手加減とはなんなのだ!!!?
レイラ一行は、四合目の入り口へと到着する。
村人
「姫さま!!朝も早くから、ようこそおいで下さいました!」
レイラ
「……不便をかけていたのに、遅れてしまいすまなかった。
さっそくだが、例の件はどこだ?」
村人
「はい、ご案内いたします。どうぞこちらへ……」
一行は里へと足を踏み入れる。
村人たちは、皇族の来訪に当初こそ警戒していたが、
レイラの穏やかな佇まいと、テュエルの丁寧な応対により、
次第に空気は和らいでいった。
しかし――
その平穏を、あっさりと打ち壊したのは。
言うまでもなく、シャガルである。
シャガル
「おい村の者!!
この木造の小屋……だいぶ傷んでおるぞ!!
余が補強してやろう!!」
村人A
「え、ちょっ……!?それは倉庫なんで――」
ドゴォォォォォン!!!
シャガル
「ふむ……やはり壊れたか。構造から見直す必要があるな!!」
レイラ
「………………シャガル………………」
シャガル
「な、なんだ?手助けしてやっただけだぞ」
テュエル
「………………………………」
額に青筋が浮かぶ。
牛舎にて――
シャガル
「ほう、これが人間界の獣か。マヌケな目をしておるな」
村人
「あ、それうちの牛なんで、触らな――」
シャガル
「だらしないぞ!!!獣たるもの、牙を見せよ!!
鍛えてやる!!」
バシンッ!!
牛が暴れ出す。
テュエル
「やめんか!!!」
村人
「ああああ!!うちの牛が!!」
レイラ
「………………………………」
(……頭が痛い……)
――――――――
テュエル
「いいか貴様……!!」
「手加減ができないのであれば――」
「もう貴様は、なにもするな!!」
「ここで待っていろ!!」
半ば強引に、里の外れの開けた広場へと連れて行かれ、置き去りにされる。
シャガル
「くそ……!!何がいけないのだ……」
「余は……手を貸そうとしただけなのに……」
……………………………………
シャガル
「……手加減とはなんなのだ……!!」
「全く……忌々しい……」
吐き捨てるように言いながら、ふと視線を落とす。
その横顔は、どこか不満げで――ほんのわずかに、寂しげだった。
……………………………………
ジャリ――――
そんな俯いたままのシャガルのもとへ、
砂を踏むような足音が近づいてくる。
???
「ねぇ??おじちゃん??」
シャガル
「……む?」
(……おじちゃん……?)
顔を上げると、そこには里の子どもたちの姿。
女の子
「おじちゃん、あーそーぼ!!」
シャガル
「…………遊ぶ……?
何をして遊ぶのだ?」
女の子
「えっとねー!!」
――――――
テュエル
「では、ここの用水路の修復計画は――」
村長
「はい、なんとか人手を集めております!」
レイラ
「……水の流れを一度止め、南の支流へ繋げた方がいい……」
――その横で。
村の広場から、激しい物音が響く。
ドッタンバッタン――
ドガァァァァン――
テュエル
「……………………嫌な予感しかしない……」
レイラ
「……シャガルだな」
テュエルは制止しに向かおうとする。
しかし――
目に入ったのは、予想とは違う光景だった。
シャガル
「はっはっは!!余を捕まえてみよ!!」
子供たち
「きゃー!!まてぇぇぇ!!」
木の上、屋根の上を駆け回るシャガルと子どもたち。
全員、泥だらけになりながら、無邪気に笑っている。
村人
「……あ、あの……お城の方……ですよね……?」
レイラ
「あぁ…………」
(一応な……)
テュエル
「まったく……どちらが子供なのだか……」
レイラ
「……ふっ……全くだな……」
ふわりと――
普段の彼女からは想像もつかないほど、穏やかで柔らかな笑みがこぼれる。
テュエル
「…………!」
(………なんて…穏やかな表情を……)
(……忌々しい妖め……)
(…くそ……羨ましい……)
――――――
やがて――
走り疲れた子どもたちが、縁側へと次々に倒れ込む。
