表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/70

酒呑童子、馬に乗れず落馬する


 酒呑童子が護衛になったことを伝えに、爺の元へ向かう。


レイラ

「爺、入るぞ」


「姫さま?皇務は私めが――――……」


 ガタンッ!!


 連れている酒呑童子の姿を見た瞬間、爺は思わず椅子を倒して立ち上がる。


レイラ

「爺、こいつが私の専属護衛になった。準備を頼んでもいいか」


「………………」


(色々聞きたいことはございますが……)


「……かしこまりました……」


「……では、こちらへ……」


 流石の爺も、顔がわずかに引き攣っている。


酒呑童子

「あぁ?なんで余がこんな爺と行かねばならん」


レイラ

「…………早く行け……」


酒呑童子

「ぅ………………」


(……私の言葉は聞け、だったな……)


 しぶしぶと思い出し、大人しく爺の後についていく。


 ――


テュエル

「レイラ様!!どういうつもりですか!!」


「……あんなヤツを護衛など……!!」


「護衛ならボク一人で十分ではないですか!?」


「それとも……ボクだけでは不十分でしたか……」


(まさか……俺では足りない……?)


レイラ

「勝手に判断してすまない」


「だが、さっきも言ったが監視下に置いた方がいい」


「ヤツの興味が人間に向いているうちは……とりあえず大丈夫だろう」


テュエル

「………………」


(あんなヤツが……素直に言うことを聞くとは思えない……)


テュエル

「……納得できません……」


レイラ

「そうしたら解雇すればいい」


「それに……根は腐っていなさそうだ」


「もしかしたら……将来、助けになる存在になるかもしれないぞ」


テュエル

「絶対ありえません」


「性格も悪いですし……ボクは仲良くなんてできませんからね」


レイラ

「……苦労かけるな……」


(まあ、どうにかなるだろう)


 ――――――


酒呑童子

「はぁぁぁ?!?!なんだこれは!!」


「なぜ余が青い外套など着ねばならん!!」


「余には金、紅、黒が似合うというのに!!」


「……これは昔からの決まりですじゃ」


「ダイン陛下直属は赤、レイラ様直属は青」


「家臣は唐草色、兵士は黒となっております」


酒呑童子

「ぐ……!!」


「赤はあの古狐か……」


「して、青はレイラ様がお好きな色でございます…^^」


酒呑童子

「………………」


 少しだけ考え込み――


酒呑童子

「……うむ」


「どうだ爺よ、余も青が似合うであろう?」


「はい!よくお似合いでございます!」


「姫さまもきっとお喜びになられますぞ」


酒呑童子

「おぉ!そうか!」


「爺、レイラはどんなものを好む?」


「そうですなぁ……姫さまは……」


「海魚料理と……」


「……あぁ!、動物がお好きですな」


酒呑童子

「動物?どのようなものだ」


「私の知る限り、どの動物も分け隔てなく可愛がりますが……」


「中でも犬がお好きのようですな」


「……あ、食べるのではありませんぞ?」


酒呑童子

「海魚……犬……」


「わかった!!」


 目を輝かせる。


「ふふ……^^」


「あ、髪はこう結ぶのはいかがですかな?」


 長い髪をすくい上げ、全体を三つ編みに編み込んでいく。

 仕上げにそれを左側へ垂らすように整えた。


酒呑童子

「………………おぉ」


「悪くない」


「爺、お前わかっておるな」


 すっかり上機嫌で一人盛り上がる。


(姫さま……あなたの連れてきた護衛さんは……)


(意外と従順で、素直のようですぞ……)



――――――――



 爺

「姫さま、連れて参りました^^」


レイラ

「あぁ……ありがとう……」


酒呑童子

「どうだ?!似合うであろう!!」


 褒めてくれと言わんばかりに、目を輝かせる。


レイラ

「……………………」


(……圧が強い……)


(ここで否定するのは……面倒だな……)


 横で、テュエルが「否定してくれ」と言わんばかりの視線を送ってくる。


レイラ

「…………いいな……」


酒呑童子

「そうであろう!!」


「だがそれだけか?!」


「もっと他に言うことはないのか!!」


レイラ

「はぁ…………行くぞ…………」


テュエル

「はい、レイラ様^^」


 しっしっと、酒呑童子を手で払うような仕草。


酒呑童子

「ぐぬぬ……!!」


「爺!全然喜んでおらんではないか!!」


「はっはっは……まあまあ」


「あの方はああ見えて、かなり柔らかくなられたのですぞ」


「テュエル殿の時は、ノーコメントでしたからな」


「酒呑殿は“いい”と褒めていただけたではありませんか^^」


酒呑童子

「!!!」


「やはりレイラは余の方が上だとわかっておるのだな……」


「まったく……いじらしい……」


「……して、酒呑殿?」


酒呑童子

「なんだ?」


「……置いて行かれておりますぞ?^^」


酒呑童子

「……………………」


 ぽつん、と取り残される。


 

――――――



 レイラとテュエルはそれぞれ馬に乗り、草原を駆ける。


レイラ

「爺と打ち解けていたようで、よかった」


テュエル

「あれは爺殿の手腕ですよ」


「絶対に苦労されているに違いありません」


レイラ

「そうだな……礼をしないとな」


テュエル

「それにしても、あいつを置いてきて正解でしたね」


「レイラ様と二人きりの、こんな平和な時間を邪魔されるのは心外ですから♡」


レイラ

「…………」


テュエル

「……?レイラ様?」


レイラ

「……来たようだが」


テュエル

「は?」


 ――その時。


 どこか遠くから、やけにうるさい声が混ざる。


(……嫌な予感しかしない……)


