表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/67

犬になってレイラ様と寝ていた件


(俺の日常……それは、朝、レイラ様の目覚めよりも早く部屋の扉の前に立ち、待機するところから始まる)


(レイラ様がお目覚めになれば、ご挨拶を申し上げる)


(その後、食堂までご案内し、食事を終えられた後は庭へと軽く散歩にお連れする)


(そして執務室へ向かわれるレイラ様を護衛しつつ、必要に応じて皇務の補佐を行う)


(昼を迎えれば再び食堂へ向かい、昼食を取る)


(その後は人里へ降り、村人の声を自ら聞き、部族の稽古を見学し、あるいは自身の剣術を磨く)


(余暇の折には笛を吹いたり、時にはレイラ様と共に休息を取り、昼寝をすることもある)


(夕刻には城へ戻り、レイラ様が入浴される間に自身も瞬時に入浴を済ませ、すぐに護衛および補佐へ戻れる状態を整える)


(夕食の後は、就寝までの間に夜風に当たったり、共に読書をしたりして過ごす)


(そしてレイラ様がご就寝される時刻になれば、お見送りをし、その後は付近の警備に就く)


(睡眠という睡眠は取らない。警備中にオーラを巡らせ、外界を監視しつつ、目を閉じて休息とする)


(それが、俺のレイラ様専属護衛としての日課だ)


 そして、今日も朝を迎えた。


(そろそろレイラ様起床のお時間だ)


 自身の身なりを整え、匂いを確認し、鏡の前で笑顔を確認する。


テュエル

「……よし」


(問題なし……完璧だ)


 そしてレイラの自室へと向かう――――


――――


 レイラの自室前に着いたテュエルは、ふと足を止めた。


(……扉が、開いている……?)


 一瞬、思考が止まる。


(……気配が、なかった……?)


 背筋に冷たいものが走る。


(……殺気を感じなかった……だと……?)


(侵入を――許した……!?)


 血の気が引く。


テュエル

「レイラ様!!!!!!」


 勢いよく扉を開け放ち、そのまま室内へ飛び込む。


 息を切らしながら目に飛び込んできた光景――


 それは。


 布団の中で、レイラに抱き寄せられ、

 丸くなって眠る一匹の犬の姿だった。


テュエル

「……へ………………?」


「犬…………?」


(……飼ってたの……?)


シャガル(犬)

(まことに五月蝿い……幸せな朝のまどろみを邪魔するな、脳筋猿……)


テュエル

(……なぜだか分からないが、この犬……妙にふてぶてしいな……)


(犬のくせに…その顔……不愉快だ……しかし……どこかで見たような……)


レイラ

「…………ん…………」


テュエル

「レイラ様!」


レイラ

「……おはよう、テュエル……朝からどうした……」


 目を擦りながら、ぼんやりとした声で応じる。


テュエル

「いえ……自室前に着いたところ、扉が開け放たれていたので……侵入者かと……」


レイラ

「……あぁ………………」


 まだ意識がはっきりしていない様子で、視線が定まらない。


シャガル(犬)

(……レイラ……朝から無防備で愛らしいな……♡)


テュエル

(……寝起きのレイラ様……可愛すぎる……♡)


 レイラはぼんやりとしたまま、犬の頭を撫でる。


シャガル(犬)

(……なんという幸福……♡)


テュエル

「……レイラ様、その……そちらの犬は……?」


(……羨ましいな……犬め……)


レイラ

「……え……?」


「…………シャガルだが……?」


 空気が、凍りついた。


テュエル

「…………………………は……?」


シャガル(犬)

(……レイラ…気づいておったのか……?

 それでもなお撫でるとは……♡)


レイラ

「……?」


「この犬は、シャガルだぞ?」


テュエル

「……………………………………」


シャガル(犬)

(………………………………)


(……嫌な予感しかしない……)


テュエル

「…………ほぉ………………?」


 ゆらり、と空気が変わる。


 その気配に、犬の姿のままシャガルはびくりと震えた。


 咄嗟に逃げ出そうとする――が。


 ガシッ、と尻尾を掴まれる。


テュエル

「……きーーーさーーーまーーーー…………?」


「どうりで気に食わない犬だと思ったら……」


「………お前だったのか……」


「…………殺す…!!!」


シャガル(犬)

(ひぃぃぃぃぃぃ!!!!)


 妖の王が、本能的に恐怖するほどの殺気。


 耐えきれず、変化が解ける。


シャガル

「おい!やめろ!!やめろ!!!これでいいだろうが!!」


「まったく……本当に心が狭い男よ……!」


「レイラが犬を好むと聞いたから、添い寝して護衛してやったまでだ!」


「叱られるようなことなどしておらん!」


 胸を張って言い放つ。


 テュエルは、静かに一歩、踏み出した。


テュエル

「……言いたいことは…………それだけか………………?」


シャガル

「……へ……?」


 ――次の瞬間。


 ドカァァァァァァァァァァァァン!!!



