んだ、不敵で優しい笑みを浮かべる。


――――――


 ふと目を開けると、傍にシャガルの姿がなかった。


レイラ

(シャガル……?)


(もう看病に飽きて行ってしまったか……)


 その時――


 戸が、静かに開く。


 いつものように乱暴ではなく、音を立てぬように。


 がらり、と控えめな音を立てて、シャガルが戻ってくる。


 桶と布を持ち、静かに近づくと、布をしぼり、レイラの額へと乗せた。


 もう、水は落ちてこない。


シャガル

「……!――レイラ……起きておったのか?」


レイラ

「シャガル……ずっと看てくれていたのか……?」


シャガル

「当たり前だ……余は一度言ったことは曲げぬ」


「――具合はどうだ?」


レイラ

「……シャガルのおかげで、だいぶ良くなった」


シャガル

「ふふん、そうであろう」


「余に出来ぬことはない」


レイラ

「くすっ」


シャガル

「……人間は全く、弱いな」


「早く元気になれ」


「瞳を潤ませ、顔を赤らめている今のお前も……悪くはないがな」


 そう言って、レイラの髪に触れる。


レイラ

「…………シャガル」


シャガル

「む?」


レイラ

「……犬になって……?」


シャガル

「……!? な、なんだいきなり」


レイラ

「……もふもふしたい」


シャガル

「も……!?」


(もふもふ……?!)

(な、なんだ……その甘美な響きは……)


 次の瞬間、即座に犬の姿へと変わる。


犬シャガル

(ふん……!これでよいのだろう……!)


レイラ

「……うん……」


 そのまま、ゆっくりと撫でる。


レイラ

(もふもふ…もふもふもふもふ)


犬シャガル

(ふぉぉお……♡これは……たまらん……♡)


 やがてレイラの手が止まる。


犬シャガル

(……?)


レイラ

「シャガル……一緒に寝よ……?」


 布団を開き、ぽん、と隣を叩く。


シャガル

(なんと……これは……頑張った余への褒美か……!?)

(こんなに…幸福なことがあっても良いのか…?!)


※いいんです。


 再び隣に身を寄せる犬シャガル。


 レイラのすぐ傍で、行儀よく伏せる。


 レイラはそっと手を伸ばし、その頭や耳を撫でる。


犬シャガル

(余は……このままで……いいのか……?)


(ゆ、許されるのか…?!)


※はい、今日は


レイラ

「シャガル……今日は本当にありがとう……」


 静かに微笑むレイラ。


 その言葉が、すっと胸の奥に落ちて――


 じんわりと、あたたかく広がっていく。


 今まで感じたことのない感覚に、わずかに息を呑む。


犬シャガル

(レイラ……余は……)


(なぜこれほどまでに、お前のそばにいたい……?)


 疑問を抱きながらも、ただ静かに呼吸を合わせる。


 互いの体温を感じながら、


 夜はゆっくりと更けていった。


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