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双国ノ巫女 〜九尾の力を持つ雪女の姫は、戦場でその力を解き放つ〜  作者: Su
出会いと誓い――護衛テュエルとレイラの軌跡
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世界を知らなかった姫の、小さな旅の記録

旅を始めたきっかけは、ほんの気まぐれだった。


城の中にいるだけでは、世界はわからない。

そんな無知な姫が、どうやって国を良くできるのか。


――ただ、それだけの理由。


兄シンジュの反対を押し切って、私は城を出た。


条件は一つ。

信頼できる者を連れていくこと。


ロイロ。

シュシャ。

シアン。


それだけで、十分だと思っていた。


 


……甘かった。


 


最初の旅路で、私は思い知ることになる。


ロイロとシュシャが、私を庇って倒れた時。

自分の無力さを、嫌というほど突きつけられた。


 


――助けてくれたのは、名も知らぬ少年だった。


 


ぼろぼろの服。

荒れた手。

それでも、手当てだけは驚くほど丁寧で。


口は悪いのに、どこか優しくて。


 


「……別に、見返りとかいらないから」


 


そう言って、私たちを送り出そうとした。


 


――放っておけるわけがなかった。


 


シュンと、ポル。


 


あの出会いが、旅を“ただの気まぐれ”から変えた。


 



 


次に訪れたのは、賑やかで――

どこか、危険な匂いのする街だった。


 


そこで出会った男。


 


軽い口調。

笑っているのに、何も信用できない目。


 


ナイル。


 


最悪な出会いだった。


……いや、今でも最低な男だと思っている。


 


でも。


 


彼が持ってきた“情報”が、

この旅の意味を大きく変えた。


 


神殿襲撃事件。

あの日、すべてを奪った出来事。


 


それが――

事故ではなかったとしたら。


 



 


私たちは、真相を確かめるために動いた。


 


そして辿り着いた村は、

“地獄”だった。


 


人が、人として扱われていない場所。


 


許せなかった。


 


だから私は、潜り込んだ。


 


無謀だと分かっていた。

それでも、やらずにはいられなかった。


 


そこで出会った、ひとりの少年。


 


「……なんでそんなことすんの?」


 


どこか達観したような声。


 


「無意味だよ」


 


そう言われて、言葉に詰まった。


 


それでも。


 


「……それでも、やる」


 


そう答えた自分を、今でも覚えている。


 


 


その後は――


 


戦いがあって。

怒りがあって。

救えた命があって。


 


そして。


 


すべてが終わった後。


 


 


「あ、またあとでね」


 


 


そんな軽い言葉を残して、

あの少年は消えた。


 



 


次に会ったのは――


 


ほんの数時間後。


 


 


「だから言ったじゃん、“あとで”って」


 


 


隣にいた。


 


 


レオ。


 


 


あの時、私たちは初めて理解した。


 


この旅はもう、

ただの気まぐれでは終わらないと。


 



 


そして――


 


そんな私たちが最後に辿り着いたのが、


 


双国だった。



 


双国に向かったのは、ほんの興味だった。


かつて友好国だった国。

けれど今は、敵国――凱帝国の支配下にある場所。


どんな国なのか、

どんな人たちがいるのか。


少しだけ、知ってみたかった。


 


……その好奇心は、


すぐに後悔へと変わった。


 


霧の中。


視界が奪われたその瞬間――


“猿魔”が、立っていた。


 


気づいた時には、私は連れ去られていた。


 


 


助けに来たのは――


 


白馬の王子様のような人だった。


 


強くて、迷いがなくて、

まっすぐで。


 


……そう、思っていた。


 


 


けれど。


 


 


その人は――


 


 


双国の“姫”だった。


 


 


 


何も感じていないような、冷たい目。


 


それなのに。


 


誰よりも優しくて、

誰よりも慈悲深くて、


 


――そして、とても不器用な人だった。


 


 


 


さらに知った。


 


あの人は、人ではない。


 


 


――“妖”だった。


 


 


 


あまりにも神秘的で、

どこか遠くて。


 


手を伸ばしても、届かないような存在。


 


 


それでも。


 


 


私に向ける視線は、


驚くほどあたたかくて。


 


少しだけ、幼くて。


 


……どこか、可愛かった。


 


 


不思議な人。


 


でも、どうしても憎めない人。


 


 


 


あの人は、


私を守ってくれた。


 


命を救ってくれた。


 


そして――


 


友として、共に舞ってくれた。


 


 


 


たった数日の出来事なのに。


 


 


まるで、


一生分を詰め込んだような時間だった。


 


 


 


――また、会えるかな。


 


 


シンジュ。


 


あなたに、全部は話せないけれど。


 


 


早く話したい。


 


 


「私、ちゃんと見てきたよ」って――伝えたいの


 


 

 


その時だった。


 


隣で、レオがふと立ち止まる。


 


「……レオ?」


 


返事はない。


 


ただ、じっと――


 


双国の方角を見ている。


 


さっきまでいたはずの場所。


 


もう、とっくに見えなくなっているはずなのに。


 


 


「どうしたの?」


 


声をかけると、少しだけ間があって。


 


レオは、いつもの調子で笑った。


 


「んー……」


 


「姫姉ちゃん、これから大変だな」


 


 


軽い声。


 


けれど――


 


その目だけが、笑っていなかった。


 


 


「ちゃんと祈ってあげよう」


 


 


リアは少しだけ首をかしげる。


 


「……何それ」


 


「なんでもなーい」


 


レオはいつものように手をひらひら振る。


 


 


けれど。


 


ほんの一瞬だけ。


 


 


その視線は、


まだ“双国の奥”を見ていた。


 


 


 


リアは、それ以上追及しなかった。


 


 


ただ。


 


理由もわからないまま、


ほんの少しだけ――


 


胸がざわついた。


 





……でも。


きっと、大丈夫。


 


テュエルがいる。


 


 


そう思って、私は小さく息を吐いた。


 


 


風が、吹いた。


 


 


――ほんの一瞬。


 


 


双国の方角から、


 


 


甘く、重い、どこか“懐かしいような”匂いが流れてきた。


 


 


思わず振り返る。


 


けれど、そこには何もない。


 


 


 


――嫌な予感。


 


それだけが、胸の奥に残った。


 


 


 


レイラ。


 


 


また、あなたに会いたい。


 


 


 


そして――


 


 


次に会う時も――


 


 


どうか、


 


 


 


“まだ、あなたのままでいてほしい。”




そう、願ったはずなのに。


 


 


――なぜか。


 


 


“変わってしまう”気がしてならなかった。


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