〜歪み〜 空が消えたと思ったら妖王がナンパしてきた件
風が山を伝い湖を渡り部屋の窓へと入り込む。
その風は、いつもよりもツンと刺さるような気がした
その風が頬を撫でて目覚める。
レイラ
「…………………」
もはや毎日の習慣、
扉を開けるとそこには――――
――ガラッ
テュエル
「レイラ様!おはようございます!^^
……嫌な夢でも見ましたか?少し顔色が悪く見えますが?」
レイラ
「…大丈夫だ、問題ない」
テュエルがいる
それが私の毎日の光景
テュエル
「そうですか?もう少し休まれます?」
レイラ
「いい、まだ皇務が溜まっている。
続きをしたい。」
テュエル
「…わかりました。休みを挟みながらやりましょう^^
ボクも手伝えることはしますから」
レイラ
「あぁ…ありがとう」
――――――――――――――――
爺
「…ぅーん。
……なんか今日は体がヒリつくような気がしますな。」
テュエル
「確かに、今日は外が静かで鳥や動物たちを見かけませんね。」
レイラ
「…………」
テュエル
「……レイラ様…?
もしや、何か感じておられますか?」
レイラ
「…わからない。ただ…胸騒ぎが…」
テュエル
「…少し、辺りを巡回して参ります。
門兵にも警備を厳重にするよう指示を致します。
宜しいですか?」
レイラ
「あぁ…、頼む」
テュエル
「すぐに戻ります。
レイラ様、くれぐれも城を離れないで下さい。
何かあったらすぐに兵士に指示をして下さい。」
レイラ
「あぁ……テュエル、お前も気をつけろ」
テュエル
「はい!行ってまいります^^」
馬で当たりを調査しに駆けていく
レイラ
「………………………………」
(なんだ……この、爺が先ほど言っていた)
(体の毛が逆立つような…ヒリつく……感じ……)
(大地が蠢いてるような…空気が……重い……)
レイラ
「…………っ……」
気圧頭痛のように頭が重い
爺
「…………姫さま……。
体に障りますぞ…中で休みましょう……」
レイラ
「…うん……」
(爺も辛そうだ……。
家臣たちは反応していないのに…………)
(なんだ…?)
(空気が……)
(澱んで……沈むみたいに……)
(……息が……重い……)
(……何か………………来る…………………?)
その時——
フッ……と、空気が“抜ける”ような感覚がした。
レイラは、はっと顔を上げた。
視界の端で、光がわずかに揺らぐ。
(……今の……)
次の瞬間——
空が、じわりと染まるように暗くなっていく。
影が落ちるのではない。
光そのものが、ゆっくりと飲み込まれていくようだった。
レイラ
「…………っ……!」
空が………………………………
真っ暗に………………………………
レイラ
「………………なんだ……」
家臣達もざわざわし始める
呪いだ、神が怒った、日食か?!と
(違う……)
(こんな……“自然の現象”じゃない……)
(空そのものが……変わってる……)
レイラの胸の奥で、はっきりと確信が落ちた。
(……違う………………………)
(来たんだ……………)
レイラは城の屋根へと登り、静かに空を見上げる。
風が、わずかに止んでいた。
(……)
鼻をかすめたのは——
酒の………………匂い………………
空気の奥に、濃く、重く、甘く、絡みつくような香り。
視線を上げると、そこに“それ”はいた。
白髪の長髪。
紅い瞳。
巨大な鎌。
そして背には特大のひょうたん。
宙に浮かび、こちらを見下ろしている。
「む?……………貴様…誰だ???」
レイラ
「…………………………」
(………)
(テュエルと……似ている……?)
理性の奥で、そう錯覚するほど整った佇まい。
紅い瞳。
どこか人ならざるものを思わせる色。
そして、テュエルにわずかに感じる
――あの、人のものではない気配。
だが、纏う気配はまるで別物だった。
「久々にヤツの気配がしたと思って来たのだがな……
気のせいだったか?…………いや…………待て」
次の瞬間――
男はふわりと降り立ち、レイラの目前へ。
距離が、消える。
「………………ふむ……」
指先が、顎にかかる。
逃げる間もなく、顔を覗き込まれる。
舐めるような視線。
測るような沈黙。
「……!」
(動けない……!?)
(押さえつけられているわけじゃない……)
(……なのに、体が……)
抵抗しようとしても、意識と身体が噛み合わない。
手を払いたいのに、腕が言うことを聞かない。
(この男……)
(……バケモノ……)
本能が、はっきりと告げていた。
「…ふっ、………なるほど……お前、あの狐の娘か」
レイラ
「!」
「久々にヤツの気配がした、
次こそは殺そうと思っていたんだがな……。」
「まさか子を成していたなど………はっ。
……だが面白い。お前…………いいな………
…余の女になれ。」
レイラ
「…………嫌だと言ったら?」
「む?余の誘いを断るつもりか?