シャガル

「ぎぃやぁぁぁぁあぁあああぁぁぁぁ!!!」



 その悲鳴は、宮内に大きくこだました。



 レイラ

「…………ふぁ……」


 小さくあくびをひとつ。


レイラ

「……朝から……騒がしいな……」



 ――――――――――――――――――――――――

 


食堂にて――


「はっはっは。また朝から賑やかで良いですな^^」


シャガル

「何が賑やかなものか!!

 こやつ……問答無用で斬りつけてきおって……!

 手心というものが分からんのか、まったく!!」


テュエル

「………………………………」


 未だ怒りは収まらない。


レイラ

「テュエル……何を怒っている……?」


テュエル

「……レイラ様が無防備すぎるからです。

 もう少し……姫である以前に、一人の大人の女性であると自覚をお持ち下さい……」


 抑えているようで、抑えきれていない怒気が滲む。


シャガル

「まったく……たかが添い寝くらいで、何をそこまで怒れるのか理解できぬわ」


テュエル

「たかがだと……?

 貴様……捻り潰されないと分からないようだな……」


 空気が震える。地を鳴らすような覇気が滲む。


レイラ

「……………………テュエル……悪かった……」


テュエル

「……何が悪かったのか、ちゃんと、理解していらっしゃいますか……?」


レイラ

「………………」


 小さく息を吐く。


テュエル

「……………………」


レイラ

「…………今日は、お前と寝るから……」


テュエル

「…………………………」


レイラ

「……機嫌を、直してくれないか……」


テュエル

「……………っ………」


レイラ

「……………………ダメか……?」


 わずかに視線を上げる。(上目遣い)


テュエル

「…………も、申し訳ございませんでした……♡

 で……出過ぎた真似を……♡」


「はっはっは」


シャガル

(チョロい男よ)


 ――――――――――――――――――――


「姫さま、リア姫さまから文が届いておりますぞ」


レイラ

「……!リアから?」


 ぱっと表情が明るくなる。


シャガル

(……誰のことだ……?やけに嬉しそうではないか……)


テュエル

(……リア様……?まさか……国へ戻ってなお、レイラ様を……?)


 わずかに空気がピリつく。


 レイラは文を開き、静かに目を通す。



――――――――――――――――――――――

【レイラ

本当は、直接あなたに会いに行きたかったのだけれど。

今の煌龍国の内情的に城から離れることができず、文を送ることしかできなかったの。ごめんなさい。


この間、双国の西側の空が禍々しく唸り、肌がひりつくような気配を感じたの。胸騒ぎが止まらなかった。

でも、その気配が収まったということは――レイラ、テュエル、爺、みんな無事ということよね?


レイラ、あなたはいつも自分のことを後回しにする人。

何かあったら私を頼ってね。


あなたのためなら、どこへでも駆けつけるわ。


また、あなたに会いたい。


            リア   】


レイラ

(……リア……やはり、あの時……心配してくれていたのだな……)


 ほんのわずかに、目元が潤む。


「お元気そうですかな?」


レイラ

「あぁ……でも…忙しくしているようだ」


「左様ですか……では、我らも気を引き締めねばなりませんな^^」


レイラ

「あぁ……そうだな……」


(私も……止まってはいられないな……)


レイラ

「……よし。今日は四合目西へ視察に行く。問題が起きているらしい。準備をするぞ」


テュエル

「はい、かしこまりました^^」


 先ほどまでの不機嫌が嘘のように機嫌が良い。


 レイラは外出用の衣に着替える。


 いつも通り、男物の着物に袖を通し、身支度を整える。


 その姿を見て、シャガルが首を傾げた。


シャガル

「……む?レイラ、前から思っておったが、なぜ男物の衣を着る」


レイラ

「ん……?どこか変か」


シャガル

「変ではない。ただ……お前は女であろう。なぜわざわざ男物を選ぶ」


レイラ

「……動きやすい」


シャガル

「…………はぁ」


「レイラ、お前は美しい。女であることを誇れ」


レイラ

「……?」


 いまいち理解していない顔。


シャガル

「妙な虫が寄ってきたら、余が払ってやる。安心せよ」


レイラ

「……あぁ……」


(何を言っているのだ……?)


テュエル

「…レイラ様は男物の衣がお好きなんです!」


 ぴくりと眉をひそめる。


「貴様が口出すことではない!」


シャガル

「…ちっ!貴様も口を出すでない!」 


(否定しかせんなこの猿は)



レイラ

「……はぁ……行くぞ」


シャガル

「……む。それで、何をするのだ」


レイラ

「現地に行かねばわからない。行くぞ」


テュエル

「はい^^」


シャガル

「うむ」


テュエル

「おい貴様……くれぐれも人里で問題を起こすなよ…?」


 怪訝そうに睨みつける。


「お前の起こした厄介事は、すべてレイラ様に降りかかる災いだと思え……」


シャガル

「ぐぬぬぬぬ……!余をなんだと思っておる!」


「人間の悩みなど、解決することくらい容易いに決まっておる!!」


 シャーシャー、ガルガルと、騒がしく言い合う二人。


レイラ

「…………うるさい……」


シャガル&テュエル

「………………」


 静まり返る空気。


 ――どうやら今日も、波乱の一日になりそうだった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