追悼祭り〜魂の迎えと黄泉の舞〜
音が、ゆっくりと溶けていく。
太鼓も、ざわめきも、人の息遣いさえも——
すべてが夜に吸い込まれ、完全な静寂が落ちた。
その沈黙を裂くように、
レイラが狐の面を付け、一歩、祭壇の中央へ踏み出す。
衣の裾が揺れ、黄泉花の紋が灯りを受けて淡く光った。
次の瞬間——
澄みきった声が、夜空へと放たれる。
⸻
“”””天地の契り【あまつちのちぎり】””””
風の囁き、雨のしらべよ
草の息吹、土のぬくもりよ
我らは皆、天と地の間に生き
故人もまた、土に還りて
新しき命を授かるなり
橋を架けよ、繋ぎたまへ
彷徨う御霊を導きたまへ
尊きものよ、我らの前に集え
この舞、この歌、この想い
“”””永遠に繋ぎたまえ””””””
⸻
その歌声は、まるで風そのものだった。
耳で聴いているはずなのに、
頬を撫で、胸の奥を震わせ、
身体の内側へ直接流れ込んでくる。
誰一人、言葉を発することができなかった。
聴いていた者すべてが、ただ立ち尽くし、魅入られていた。
やがて歌声が夜に溶け、
再び、深い静寂が訪れる。
——長すぎる沈黙。
村人たちの間に、
かすかなざわめきが走り始めた、その時。
レイラ
「………………リア…………おいで…………」
静かに、確かに。
レイラはリアへと手を差し出す。
リア
「………………えっ??」
戸惑いながらも、リアは龍の面を付け、
一歩、また一歩と祭壇へ上がる。
そして、レイラの手を取った。
その瞬間――――
風が、吹き抜けた。
黄泉の花弁が舞い上がり、
無数の灯籠が、重力を忘れたようにふわりと浮かび上がる。
風の向かう先へ、皆が視線を向けた。
湖と地の間に——
黄緑色の、淡く柔らかな光の橋が、静かに架かる。
息を呑む音すら、許されない。
誰もが、感じていた。
今この瞬間、黄泉と此岸の境が溶け合っていることを。
レイラ
「リア……」
リア
「……うん……!」
言葉は、それだけで足りた。
二人は視線を交わし、
同じ決意を胸に、舞い踊り始める。
〜龍狐幻行〜
深き森にて眠れる魂よ
狐の舞、龍の翼に乗り
黄泉の川を渡りし時
我ら、そなたを導かん
草木と土、風雨と共に
我らは歩む、命の巡り
過ぎし日の想いを抱き
新たなる光へ送らん
狐は 影を照らし
龍は天に橋を描き
彷徨う御霊よ、恐れず進め
我らは友として共にあり
橋を架けよ、繋ぎたまへ
彷徨う御霊を導きたまへ
尊きものよ、舞い来たれ
永き時を超え、光と共に
リアは、その歌を知らない。
合わせたことも、教わったことも、踊ったこともない。
それなのに——
身体が、迷いなく動いた。
意識とは別の層で、
太古の記憶のようなものが、確かな導きを与えているかのように。
力強く、誇らしく、凛々しく。
その所作には、一切の迷いも恐れもなかった。
ただ、舞うことだけに意識が向いていた。
レオ
「……まさか……龍が……還ってきたのか……?」
(……すでに失われたはずの……)
(……壁画と……同じ光景だ……)
わずかに目を見開き、驚きに息を詰める。
レイラもまた、
父から手ほどきを受けた通り、
伝えられていた歌を、舞を、途切れることなく続けていた。
光の中を、懐かしい気配が行き交う。
“行き交う魂たち”が、
レイラの歌と舞に導かれ、微笑んでいるようだった。
レイラの袖が舞い、
リアの髪が流れ、
歌声が夜をやさしく包み込む。
それは——
夢の中の光景のように、静かで、美しかった。
村人たちは、
久々に会う故人と出会い、
泣き、笑い、言葉は交わせずとも触れ合った。
シュシャ
「なんと……美しい………………」
ナイル
「こんなことが……………………」
シアン
「魂が……導かれていく……」
レオ
「……………」
シュン
「……レイラ………………綺麗………………」
ロイロ
「……………………リア………」
自我を超えた、知らない表情。
それに不安を覚えながらも、
あまりに美しく舞い踊るリアから、目を離せなかった。
祭壇から少し離れた場所。
警護を続けながらも、
レイラに見惚れていたテュエルの前に——
見慣れた顔が、静かに現れる。
テュエル
「………………………………!」
「……………親父………ごめんな……」
言葉は交わせない。
だが、ぷんぷんと怒りながらも、
確かに息子の成長を喜ぶ、セルガの姿がそこにあった。
――――――
橋が架かってから、どれほどの時が流れただろうか。
レイラとリアは、
取り憑かれたように、二人で踊り続けていた。
初めてとは思えないほど、完璧に息が合い、
見る者すべての目と心を奪っていく。
——その時。
踊るリアの視線の先に、
ひときわ懐かしい姿が映り込む。
意識が、はっと現実へ引き戻された。
リア
「………………ちち…………うえ…………?
父上!!!!!!」
黄泉の橋の上で、
父リンドウが、穏やかに微笑んでいた。
レイラ
「!!!」
その隣には、
先王ダインと、恐らく母の姿。
二人は、
娘の成長と、儀式を成し遂げた誇りを、
何も言わずに伝えていた。
レイラ
「………………ありがとう……ございます。
父上、母上…………」
だが、舞と歌が止まったことで、
光の橋が、かすかに揺らぎ始める。
黄緑色の光の玉たちが、
風に乗り、空へと舞い上がる。
先刻までの幻想は、
光と共に、静かに消え去っていった。
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