………そうだな…。余のものにならぬなら……
食ってしまおうか……」
にやり、と口元が歪む。
レイラ
「……!」
「どうする?」
わずかに間を置いて、楽しむように続ける。
レイラ
「……………酒臭いヤツは…嫌いだ……」
一瞬、空気が止まる。
静寂だけが、重く沈んだ。
「……ふっ……面白い女だ……
……そして、美しい……気に入った……
…お前が欲しくなった。名はなんと言う」
レイラ
「……お前に名乗る名はない」
(こいつ……何者だ……)
(妖力……圧が……違いすぎる……)
(体が……上手く動かない……)
「……ふっ、……余の妖力で体が上手く反応できていないようだな……。だいぶ薄い……
人間の汚れた血など混ぜおって…愚かな……」
白髪の男が、再び顔を寄せる。
気配が、踏み込んでくる。
呼吸の距離まで、奪われる。
唇が——触れる、その寸前。
――ガガガガガガン!!!!
大きな爆音と共に、衝撃が割り込んだ。
空気が裂ける。
その余波だけで、周囲の圧が一瞬だけ押し流される。
白髪の男の身体が弾かれ、わずかに距離が開く。
その“隙間”に、ひとつの影が滑り込む。
テュエルだった。
無駄のない動きでレイラの前に入り込み、
視線を男へと固定する。
一拍、状況を測るような静かな間。
それから自然な所作で、レイラを引き寄せる。
逃がすためでも、守るためでもなく——当然のように。
テュエル
「レイラ様……ご無事ですか………………」
声は低く、落ち着いている。
レイラ
「テュエル……」
その声に、ようやく呼吸が戻る。
張り詰めていたものが、わずかに緩む。
テュエル
「……んで、こいつは……誰ですか?」
低く抑えた声。だが、言葉の端に冷たい圧が滲む
「…ほぅ、お前、レイラと言うのか。
これからその女を貰っていくところよ
…そこのお前、邪魔をするでない。」
テュエル
「レイラ様の名を気安く呼ぶな。バケモノめ」
「バケモノ呼びとは失礼極まりない。」
「余は、酒呑童子。
妖の王ぞ。貴様ら人間のような弱者など、蟻を潰すように容易いと思い知らせてやろう。」
テュエル
「……人だろうが妖だろうが関係ない。
レイラ様に手を出した時点で、貴様は敵だ」
「渡すつもりはない。
その首、ここで切り落とす」
(酒呑童子……妖の名ではないか……
逸話ではなかったのか……)
レイラ
「テュエル、気をつけろ……本物だ」
テュエル
「……っ!」
(レイラ様……顔色が悪い……)
(覇気か……?瘴気……? まさか妖気……?)
(……当てられているのか……?
まともに呼吸も……自由も効かない……)
テュエル
「…あの力は絶対に見せてはなりませんよ」
テュエルは小声でレイラに耳打ちする。
レイラは小さく頷き、それに応じた。
酒呑童子
「……?」
男の視線が、ゆっくりとテュエルへと移る。
値踏みするように、一度、二度と観察する。
「おい、貴様。お前、人間だな?気配が妖に似ているぞ……何をした」
テュエル
「……心臓を喰った」
「……はっ」
一瞬、間が落ちる。
それから、吐き捨てるように息を漏らした。
「やはり人間は強欲だな……実に醜い……
まさか、アイツ以外にそんなことをするような者が居るとはな……」
(アイツ……?)
酒呑童子
「まぁよい、気が変わった……」
次の瞬間、酒呑童子はレイラへと手を向けた。
緑の炎が瞬き、レイラを三角形に囲むようにして結界が形成される。
レイラ
「……ぅっ……!」
苦悶の声が漏れる。
テュエル
「レイラ様!!!!」
酒呑童子
「人間……、貴様を城に招待してやろう……
レイラの元へ無事辿り着けるかな……?」
その言葉と同時に、口角がゆっくりと持ち上がる。
にやり、と。
試すように、楽しむように——。
酒呑童子が大鎌を振るう。
その刃に、黒緑色の気配が纏わりついた。
妖力が滲む斬撃が、空間そのものへと放たれる。
――ズン、と。
何もないはずの場所に、見えない“裂け目”が刻まれた。
歪んだ時空が口を開くように揺らぎ、
レイラと酒呑童子の姿を呑み込んでいく。
レイラ
「テュエ――!!!」
その声は、空間に吸い込まれるようにして——
フッと、消えた。