酒呑童子

「おおぉぉい!!貴様ら!!」


「よくも余を置いていったな!!」


 宙を舞いながら追いかけてくる。


テュエル

「レイラ様の指示を聞かなかったのはお前だろう!!」


「邪魔をするな!!」


酒呑童子

「指示など受けておらん!!」


「だが追ってきて正解だったな!!」


「貴様と二人きりになどさせるか!!」


テュエル

「お前など居なくても何も困らん!!帰れ!!」


酒呑童子

「なんだと!!」


レイラ

「…………はぁ……」


(……まるで、犬と猿だな……)


 馬から降り、酒呑童子へ歩み寄る。


酒呑童子

「…む?どうした、レイラ」


レイラ

「……………………歩け」


酒呑童子

「ぅ………………」


レイラ

「人間を理解したいのだろう」


「ならば地を踏め」


酒呑童子

「む……仕方ない」


 ポスッと地面に降りる。


テュエル

「迷惑をかけるなよ」


 怪訝そうに目を細める。



酒呑童子

「ぐっ……!」


レイラ

「……馬には乗れるか」


酒呑童子

「乗ったことはないが、余にかかれば容易い!!」


「見よ!!」


「余の可憐にして優雅なる騎乗術を!!」


―――――――――



酒呑童子

「ぎゃあああああ!!!」


「暴れるな!!言うことを聞け!!」


「ヒヒーン!」


酒呑童子

「何だその動きは!!」


 跳ねた瞬間――


酒呑童子

「ぎゃああああ!!!」


 ドサッ!!


 派手に落馬。


酒呑童子

「ふざけるな馬め!!」


「消してやろうか!!」


テュエル

(……っ……くっ……)


 笑いを必死に堪える。


酒呑童子

「…はっ…!余の顔に土が……!!?」


 バンッ!!と地面を叩きつける。


「ぬぅぅ!!この地面……!!」


「…忌々しい!!余を汚すとは何様だ!!」


レイラ

「……っ……」


  その無駄に高いプライドと、あまりにも情けない現状の落差に、

 レイラは思わず吹き出した。


レイラ

「……ふっ……w」


酒呑童子

「何を笑う!!馬鹿にしおって!!」


「余は…このようなことでは屈しぬぞ……!」


 テュエル

「無理せずお帰り頂いて結構だ」


わずかに口角を上げ、愉快そうに目を細める。


酒呑童子

「抜かせ!!」


「こんなものすぐに習得してみせるわ!!!」



 ――――――


 気づけば、日は傾き、

草原はやわらかな夕焼けに包まれていた。


 酒呑童子の乗馬の練習は、まだ終わる気配がない。



酒呑童子

「もう一回だ!!」


レイラ

「……帰るぞ」


テュエル

「はい^^」


酒呑童子

「ぐぬぬ……」


レイラは馬上から静かに手を差し出す。


レイラ

「…………乗れ」


酒呑童子

「む?」


レイラ

「私の馬に乗れ」


テュエル

「レイラ様!!」


「走らせて帰せばよいでしょう!!」


レイラ

「……………」

(自分が乗せるとは言わないのだな……)


レイラ

「よい……乗れ」


酒呑童子

「……うむ」


手を取らせ、後ろへと乗せる。


レイラ

「大人しくしていろ」


酒呑童子

「うむ」


(…近いな……)


 静かに満足する。



――――



 帰り道――


レイラ

「お前……名はないのか」


酒呑童子

「そんなものはない」


「余は酒呑童子だ」


レイラ

「…そうか」


 沈黙。


 酒呑童子は腕を組んだまま動かない。


 だが、わずかに視線が泳ぐ。


酒呑童子

「……お前になら、名を付けさせてやってもいい」


テュエル

「貴様…!黙って聞いていれば!!」

「レイラ様に名付けてもらおうなど、そんな贅沢許さんぞ!!」


レイラ

「テュエル……」


酒呑童子

「余に似合う、勇敢で、凛々しく、

 男前な名前だ、いいな?」


レイラ

「…………………」


テュエル

「頼む立場でありながら注文が多いな!!」


酒呑童子

「なんだ?新しい名が羨ましいか??」

「…ならばこの場で貴様を冥界へ送り、転生させてやろう!」


テュエル

「臨むところ!次こそ勝負をつけて――」


レイラ

「テュエル……………」



テュエル

「…申し訳を……」


 わずかに俯き、ひと呼吸おく。


レイラ

「…………シャガル……」


酒呑童子

「……!」


レイラ

「シャガルでどうだ」


酒呑童子

「……シャガル……」


「……シャガル……」


 名を転がすように繰り返す。


 知らぬうちに、口元がわずかに緩んでいた。


「いい……!!いいな……!!」


「今日から余はシャガルだ!!」


 衝動のまま、後ろから抱きつく。


テュエル

「離れろ!!」


ピキッと音がしそうなほど顔を引きつらせる。


レイラ

「……今日は、頑張ったな……」


 頭を撫でる。


シャガル

「……!」


テュエル

(――――ッッッ!!!)


 喉元まで込み上げた絶叫を、無理やり押し殺す。


 声にならない。


シャガル

「……今のは、なんだ」


レイラ

「嫌だったか」


シャガル

「……いや……もっと撫でろ」


レイラ

「……?」


 わしゃわしゃ撫でる。


シャガル

「……へへっ」


テュエル

(……終わった……) 


 すでに半分ほど白骨化していた。



シャガル

(……人間界……悪くないな……)


 馬を走らせ、リュウコ城へと帰る道中。


 蹄の音と、風を切る音が静かに重なる。


 揺れる草原、傾きかけた陽、穏やかな景色。


 そのすべてが、不思議と心地よかった。


 気づけば――


 今日という一日を、悪くないと思っている自分がいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