シャガルも、その中心で大の字になった。
シャガル
「ふぅ……人間の子は元気だな……!」
「だが……もっと強くならねばならぬぞ、子供たちよ」
「悪しき者が来た時、返り討ちにできねばならぬ」
「子供だからと、侮るでないぞ」
子供
「はーい!!いっぱい鍛えるー!!」
「シャガルお兄ちゃん……また……遊ぼうね……」
シャガル
「……うむ……約束だ……」
そのまま――
誰からともなく、静かに眠りへと落ちていく。
子どもたちとシャガル。
同じように無防備な寝顔が、並んでいた。
――――――――――――――――――――
縁側に、橙色の陽光が差し込む。
泥だらけの子どもたちが、シャガルを枕にし、安心しきった顔で寝息を立てている。
さきほどまでの破壊神のような姿は、そこにはない。
ただ――
穏やかで優しい、“妖”でも“王”でもない、一人の青年の横顔。
レイラとテュエルは、その光景を静かに見つめていた。
テュエル
「……どうされます?」
(……頼む……レイラ様……)
(……どうか……置いていくと……言ってください……)
レイラ
「……今日は…帰りが遅くなりそうだな……」
くすり、と小さく笑みをこぼす。
テュエル
(………………終わった……)
しばし、そのまま寝かせてやった後――
ゴツンッ――と、容赦のない拳骨。
テュエル
「おい、そろそろ起きろ」
シャガル
「…………んむ……」
ぽり、と頭をかきながら目を覚ます。
起き上がると、子どもたちはすでに目を覚ましていた。
テュエル
「行くぞ、早くしろ」
シャガル
「もうそんな時間か……」
むくりと立ち上がり、レイラの馬へ向かおうとする。
女の子
「待って!!はい!!シャガルお兄ちゃん!これ、わたしが作ったの!」
シャガル
「む……?これはなんだ?」
女の子
「これはね!花冠っていうの!しゃがんで?」
シャガルは素直に膝をつき、目線を合わせる。
女の子
「はい!できたー!!」
子どもたち
「かわいいー!!」「きれいー!!」
シャガル
「冠か……!」
「余にぴったりだな」
満足げに頷く。
軽く手を振る。
シャガル
「ではな」
その瞬間――
子どもたちが一斉に駆け寄る。
子どもたち
「シャガルお兄ちゃん!」
「また来てね!!」
シャガル
「……!」
「……うむ。また鍛えに来てやる」
子どもたち
「やったー!!」
きゃっきゃと無邪気な笑い声が広がる。
その光景を、レイラは静かに見つめ――
ふわりと、優しく微笑んだ。
テュエル
「…………」
(…………また、その表情を……)
――――――
帰り道。
月明かりの下、馬を走らせる。
レイラの後ろに乗るシャガルの頭で、花冠がゆらゆらと揺れていた。
レイラ
「……ふっ……似合っているではないか」
シャガル
「ふふん。余は妖の王ぞ」
「似合わぬはずがなかろう?」
誇らしげに胸を張る。
テュエル
「お姫様のようでお似合いだぞ」
口角を歪めながら。
シャガル
「なにぃ……?!」
レイラ
「……うるさい」
シャガル
「…む……」
しばしの静寂。
やがて――
シャガルは、自身の花冠を外し、そっとレイラの頭へ乗せる。
レイラ
「……なんだ?」
シャガル
「うむ……やはりレイラ」
「お前のほうが、よく似合っておる」
「――花嫁のようだな」
レイラ
「……似合っていないと思うが……」
シャガル
「似合わぬはずがない」
「お前の美しさが、よく際立っておる」
レイラ
「………………」
テュエル
「……ええ、とても……お似合いですよ」
「そやつがつけているより、数万倍も素敵です」
シャガル
「貴様……」
テュエル
「事実だ」
レイラ
「…………はぁ……」
うんざりしたように、深く息を吐く。
レイラ
「…………もう着くぞ」
シャガル&テュエル
「……はい」
馬の足音だけが、夜に響く。
(……なんだ………)
シャガルから被せられた花冠。
それのせいか――
胸の奥が、どこかくすぐったく、落ち着かなかった。




